第六、計画策定にあたり、以下の10項目すべてについて、役員、職員、組合員の全智を傾け策定し、合意を作り実践する(承前)
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いまむら・ならおみ 昭和9年大分県生まれ。前日本女子大学教授、東京大学名誉数授。元日本農業経済学会会長。東京大学大学院博士課程修了。著書に「人を活かす地域を興す」「農業の活路を世界に見る」「補助金と農業・農村」(第20回エコノミスト賞受賞)「揺れうごく家族農業」「国際化時代の日本農業」「農政改革の世界的帰趨」(編著)など |
3、何を
(1)水田農業ビジョンを策定するのであるから、米をどう生産するのかということが当然基本となるが、それだけでは視野が決定的に狭い。地域農業全体で、何を基本にすえ、いかなる産物を組み合わせて生産するかを策定しなければならない。もちろん、本命の米については、どういう品種を、また早・中・晩をどう組み合わせて生産するか、種もみは2年前から予約することを前提に策定しなければならない。
(2)消費者、実需者の求めているのは何かを徹底して調査し、他方では、それぞれの地域のもつ潜在的可能性を引き出し、その両者の接点を見極め、地域の農業生産の新しい方向を大胆に打ち出すべきであろう。
(3)もちろん、大都市の消費者を念頭に置くだけでなく、地消地産、学校給食等、地域内の消費者のニーズも巧みに取り入れ、また、地域の食文化の継承、食を通した教育力の発現などにも視野を広げ、作目の選定を行うべきであろう。
(4)要するに、「適地適作」と昔からいわれてきたことに加え、地域の生産者に受け入れられる路線、つまり「適地適策」を推進し、さらに、地域の生産者の英知を生かし、立地特性を活かした作物選択を行うとともに、その内発的エネルギーをかきたてる路線、つまり「適智適策」の方向を、それぞれの地域で作りあげよう。
(5)近年、生鮮農産物、農産加工品等の輸入が季節変動を伴いつつも増加してきているが、それらに対抗し、打ち克つべき生産戦略も合わせて策定しなければならない。
4、どれだけ
(1)各作物の生産量、つまりどれだけ作るかということは、消費、需要予測にもとづき自己責任の原則にたって決定しなければならない。
(2)とりわけ、米については、従来のトップ・ダウン方式で国が指示してきた生産調整面積(生産量)を配分し、決定する時代は終わった。これからは、国が策定する基本指針(需給見通し、備蓄量など)を踏まえて、農業者団体などが自主的・主体的に生産調整を行う方式へと移行する。具体的には、農業者団体などが自らの判断の下で生産調整方針を策定し、その策定に当たり、国・地方公共団体は助言・指導を行うこととされている。ただし、これまでの経緯もあり2007年までは、国と農業者団体が一緒に生産目標数量を配分することとされている。
以上のことを踏まえて、各JAは米の生産量を最終的には自らの責任で確定しなければならないことになった。
(3)当然のことであるが、「いくら作るか」ということは、「いかに売り抜くか」ということと常に結びつけて考え、その生産量を策定しなければならない。
(4)その場合、消費者一般だけではなく、多様な展開をみせている食品産業、外食産業、給食産業、あるいはスーパーやコンビニなどの小売産業等の需要動向を重視し、それらへの対応を、のちにのべる販売戦略の開発と合わせて、JAの路線を策定する必要がある。
(5)その場合、米にかぎらず他の多くの農畜産物についても、独自のブランドを確立し、それぞれの生産目標を策定すべきであろう。
5、どういう品質のものを
(1)4つの「安」が基本であると考えている。すなわち、「安全」「安心」は当然のこととして、安定供給という内容の「安定」、それから市場競争力を持つという意味での「安価」の4つの「安」である。
(2)もちろん「安価」とはただ安ければよいというのではなく、市場競争力を持ち、かつ、適切な価格つまり再生産可能な水準を確保する必要があり、JAの販売戦略の真価が問われることになる。
(3)もちろん、生産履歴(トレーサビリティ)の証明とその明確化が問われるが、それを保証、担保するシステムをJAとして全力をあげて作りあげなくてはならない。
(4)消費、需要の動向を注視すると二極化傾向、つまり高級品と普及品との分化が近年見られるようになっていると思う。このことは健康志向などとも関連させて、なお今後の市場分析を通して研究を深めてみる必要がある。
(5)1つだけ気になっている例をあげておこう。例えば、みかんについて高糖度志向による選果や市場対応が一般的な動きである。しかし、いまや糖尿病患者とその予備軍は1620万人と厚労省が推計、公表した。ある給食産業事業者は糖度7度以下というみかんはすべて廃棄されてどこにもないと嘆いていた。糖度の低い果実類が価値を持つ時代となった、ということまで頭を研ぎすませて計画を策定してほしい。
6、どういう技術体系で
(1)「技術を活かすのは、人材である」という基本視点を徹底して、JA管内の地域特性も踏まえて技術体系を策定してほしい。さきに述べたように、JA管内には、青年、中堅、女性、高齢技能者、新規参入者等多様な人材がいるはずである。それらの人材をいかに活かすか、そのための技術体系を地域特性も踏まえて策定すべきであろう。
(2)その場合、特に重要な視点は、稲作、大豆、麦等の土地利用型高生産性部門の技術体系の改善と野菜、花卉、果樹等の集約部門の技術体系をそれぞれ組み立てるとともに、いかに新たな結合関係を作り、周年就業可能な体系を創りだすか、改めて検討をしてほしい。
(3)技術体系の策定に当たっては、先人の培った智恵の結晶である「伝統技術」をいかに現代に生かすか。また技術進歩の著しいいま、実用可能な「先端技術」にいかに挑戦し、実用化し、地域農業の発展に資するかという視点で取り組んでほしい。例えばJA越後さんとうの人工衛星活用の実践に学んでほしい(「農村文化運動」NO・167、参照)。
(4)また、付加価値の増大をめざす農業の六次産業化(1×2×3=6)部門の技術開発と安全管理体系の確立は当面する重要な課題である。
7、いつ作り
(1)技術進歩の中で栽培時期、収穫時期、出荷時期などは大きく変わってきた。いかなる時期に生産し、販売するか、農産物加工(六次産業化)などと合わせて、そのシステムを策定する必要があろう。
(2)とりわけ、輸入生鮮農産物などとの競合などにも留意する必要があろう。
(3)市場の需要動向、競合産地などの動向も踏まえて、「種子を下ろす前に、売り先、売り方、売り場、売り値などを考え、販売戦略を開発し実行する」という観点に立ち、いつ作るのが有利かということを方向付けよう。
8、どのような方法でいかに売るか
(1)JAがこれまで進めてきた無条件委託販売方式を典型とする販売戦略を全面的に再点検して、新しい販売戦略と戦術を確立することが必要である。その場合、食と農の距離をいかに縮めるか、生産者組合員の手取りの極大化をいかに図るかということに基本視点をおかなければならない。
(2)その1つの基本的視点として、私はP−SIX理論を述べたことがあるが、ここでは紙数の制約で省略せざるを得ない(「農村文化運動」NO・163を参照してほしい)。
(3)とりわけ、食の外部化(外食、中食、給食産業等)に対応する商品化、ブランド化、特選産地化等をすすめ、安定供給のシステムを構築する必要がある。
(4)米については来年から計画流通制度廃止に伴う自主流通米価格形成センターは抜本的に改革され米穀価格形成センターとなる予定であるが、それに対応して、米の販売戦略をいかに構想し具体化するか、抜本的検討を進めてほしい。なお、米穀価格形成センターの入札システム等は本年度末に公表される予定である。
(5)販売戦略の策定に当たり、私がこれまで提起してきた1つの視点は、リスク最小の原則として「3・3・3・1の原則」がある。これも参考にして販売戦略を構想し実践してほしい。簡潔に紹介する。はじめの3割は、直売、直販、地消地産など。次の3割は、契約販売、契約生産など(例えば、JA甘楽富岡のインショップ、総合複合相対取引など)。次の3割が中央・地方卸売市場出荷。最後の1割が1〜2年先の消費・需要動向を先取りし試作・販売して、新しい作目選定や販売戦略に活かす。もちろん、この比率は、実情に即して若干変更しても構わないが、原則的視点だけはきちんと押さえておいてほしい。
(6)さらに、全力をあげて取り組んでほしいことは、これまでのような無駄な産地間競争を排し、JA間協同、JA間連携の方向、つまり水平的結合の新地平を切り拓くべきだと考えている。
(7)JAの正・准組合員数に平均世帯人数2・6人を掛けると約2400万人になる。つまり、国民の2割弱がJA傘下にいる。言わば、JAの足元は、食料品、農産物を消費する消費者の宝の山ということである。農産物販売戦略は、例えばこうした現実を直視し、分析し、その路線を策定すべきだと考えている。
9、そのために産地づくり推進交付金等をいかに活かすか
(1)以上述べてきたことを総合して検討するならば、産地づくり推進交付金制度を真に活かす絶好の機会であるととらえて、地域農業の再編と改革、そして活性化のためにいかに活用するか、その検討と実行方策に全精力を注いで確立しなければならない。
(2)すなわち、米をめぐる問題だけに限定するのではなく、地域の農業生産の構造、経営構造の改革などの将来像を描きつつ、その実現のための有効な手段として、産地づくり推進交付金を地域の英知を結集して活用すべきである。
(3)その運用に当たっては、平等原則を改め、公平原則を実現するよう推進しなければならないと考えている。つまり、真に汗を流している人々に報いるのが原則であるという基本路線を確立してもらいたい。
(4)産地づくり推進交付金は、農業補助金制度改革の第一歩であり、また、ボトム・アップ農政(地域提案型創造的農政)への農政転換の象徴であることを認識し、農政改革の起爆剤と位置づけて取り組むべきだと考えている。
10、JAの指導体制、組織体制、経営体制、特に営農企画・販売体制をいかに改革するか
(1)「農協のあり方研」の報告書で提起した課題を具体的に展開すれば、以上述べたような10項目に基本的には集約できると考えている。さらに要約すれば、その核心は、JAのマーケティング機能、コンサルティング機能、マネージメント機能の充実をいかにはかるか、そのためにいかにJA改革に主体的、内発的に取り組むかということである。全力をあげて取り組んでほしい。
(2)しかし、計画づくりだけでは「絵に画いた餅」で誰も食べることはできない。組合員に信頼され選択され、また国民の支持を得るには、「計画責任・実行責任・結果責任」の所在を明確にし活力を持ったJAをつくりあげるしか道はない。全智・全力を傾けてほしい。
第7 むすびと提案
これまで4回にわたり、本紙を借りてJA改革の基本方向について、とりわけ米政策改革と関連させつつ地域農業改革とJA改革について具体的提案を試みてきた。そこで述べた10項目について、各JAの役員、職員、そして可能な限りの青年部、女性部代表あるいは農業法人代表、さらには総代や組合員にそれぞれの立場から答案を書いてもらうことをすすめたい。その答案を持ち寄り、整理して、それを基本にタタキ台を作り、組合員の合意を形成しつつ、地域農業の将来像を描き、JA改革の推進と合わせて、21世紀にふさわしい地域農業の進むべき道とJA像を創り上げ、全力をあげて実践に努めてもらいたい。
(2003.9.12)