農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 農協のあり方を探る−3
(対談)
農家組合員に最大のメリット与える改革を


山下正行 農水省経営局協同組織課
梶井 功 東京農工大学名誉教授


 シリーズ3回目は、農協組織の所管官庁である農水省協同組織課の山下正行課長に農協改革の方向についての考えを聞いた。改革の基本は、農家組合員に最大のメリットを与えることだと強調、研究会報告が打ち出した「全農中心からJA中心」の経済事業改革については、「JAの販売力強化に応じて段階的にすすめるべき」とし、国はこうした自主的な改革を支援していくなどと語った。


◆独禁法適用除外は必要な措置

山下正行氏
山下正行氏

 梶井 昨年、政府の経済財政諮問会議や総合規制改革会議でずいぶん厳しい農協批判が出ました。現代社会で協同組合が存在する所以を全く理解していないのではないか、と思われる批判もありましたが、農協行政を所管する立場で農協批判をどうお考えなのか、まずお聞かせください。

 山下 私が協同組織課長に就任したのは昨年の7月ですが、すでに農協改革については大きな課題となっていました。省内の議論でも、信用事業の改革は進んでいるが、営農経済事業は改革の計画を作ってもなかなか進まないと指摘されたり、また、担い手農家から生産資材が高いなどの不満も出ていました。
 そこで、省内でも検討しなければならないということになっていたわけですが、一方で、経済財政諮問会議などでも農協改革が取り上げられた。そこで議論になったのは、とくに農協と民間企業とのイコールフッティング論からの独禁法の適用除外の見直しです。
 私は、今の流れは市場主義、競争原理といったいわゆる経済原則を徹底するというもので、そうした政策環境のなかで農協問題が取り上げられたと思っています。
 しかし、重要なのは農協の役割と農協としてどのように経済活動にかかわっていくかです。そのためには、農協組織の実態をよく把握した議論が重要だと考えまして、総合規制改革会議から求められたヒアリングにも実態がよく理解されるよう対応してきました。
 その一方、いわば農水省の外の会議から指摘される前に農協を所管する役所としてしっかりと議論すべきではないかということで「農協のあり方についての研究会」を立ち上げたわけです。
 こういう経過があったわけですが、独禁法の適用除外の問題についていえば、協同組織に対して必要な規定が独禁法に盛り込まれている。ただし、今の制度でもすべての行為が適用除外されているわけではなく、不公正な取り引き行為については、これまでに公正取引委員会から違法とされた例や警告を受けた例もあるわけですね。
 ですから、言ってみれば、独禁法問題は今の制度を厳しく運用するということで対応できるということです。
 また、総合規制改革会議などでは農協というのは自主的な民間組織だということも強調しました。自主的な組織に対して国が、たとえば、組織の分割をせよとは言えないわけですね。そうしたことを説明したわけですが、昨年12月に総合規制改革会議で農協系統事業の見直しなどを盛り込んだ第二次答申が出されました。
 政府としては答申を尊重するという立場ですが、ただし、組織変更などを強制はできません。基本的な立場はやはり系統の自主的な改革、これは絶対やっていただかなければなりませんが、それをわれわれとしていかに促していくかだと思っています。

梶井 功氏
梶井 功氏

 梶井 農協も現に一般企業と競争しているわけです。大部分の農協の行為というのは他企業との競争のなかで組合員、そして自分たちが生き残るために必死に努力している。にもかかわらず農協は独禁法の適用除外を受け他との競争を排除しているという認識に立った批判はおかしいのではないかと私は思います。

 山下 農協が市場経済のなかで競争にさらされているという点はその通りですね。つまり、現在でも組織の性格からの要請を除けば民間企業とのイコール・フッティングは図られているはずなのに、さらに何が問題なのかという点については十分に検証されていないんです。研究会では、公正取引委員会から説明を受けて、委員の方々に議論してもらったわけですが、なかなか具体的にここが問題だということについてはっきりしませんでした。

 梶井 ですから、私は農協のあり方研究会では、総合規制改革会議などの議論は根拠がない非難だということをはっきり打ち出してもらいたかったと思っているんです。

 山下 総合規制改革会議に対して、ということでいえば、われわれとしては農水省のなかで農家組合員のための農協改革についてきちんと検討している、消費者に安心、安全な国産農産物を提供するためにも農協系統の改革の姿勢を見せる必要があるとの考えから、各層の方々に委員になっていただき、研究会で議論していただいたということですね。

◆改革支援のための措置農協組織と連携して検討へ

 梶井 さて、「農協のあり方研究会」報告書について伺いたいのですが、ひとつはあの報告の“おわりに”で農協法をはじめとする法令などの見直しを早急に行い、所要の措置を講じていくことが必要と記していますね。この「所要の措置」について具体的に検討されているのでしょうか。

 山下 この点については検討中で、実はまだどこをどうするのかといったことを言える段階にないんです。
 研究会の報告では基本的方向が提示されたわけですが、農協改革の理念として「競争原理が生かされる農協に」、「全農中心のシステムからJA中心のシステムへ」、さらに競争に打ち勝つためには「選択と集中」によって経営体としてのパフォーマンスを高めるといった趣旨のことが提言されています。
 それに加えて農協はこれまで計画は策定するがなかなか改革が進まないということから、農協系統の指導機関である全中が強力なリーダーシップを発揮して改革を進めるという提言もあります。
 改革は、基本的には農協系統自らが農家組合員のため、改革の必要性を十分に認識して、自ら改革に取り組んでいただくということが重要で、先ほども申し上げましたように、国が組織をああしろ、こうしろとはなかなかいえないわけですね。とくに今回の改革は営農経済事業が中心ですから、この分野はなかなか法制度になじまない。
 したがって、行政としてどういった手法があり得るのかを含めて今、検討しております。今後、農協系統の担当者ともよく相談して、改革を支援、促進するためにどんな手法がとれるのかといったことを詰めていきたいと思っています。

◆全農の機能はJAの支援が基本

 梶井 先ほども指摘されましたが、研究会提言のなかに「全農中心からJA中心へ」があります。JAの経済事業の強化はいいとしても、全農の機能はJAの補完機能に徹すべきということでいいのかどうか。JAの直接販売の拡大といっても、量販店や外食産業は全国チェーン化しているわけですね。仕入れにしても広域的統一的に行っていて、ある意味ではバイイング・パワーが非常に強化されている。それに対して個々のJAが対応するということだけではセリング・パワーが弱くなってしまうのではないかと思うんですよ。

 山下 ご指摘の懸念はよく分かります。ただ、生産者にいちばん近いJAが国産農産物の価値を消費者や実需者に対して的確に説明できるというメリットがあるわけですね。ですから、この問題はそれを生かしてJAの自己責任に基づいて、段階的に消費者などへの直接販売を拡大していこうということです。直接販売を100%にすべきということではなくて、これを拡大させていって結果的に多様な販売を行う。JAが創意工夫すべきということです。さらに直接販売によって把握した消費者のニーズを強く意識して生産現場にフィードバックするといったことで、産地づくりも推進していけるということです。
 そこで、ご指摘のような販売力の弱体化ということですが、全農の事業というのはやはり単協の販売事業を支援するということが本務です。何でも全農がやるから、ということでJAの芽を摘んでしまうということはまずい。ですから、方向として全農の機能はJAの支援に徹するということであって、JAの販売事業が改革されるにつれて段階的に全農もそういう方向になるんじゃないか、ということなんです。われわれとしても一挙に、つまり、JAの販売力が十分ではない段階で、全農の機能をJAの支援に特化させるといったことを考えているわけではありません。そんなことをすればなによりも農家組合員が困りますからね。
 研究会で議論していただいたことは、あくまでも農家組合員にとって最大のメリットを与えるということです。そのためにやはりJAが販売努力をして農家の手取りを増やすという方向で考えるべきではないかというのが基本です。

◆産地づくり促進する直接販売

 梶井 たしかにJAのファーマーズ・マーケットが功を奏する例も多くなっていますね。これはまさに車社会という現代社会の特徴を捉えた事業で、このような現代社会の状況に応じてJAが何をやらなければいけないかという点についての取り組みが弱い部分はあり、そこは強化しなければいけないのはよく分かります。
 しかし同時にJAだけですべてをカバーできるはずがない。とくに野菜などの主産地であれば広域流通になっていく。広域流通になったときにはJAとして対応するにはどうしても限界があると思うんですね。ですからそこは全国組織としての全農の役割になると思います。
 報告書では全農は「代金決済、需給情報提供などの機能に特化していく」とされていますが、たとえば、需給情報提供といっても、これは自分が商売として修羅場をくぐっていないと情報としていちばん的確なものは集まらないですよ。自分が取り引きをやっているなかで掴むものでなければ本当の情報にはなりません。

◆組合員への情報公開も課題

山下正行氏

 山下 JAの販売力がついてきたらそれに応じて体制を変えていくということです。もちろんここはいちばん大きな議論になるところだと思っています。
 ただ、昨年、農水省も農協の優良事例を取り上げて報告していますが、農協のなかにはこんな農協もあるのかというほど実にすばらしい農協もあるわけですね。そういった事例をベストプラクティスとして広める運動もしているわけです。すばらしい農協をみますと、たとえば大消費地にも販売ルートを設けるなどの努力をして大変活性化して、農家組合員が生き生きとして農業をやっているという例もあるものですから、ひとつの方向として今回、議論していただいたということです。
 いずれにしてもこれを提言として受け止めていただいて、系統のなかで十分議論して本当に農家組合員のために、また、最終的には食料自給率の向上にもつながることですから、真剣に改革に取り組んでいただくことが大切だと思います。
 それから、全農については偽装表示があり業務改善命令を出すなど指導を行ってきましたが、やはり問題は組織が大きくなってガバナンスが現場まで十分行っていないということだと感じましたね。消費者のために事業を展開することが農家組合員にとっても本当にいいことなんだということを現場レベルまで一体となって徹底してもらいたいと思っています。
 また、生産資材の原価などについて会員・組合員への情報開示も必要だと思いますね。

 梶井 たしかにそういう体質を変えるべき点が多々あると私も思います。だからこそ研究会では全農の機能の特化ということではなく、今、全農に発揮してもらわなければならない機能とは何か、欠けている点はどこか、ガバナンスやコンプライアンス、あるいは情報公開といったことを具体的な問題にすべきだったのではないかということを強調したいのです。

◆日本の農業の発展に貢献する改革を

梶井 功氏

 梶井 それからもうひとつ問題にしたいのは、全中に強力な指導力を発揮してもらうとなっていますね。たしかに全中は指導機関という位置づけなのでしょうが、経済事業の中心にはなれないでしょう。中心になるのはやはり全農だと思いますが。

 山下 その趣旨は分かりますが、全農に改革をすべて任せておくのではなく、とくに先ほど指摘されたガバナンスの問題もありますから、系統全体をみる全中が中心となって改革をまとめていただくということだが必要だと思います。

 梶井 最後に秋のJA大会に向けてJAグループへの要望を一言聞かせてください。

 山下 やはり農協組織というのは農家・組合員のための組織なんです。ですから、農協という組織を守るために知恵を絞るのではなくて、組合員にメリットを提供し、ひいては日本の農業・農村の発展に貢献できるための本当の改革をしていただきいですね。

 梶井 大事な点ですね。ありがとうございました。 (2003.5.21)

対談を終えて

 “生産者は…行き過ぎた産地間の競争には熱心でも、真の「敵」が外国の牛肉だということはわかっていないようにみえる”(「これでいいのか 日本の食料」家の光協会刊・129ページ)。
 これはフロリダ大学J・R・シンプソン名誉教授の、日本の和牛生産者に対する忠告である。JAレベルの経済事業改革・強化が重要課題であることは確かである。しかし、それが“行き過ぎた産地間の競争”のみをもたらすとしたら、かえってJA組織全体の販売力を弱めることになる。JAの販売力強化を全農の機能特化と結びつける課長の発言を聞きながら、シンプソン教授の忠告が頭をよぎった次第。“段階的”にということを強調されても、“代金決済、需給情報提供”が本来の機能といわれて、経済事業の第一線で働いている職員の改革意識は高まるだろうか。JA組織全体の販売力がどうやったら強まるかという観点から、JA・全農間の機能調整を検討すべきではないか。まだまだ論ずべき課題は多い。(梶井)



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