農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 改革の風を吹かそう−農と共生の時代づくりのために
「素敵な笑顔と元気なあいさつ」
行動目標を共有し地域振興に貢献

尾身昭雄 JA十日町代表理事組合長


インタビュアー森澤重雄 JA全中営農地域振興部長


 管内は魚沼コシヒカリの産地。同時に絹織物の産地でもあり、機織りは農家の副業でもあった。農業も他の産業も互いに支え合ってきたことから、地域協同組合的なJAのあり方をめざしていると尾身組合長はいう。共生にとどまらずJAは「地域との同化」を考える時代だと話し、JAの事業は組合員だけを対象とせず全市町村民が相手だと考えている。
 経営理念は分かりやすく「スピードアップ、満足度アップ、コスト削減」を掲げ、全職員の行動目標を「素敵な笑顔と元気なあいさつ」としている。地域全体の振興に貢献している同JAの今後の課題などを話してもらった。

■気候風土に合わせた農業振興

尾身昭雄氏
おみ・あきお 昭和9年新潟県生まれ。新潟県立農業講習所卒。昭和62年十日町市農協参事、平成4年専務理事(学経)(10年3月1市2町1村3農協が合併「十日町農協」設立)、10年代表理事組合長(組織代表として)。11年農協人文化賞受賞。現在、新潟県農協中央会・信連・厚生連理事並びに全中経済事業改革中央本部委員。(株)ラポート十日町代表取締役社長、(株)ぴっとランド代表取締役社長、(株)コープ中里取締役会長、(有)十日町きのこ培養センター代表取締役。

 森澤 JA十日町の管内は米の単作地域で、しかも豪雪地帯というイメージがあります。まずこの地域の特徴や農業振興についての基本的な認識をお聞かせいただけますか。

 尾身 よその地域から視察に来た方から栽培技術はどうなっているのかなどと聞かれますが実はそれがいちばん困るんです。なぜかといえば、気候風土が違うはずだから。
 ここは信濃川沿いの段丘地で、また、天気のいい日であっても春から夏にかけては朝霧がかかるような土地ですし、ほとんど山間地だから小さな川がたくさんあって水も豊富です。こういう自然条件のなかで先輩たちが米の作り方を考えてきたんじゃないか。たとえば、同じ新潟でも蒲原平野と同じ作り方をすればここでは倒伏してしまう。
 だから、肥料を控えたり、あるいは自分たちでこの地域に合う肥料を作って、栽培してきた。ここの米はおいしいといわれますが、自然が生んでくれた米だと思っています。
 それから、ここは「機」の町で、これが長い間農家の副業になって維持されてきた。とくに女性の副業収入になりました。
 ただ、冬から春先の平均積雪量が2メートルにもなる豪雪地帯です。この地域は、むかしから妻有郷(つまりごう)といったわけですが、どういう意味かはっきりしたことは分からないが、とどのつまり、だと。もう人間の住む最後の地だということらしい。もっとも人間的には団結力が非常に強い。機織りが盛んだったのもそのひとつの例じゃないかと思っています。
 森澤 妻有郷という地名の由来ですが、妻が有る、すなわち女性の支えが大きい地域ということでもあるんじゃないでしょうか。

 尾身 そうでしょうね。冬場は男は出稼ぎにでますから。冬は女性が支えているのは今も同じです。

 森澤 そういう点も含めてJAの組織運動に結集してもらうという点で、工夫されてきたことは何でしょうか。

■地域協同組合の視点を持つ

森澤重雄氏
もりさわ・しげお 昭和24年生まれ。茨城大学農学部畜産学科・農学研究科卒。昭和49年JA全中入会、水田農業課長、人事課長、広報課長、総合企画部次長を経て、平成10年組織対策部長、12年組織経営対策部長、13年監査部長、14年JA全国監査機構・全国監査部長、営農地域振興部長。

 尾身 農業協同組合という立場は守らなければならないが、地域協同組合的な考え方で運営をしようとは20年以上前から思っていました。
 今は、JAグループは共生をキーワードに運動や事業に取り組んでいますが、われわれは共生ではなく、もう地域との同化の時代だと考えています。地域に溶け込んでしまおうということですね。
 この地域では農家と絹織物業は全体としてつながりがあった。ですから、農協と商工会や織物組合を分けて考えないで、どこがリーダーになっても地域の組織と一体となって仕事させていただくと。JAの組合員といっても他の団体、組織に関係している人もいるわけですからね。

 森澤 地域づくりの面で農協がリードしている取り組みはありますか。

 尾身 最近では、町の商店が14、5店、ビレッジ方式で出店している場所がありますが、そこれは妻有ショッピングセンターという協同組合です。その土地はもとは農地で地権者は農家ですから、農家の土地を守るためにJAがリーダーになってその協同組合をつくった。

 森澤 商工業者と、農協、そして農家組合員のいわば三位一体での地域振興ですね。
  商工会議所との話し合いもきちんとして、農協組織が組織づくりをまとめていいという合意形成があったわけですが、それにはふだんからの付き合いでお互いに仲間になっていなければなりません。こういう組織づくりをJAの側から仕掛けていくということだと思います。
 利用してくれるのはやはり農家なんですね。兼業も含めればここは8割方が農家なんですから。農協がやっているショッピングセンターだという気安さがあるから利用も進むわけです。

■女性と高齢者のサポートが課題

尾身昭雄氏

 森澤 地域の抱える課題としてはやはり高齢化の進行があると思います。高齢者や女性へのサポートも重要になっていると思いますが。

 尾身 県内でいちばん最初にデイサービスセンターをつくりました。ただ、JAのデイサービスセンターではどうしても組合員しか利用しないという面が出てくる。ですから、5年かけて資金造成して新しく建物をつくって社会福祉法人にした。この考え方がいいか悪いか別にして、それによって一般の人も利用するようになりましたね。また、社会福祉法人にすると県も市もみな一体となって事業をするようになりましたからJAにとってもプラスだったと思います。
 それから、女性の正組合員を500人増やすことと、女性総代を100人にしようという運動に取り組んでいてこれは確実に実現できそうです。
 地域を守ってきたのは女性だった。その女性たちが高齢化しているから大変な時代になったと考えており、女性の組織をどうまとめるかということがいちばんの課題になっています。
 最近はソフトバレーボール大会などを開催すると20代から40代の女性たちが大勢集まってくれるんですね。それをひとつの組織にまとめあげていきたいなと考えています。JAには食材宅配事業がありますが、高齢者に昼食や夕食を届けるという事業を女性部に担ってもらえないかなど、女性の力を借りなければ将来がないと考えています。
 
■多様な人材で満足度をアップ

対談風景

 森澤 組合員をサポートするためコミュニケーション活動にも積極的だと伺っていますが。

 尾身 たとえば、地域協同組合という点を考えれば広報もJAのためだけの広報ではだめです。そこで、広報誌の編集担当には地元紙のOB記者を採用しました。やはり幅の広い視野を持って地域をしょっちゅう回っていたわけですから視点が違うし、組合員レベルで何が問題となっているか情報も早い。必要があれば異業種から人材を集めることが大事になってきたと思っています。
 そしてJAとしては、組合員の声にいかにスピードを上げて答えを出すか。いつも言っているのは、JAの基本姿勢として、まずスピードアップ、それからお客さまの満足度アップ、そして3番めがコスト削減。これしかないということです。お客さまというのは、組合員だけではなくすべての利用者という意味です。
 よくJAの経営理念とは何かと言われますが、簡単で分かりやすいものでなければならないと考えていて、職員には「素敵な笑顔と元気なあいさつ」、これだけを徹底しています。

 森澤 分かりやすい行動目標ですね。それを職員が共有化して対応していく。では、最後に座右の銘などをお聞かせください。
 尾身 これまでは「温故知新」と「和して同ぜず」でした。温故知新は先輩にお世話になったという思いがあるからですし、和して同ぜず、は組織の人間としての心構えです。ただ、最近は「農は国の基」です。

 森澤 今後のご活躍を期待しています。ありがとうございました。

インタビューを終えて JA十日町は地域の特色を生かした多様な事業・運営展開を数多く行なっているが、紙面の都合で伺った話の一部しか掲載できないのが残念。例えば、「地域無線事業」というのがある。管内1市3町1村内の連絡を低コストでカバーするため、JAが実施主体として運営している。地元消防署には無料で提供している。これも組合長の言う「地域共生」から「地域同化」の事業戦略の考えで実施しているもの。農・工・商が連携し、活力ある地域づくりに取り組んでいる。
 JAグループは組織を挙げて「経済事業改革」に取り組んでいるが、尾身組合長はJA全中に設置した「経済事業改革中央本部」の委員としてご苦労いただいている。JA十日町は、早くからJAの経営改革に取り組み、収支確立・サービス向上を目的に経済事業部門の分社化も多く行われている。そうした組合長の改革キーワードは「スピ−ドアップ」「顧客満足度アップ」「コストダウン」にある。インタビューの中でも何回も「スピード」という言葉がでてきた、時代の環境変化に対応し組合員・地域のためになることはトップが「即断」「即決」「即実行」していくことの重要性を改めて教えられる。
 組合長は、JA職員を経験しており、営農指導をはじめとした実務経験も豊富である。JA経営にあたり「企業的経営感覚」と「協同組合運動感覚」を両立したJA改革の実践を心がけてきたと感じた。多趣味であるが、現在はもっぱら「旅行」と言う。(森澤)

(2003.12.9)

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