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シリーズ 農協のあり方を探る−8 |
食料・農業・農村政策への基本スタンス
農協はいかにあるべきか。ということを語るうえで、食料・農業・農村政策に対する私の基本的なスタンスをはじめに包括的に述べておく必要があると考えている。いうまでもなく、農協のあり方についての考察も、その一環としてとらえなければならないと考えているからである。私の基本的スタンスは大きく整理すれば、これから述べる5点に整理できると考えている。
農業は、人間の生存にとってもっとも基本となる農畜産物などの食料ならびに加工食料品の原料を生産し供給する役割をもっている。そして、当面する課題として、食料自給率を2010年に45%に引き上げなければならない。さらに、それだけにとどまらず、自然や国土の保全機能、人間形成・教育機能、さらに保健・休養機能などの多面的な公益的機能をもっている。そういう意味で、農業は生命総合産業であり、農村はそれらの機能を活かし実現する場であると考えている。日本の農協はいうまでもないことであるが、農村の地域社会にその存立の基盤を歴史的にもってきており、私の提起するこの第一の基本命題の実現のためにも主体的にも取り組まなければならないと考えている。 ◆第二 食と農の距離を全力をあげて縮める。 食の安全性を確保し、保証することは、いつの時代においても何はさておき基本的命題である。それが近年大きく揺らぎ国民・消費者に不信を招いていることは改めて述べるまでもないことであろう。BSE問題、偽装表示問題、無登録農薬問題等々。食の安全性に対する国民の不安と不信を一掃するために、政府としては食品安全基本法の制定とそれにもとづく組織・機構改革等を実施したが、当然のことながら、農協系統としても生産・加工履歴等の保証システムの確立と実行に全力をあげなければなるまい。さらに、農畜産物の流通システム等の改革を通じて、食と農の距離を縮めることに全力をあげなくてはなるまい。また、農業の六次産業化(一次×二次×三次=六次産業)を通じ付加価値の増大を地域にもたらし、女性起業や高齢者への楽農システムを作りだすことを通じ地域に活力を呼び起こすだけでなく、消費者ニーズに適切に応える道を創造しなければなるまい。他方、地産地消の推進や地域農畜産物による学校給食等を通じ地域との連携を強めるとともに、食と農の教育力の発揚にも寄与しなければなるまい。 ◆第三 農業ほど人材を必要とする産業はない。 どの産業分野でも人材をより多く必要としていることは充分熟知しているつもりである。しかし、農業の現状を直視し将来展望を行うとき、私は農業ほど人材を必要としている産業はないと考えている。では人材とは何か。詳しく述べる余裕はないが、(1)企画力、(2)情報力、(3)技術力、(4)管理力、(5)組織力の5つの要素の総合力を備えているのが人材であるという考え方に立っている。他の産業分野は、その多くは徹底した分業体制がとられているが、自然を相手にする農業は単純な分業体制では成りたたない。総合力が必要とされ、適確な判断力、実践力が必要とされるのである。そういう農業に基盤を置く農協はより総合力を備えた人材を必要としていることは言うまでもない。組合長をはじめとする理事等の役員はもちろん、職員にはさきにあげた5つの要素の総合力が不可欠であると考えている。そのための教育・研修などが欠かせないが、それらの点については項を改めて論じてみたい思う。 ◆第四 トップ・ダウン農政からボトム・アップ農政への改革に全力をあげる。 農政の立案に少なからず関与してきた私は常々、農政改革の必要性と緊急性にいろいろな場面でこれまで提案してきた。要するに中央集権的画一型農政を全面的に改め、地域提案型創造的農政の推進に全力を傾けなければならないと説いてきた。とりわけ、農業補助金制度改革の必要性と重要性については、今から25年前にすでに具体的改革提案まで含めて提示してきた(拙著『補助金と農業・農村』、家の光協会、1976年12月)。近年、ようやく補助金改革の胎動が見られるようになった。すなわち2000年に発足した中山間地域直接支払い交付金制度がその嚆矢であり、来年度予算から発足する米の生産調整等にかかわる補助金から産地づくり推進交付金への改革である。しかし、重要なことは、こうした補助金改革の路線を農業・農村の現場で活かす力量が必要となる。とりわけ農協系統は、従来、圧力団体活動を通して農業予算獲得のための陳情運動をくり返してきたが、いまやこういう運動の根底にある中央依存意識の徹底的改革と合わせて、自己責任の原則に立った地域提案型のそれも地域活力創造型の路線への決定的転換をしなけらばならないと考えている。これを一言で表現するならば、「適地適作、適地適策、適智適策」の路線でありこの発想を地域ごとに具体化することが喫緊の課題であると考えている。 ◆第五 共益の追求を通じて、私益と公益の極大化を図る。 日本農業の歴史的特質は共益の追求にあった。具体的には水利権、入会権、漁業権などのシステムにその特質が具現され、諸資源を食いつぶさずに維持・管理・保全しつつ持続的に生産活動に活かす知恵がもり込まれてきたように考えられる。こうした歴史的経験と蓄積の現代的意義を明らかにしつつ21世紀の現代と将来に活かす道を考えなくてはならない。ついでながら言えば、欧米、とりわけアメリカは公・私二セクター社会をその特質としており、共益追求のシステムや発想は全く欠けているのが特徴である。 ところで、共益の追求という点では水利権などの資源管理の分野だけでなく、農協や農業生産法人も共益の追求をめざしている組織である。このことは項を改めて再説することにしよう。ただし、強調しておきたいことは、共益の追求はあくまでも手段であって目的ではないことである。目的はいうまでもなく、私益と公益の極大化にある。このことを取り違えてはならないことを強調しておきたい。 農協改革の本質を見極める ◆第一 JAは平均像で語ることはできない、また、語るべきではない。 私は、古い順からいって、JA―IT研究会代表委員、JA改革推進会議議長、農協のあり方についての研究会座長、というかたちで、近年、農協および農協関係者とさまざまな交流をもっている。はじめのJA―IT研究会というのは全く自主的な研究団体であって2001年9月8日の創立総会で発足し、これまで7回にわたる公開研究会、そして3回に及ぶ専門研究会を重ねてきている。この研究会は私が20年前から全国にわたりすすめてきた農民塾、村づくり塾の農協版、つまり「農協活性化塾」とでも呼ぶべきものである。 JA改革推進会議は全中が設置し、第22回JA全国大会の決定事項の実践状況を点検し第23回大会にその討議の成果を生かそうという構想のもとに2002年1月に設置され、農協関係者の他に他分野から委員は構成されている。 「農協のあり方についての研究会」は農林水産省に設置され、さる3月28日にその検討結果を報告書にまとめて、農林水産大臣に提出したので、あえて説明しなくてもお判りいただけよう。 さて、こういうそれぞれ性格の異なる研究会や会議を通してJAを直視し、私なりに分析したみた一つの結論は、ある意味ではきわめて常識的なことかもしれないが、JAは平均像、標準像で語るべきではない、あるいは語ることができないということである。 私なりに結論を先に提示してみればこういうことになる。現在約1000あるJA(正確には7月1日現在934)を大胆に分類すれば、200、600、200、となる。 はじめの200JAは、事業活動を積極的に展開し、活力に充ち、経営もそれなりにおおむね安定しているグループである。あとの200JAは、症状重く大手術をしなければならないという診立てである。残りの中間の600JAは両者の中間に位置するが、事業と経営そして組織の改革に全力をあげなければ下位200に転落しそうな危機をはらんでいるものも多いという実感をもっている。 しかし、上位200JAのうちトップ50に数えられるJAは、農畜産物の生産・販売戦略について自らの創意工夫を重ねて開発し、生産者組合員の活力を促し、安心、安全な農畜産物を消費者に届け、食と農の距離をいかに縮めるかということに全力をあげている。いうまでもないことであるが役員も職員も一体となって、生産者組合員はもちろん消費者にも選択してもらえるようなJAになるよう全力をつくしている。そして、こういうトップ・クラスのJAは、さらに新しい情報を集めノウハウを吸収し、新しい時代のJAのあるべき姿を求めてJA―IT研究会に自腹を切って参加した熱心な討議を行っているのである。それらのJAの活動の内容は「農村文化運動」(農文協刊 季刊)のバックナンバーを通して勉強してもらえば納得できるであろう。他方、下位に位置する現状にあるJAこそが、例えばJA―IT研究会に出席して研鑽に励んで欲しいと思うのであるが、残念ながらそういうJAに限って自らの道を自らの努力で切り拓こうとしていないのである。 JA改革の当面する最大の課題は、底辺に沈滞しているJA群をいかに引きあげるか、つまり、ボトム・アップという課題ではなかろうか。いくら立派な決議を決定しても、それを実行する意欲や体制を備えていないJAには、役に立たない、つまり、「絵に画いた餅」にすぎないのである。この3年間の私のJAにかかわる活動を通して痛感していることである。すぐれたJAの研究や分析も必要であるが、劣位に取り残されたJAを総合的に診断し、どうすれば健康なJAになれるのか、その診断と療法の処方が緊急を要する課題ではなかろうか。こういうことを痛切に近年感じている。 これまで、本紙に連載されてきた農協改革についての論文や討論、座談会の記事を読ませて頂いたが、いずれもJAの平均像、標準像について論じられていて、ピンからキリまである1000JAの実像にきびしく迫っていないというのが私のいつわらざる感想である。是非とも読者の皆さんの意見を聞かせていただきたい。 (次回につづく) (2003.7.17) |
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