農業協同組合新聞 JACOM
 
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シリーズ 農協のあり方を探る−14

広域合併の先駆けJA糸島に聞く
いま農協に問われるもの


村田 武 九州大学大学院農学研究院教授


 第23回JA全国大会を前に、JAグループは、「農協のあり方についての研究会」(今村奈良臣座長)に「農協改革」を突きつけられた。全国に先駆けて、昭和37年、福岡市の西隣、糸島半島の1市2町にまたがる14農協2連合会(経済連・畜協連)の合併によって、広域合併農協となった福岡県のJA糸島に、「いま農協に問われるもの」を聞いた。近年の広域合併農協に経営難がのしかかる全国的な動きに対して、JA糸島が今めざす新たな事業展開を聞くとき、なるほど広域合併40年の歴史の重みを実感させる。


「コメが繋いできた」集落と農業をどう守るか (田中久俊代表理事組合長)

田中久俊氏
田中久俊氏
JA糸島代表理事組合長
 (平成11年7月就任)
昭和6年生まれ(72歳)
JA糸島理事2期 二丈町農業委員・二丈町農政審議会委員など歴任。現在水田2ha耕作(現職に就くまでは、キャベツ1.5ha+養豚など45年間農業従事)。健康法:食事に気をつける。野菜中心の食事と農作業に努める。

 来年平成16年度に始まる「米政策改革大綱」は、「地域水田農業ビジョン」づくりを迫っています。もっかその作業に追われていますが、私の危惧しているのは、このままでは「コメが繋いできた」集落と農業が崩れるのではないかということです。JA糸島管内には約3000ヘクタールの水田があります。認定農業者を中心に担い手60戸が担えるのは800ヘクタールです。残りの水田は集落を基礎にした営農集団で守る以外にありません。
 ところが、この間の米価下落、麦大豆の先行きの暗さが、土地利用型農業での担い手形成を妨げています。そのうえに、「米政策改革大綱」は、地域で土地利用型農家と野菜農家の対立を煽りかねません。 
 私は、「農地を守る」という言葉はあまり好きではないのですが、今こそ、施設園芸などに活路を見いだそうとする若手にも水田を集落として守ることの重要性を理解させ、土地持ち非農家や入作者も含む農地所有者全体に「農地を守る」ことを理解してもらうこと、ここに農協がもっか取り組む運動の最大の課題があると考えています。これに加えて、福岡都市圏にあって、都市化の影響が強まっている地域であるからこそ、「農地のある豊かなまちづくり」を農協が提案していくことが、地域に対する責任であろうと思います。

「生命産業をめざす糸島農業」 (高田隆治専務理事)

高田隆治氏
高田隆治氏
JA糸島専務理事
 (平成14年6月就任)
昭和17年生まれ(61歳)
前職は営農部長さらに参事 健康法:毎朝5kmのウォーキング 趣味:盆栽、黒澤明作品など往年の名画鑑賞
 JA糸島は、昭和37年の広域合併いらい、先輩の努力で、先駆的な取り組みを行ってきたと自負しています。昭和30年代末から40年代のみかん選果場、50年代から平成初期のカントリー・エレベータの建設、そして平成4年には「広域営農対策」を打ち出しています。 
 平成7年に策定した「ロマン溢れる糸島農業」は、第一に糸島農業を担う「活力ある人づくり」、第二に消費者に信頼される「すばらしいものづくり」、第三に農を基盤にした「魅力ある豊かな地域づくり」という3つの目標をかかげました。そしてこの「3づくり運動」の具体化が、(1)20億円近くをかけた「営農総合センター」の平成10年完成(通称「糸島アグリ」、園芸流通センター、営農資材センター、営農管理センター)とそれを拠点にした広域農業振興、(2)農地保有合理化事業による農用地利用調整(平成8年完成の二丈町深江地区の取り組みは全国的に有名になった)、(3)行政と連携したJA14支店を単位とした「○○地域づくり委員会」の設置による地域づくり運動でした。
 このような取り組みをもとに、一昨年来から策定委員会を組織し、全組合員のアンケート調査をふまえて、平成15年度から19年度の長期農業振興計画「生命産業をめざす糸島農業」を今春策定しました。
 そのめざすものは、第一に、トレーサビリティシステムの導入に対応した「安心・新鮮・安全を保証するほんもののモノづくり」、第二に、ほんものの味を食する消費者へ、次世代の子ども達へ、をスローガンに、「ほんもののモノをうるためのJA糸島の販売戦略」、第三に、「糸島農業を発展させる逞しい人・組織づくり」、第四に、「元気活き活き地域づくり」です。
 モノづくりとその販売では、糸島のブランドにこだわった市場販売戦略を展開します。カントリーに無洗米施設を設置し、減農薬栽培による無洗米白米販売、果実では「天草」の全国に先駆けての産地化、野菜ではイチゴ(新品種「あまおう」)、アスパラガス、レタスなどに力を入れます。
 園芸流通センターの機能を発揮しつつ、(1)米ではすでに実施済みの栽培暦の記帳を野菜にも広げ、(2)地産地消の期待に応える「糸島のファンづくりの販売戦略」として、専業農家も参加する大型直売施設「糸島生鮮市場・ほんものの店」づくりを行政と一体で開設する準備が進んでいます。営農を中心とした経済事業のボリュームアップを追求することなくして、組合員の信頼は勝ち取れないと思います。
 
村田 武九州大学教授
村田 武
九州大学教授
平成17年度の実現をめざす14支店体制の改革では、理事会のもとにプロジェクトチームを編成して、総合支店・金融支店・機械化支店への統合再編成を検討中です。その検討で重視しているのは、14支店が地域づくり運動の拠点となってきた実績や、地域の農区長・生産組合長制度とどのように整合させるかということです。農協経営の合理化の視点だけで,支店の統廃合を推進できるわけではありません。
 JA糸島としては、経済事業の展開方向については方針をすでに確立し、実践段階に踏み出しています。購買事業の黒字(14年度2億2400万円)を筆頭に、経済事業はドル箱です。事業総利益のうち信用・共済事業の占める割合は52%に抑さえられています。
 今後の中期3カ年計画や単年度計画では、金融事業の展開方向の検討に力を入れます。

「ガバナンス体制が問われている」 (浦 敏文常務理事)

浦 敏文氏
浦 敏文氏
JA糸島常務理事
 (平成15年6月就任)
昭和24年生まれ(54歳)
前職は管理部長さらに参事 健康法:毎月20万歩を目標にウォーキング 趣味:釣り、読書

 JA糸島を今日に導いた取り組みのなかで、私が注目しているのは、平成2年から人事制度改革の取り組みに着手していることです。平成5年には、年功型から職能型への賃金体系の転換など、職員の処遇の改革が実施されています。また、職員の資質向上をめざして、資格試験への参加と合格を、管理部門の職員にとどまらず、現場の職員にも例外なく、義務づけています。これからの農協事業を担う職員をどう育てるかという観点なくしては、何事も始まりません。
 私は、JA全国大会の最大の課題は、経済事業の強化の前提として、「計画責任・実行責任・結果責任をはっきりさせる」というガバナンス体制の確立が不可欠だという合意を、JAグループとして勝ち取れるかどうかと考えています。  (2003.10.21)

 


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