農業協同組合新聞 JACOM
   

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シリーズ 改革の風を吹かそう−農と共生の時代づくりのために
“やらまいか精神”で多品目の振興策次々に
財務の健全性も誇る

松下 久 JAとぴあ浜松代表理事組合長


インタビュアー森澤重雄 JA全中食料農業対策部長


 JAとぴあ浜松は、早くから赤字部門の会社化など経済事業改革を進めた。そして農業振興に努め、野菜だけで120品目という多彩な生産を誇り、生産組織の数も多い。松下組合長は、全中の森澤部長との対談で「組合員に利益還元できるような財務内容にしなくてはいけない」と財務の健全性を強調した。話題はJA共済の保有高の伸びや4月に開幕する「浜名湖花博」への出展などにも及んだ。

◆組合員の意見を聞き経営内容もオープンに

松下 久氏
まつした ひさし 昭和5年静岡県生まれ。日本大学農獣医学部卒。昭和29年静岡県民生労働部、静岡県農業水産部水産課主幹、同農業水産部農業団体課課長補佐、同参事、同課長を経て、63年静岡県農協中央会入会、平成2年浜松西農協専務理事、5年同農協代表理事組合長、7年とぴあ浜松農協代表理事専務、10年同農協代表理事組合長、(株)とぴあサービス代表取締役社長。

 森澤 JAとぴあ浜松は平成7年に合併し、組合員6万人の広域大型JAとしてスタート。各部門の事業量もそれぞれトップレベルで、かつ多様な作物を抱え、JA運営では大きいが故にご苦労もされてきたと思います。農協運動の面から、基本的に考えてきたことについてお話いただければと思います。

 松下 農協は株式会社のような財の集まりではなく、人の集まりです。だから組合員の意見を聞かないで農協はあり得ないといえます。さらに農協法からいって協同組合は利益を追求しません、ということは利益が出れば公平に還元しなければならず、また利益を出さなければ組合経営が成り立たないから一定の利益は出し、組合の内部留保もします。さらに、もう1つは報酬も含めて職員が働きがいのある職場を作ってやらなければいけないという3分の1方式を常に念頭に置いてきました。
 また、利益還元できるような財務内容にしなくてはいけません。いくら立派なことをいっても財務内容が悪かったら、実現できないからまずは財務の健全性が重要です。同時に私は経営内容をオープンにすることを基本にしてきました。
 JA貯金は12月中旬現在で7922億円。順調に増えています。財務内容が安全だとなると他の金融機関から大口の預金者が1億円、2億円と現金で持ってくるんです。その人たちには准組合員になってもらいます。農協は人の集まりだから組合員が減ってはいけません。

◆受益者負担も話し合って

森澤重雄氏
もりさわ・しげお 昭和24年生まれ。茨城大学農学部畜産学科・農学研究科卒。昭和49年JA全中入会、水田農業課長、人事課長、広報課長、総合企画部次長を経て、平成10年組織対策部長、12年組織経営対策部長、13年監査部長、14年JA全国監査機構・全国監査部長、営農地域振興部長、15年食料農業対策部長。

 松下 施設投資については計画的に取り組んできましたが、現在、タマネギとバレイショの選果場建設が残っています。タマネギは品質が柔らかくなっており、バレイショもサラダ感覚に応えるため新しい選果場のあり方を議論しています。生産者自身の施設だから自分で計画を策定し、受益者負担で実施する方針で、農協はそれをお手伝いします。
 普通は自己資本がなければ増資してもらいますが、うちは増資しなくても、400億円の自己資本を持っているから大丈夫です。しかし償却費や職員の人件費まで細かく計算して納得づくでやっています。そこへ持っていかないと部門損益をどうするといったってできないわけです。従来の農協は選果場や集荷場をつくったから持ってこいよという形でしたが、うちは、そういうやり方はしません。

 森澤 組合員に還元していく基盤としてJAが健全でなくてはいけない、それと組合員の信頼確保には情報公開だと、そういう姿勢で施設整備にも公平性のある考え方で、受益者負担を求める所はきちんと徹底的に話し合っていくという運営のお話だったと思います。
 そこで広大なエリアなので組織運営というか、部会や女性部青年部など組合組織の運営面でも工夫されてきたと思います。組織運営はどうですか。

 松下 うちは作物が非常にバラエティに富んでおり、女性・青年部以外に44の生産組織があります。生産部会は共同計算、共販をしているもの、協議会は共販だけで、まだ共計まではいっていない組織ですが、将来はすべてを部会にします。

◆選果場の統合を喜ぶ

 松下 これらは合併以来、次々にできて、一番大きい柑橘は1200人いると思いますが、12年に協議会から部会になりました。合併前から選果場5つを1つに統合する話し合いをとことんして、まとまったところで部会にしました。5選果場のうち選果料は高い所でキロ当たり30円、安いところで16円でしたが、統合した新選果場の料金は25円にしました。高いという声も出ましたが、12年度末には未精算金が1億5000万円出て、それを分けたらキロ当たり17円になり、組合員は大喜びでした。同時に光センサーなど最新鋭の機械を入れて、畑ごとに、品質にどういうばらつきが出てきたかを全部管理して営農指導員が個別に指導しています。
 そういう形はトマトやカキ・ナシにも広がっています。
 経済事業の赤字について、うちも購買はまだ若干の赤字ですが、隠してはいけません。肥料と農薬は協同会社の(株)とぴあサービスに配送させています。(株)とぴあサービスの配送によって運賃が値下げられた分は組合員に還元しています。しかしJAから生産資材を買っていない組合員は値下げしたことを知らないため、集落座談会などで「JAのものは高い」などといって、買っていないことを自ら露呈しています。

 森澤 販売高は約240億円ですね。とくに私が驚いたのは部会と協議会合わせて44だから、相当な品目を農業振興してきたということですね。

 松下 野菜だけで120品目です。中でもハーブ類は東京の帝国ホテルはじめ全国の有名フランス料理店へ送っています。ほかに、これは企業秘密の段階ですが、新しい品目の少量生産も手がけています。ここで問題になるのがマイナー作物です。

◆部会ごとに誓約書

 松下 今、登録農薬の適用拡大をやっていますが、静岡県の中では2億円くらいかかります。うちは、その80%を負担します。県下JAを挙げて取り組んでおります。
 ただし当JAとしては全額を負担しては他の組合員とのバランスがあるからマイナー作物の生産者にも若干の負担をすることで理事会の理解を得ています。

 森澤 登録農薬の適用拡大はJAが一歩前へ踏み出さないと進展しない状況です。とにかくこのままでは地域の特産物がなくなってしまいます。

 松下 食生活が貧相になっちゃいます。ところで、うちの場合は一昨年8月無登録農薬問題が起きたとき、全部会で各生産部会長あてに「使用しません」という誓約書を書き、それを組合長がまとめて東京の青果市場と花市場へ持参して安全・安心を訴えたという取り組みもあります。

 森澤 生産履歴の記帳運動のほうはどうですか。

 松下 部会で牽制し合ってやっています。もう1つ私どもは土壌分析と、水耕栽培の溶液分析、それから残留農薬分析をやって生産者個々の営農指導に活かしています。
 ところで今の農業は作目別に人が集まる時代に入っているようです。従来は地域ごとにまとまっていましたが、今は地域を超えて同じ作目を作る農家同士がグループをつくっています。

 森澤 地縁的な部会から目的別グループへの変化ですね。

 松下 目的別だけだと困るので集落単位に正組合員を網羅する形で部農会を組織し、広報はこれを通じてやっています。

 森澤 縦横の網の目ですね。無登録農薬にしてもマイナー作物にしても、組合員より一歩か二歩先を考えて組合員に率直に状況を説明し、組合員の合意の基に進めてきた、というお話でした。さて地域の活性化では、間もなく開幕する「浜名湖花博」への出展があります。スタートまでには大変な判断があったと思います。

◆花博にJAパビリオン

JAとぴあ浜松

 松下 大阪、淡路に次ぐ3つ目の花博で開幕は4月です。うちは単独で、パビリオンを出展します。組合員参加型で花と野菜と果物がテーマです。園芸博だから花だけではありません。費用は5億円ですが、組合員から反対は全く出ませんでした。“やらまいか精神”といわれる浜松の土地柄もあるようです。

 森澤 組合員参加型でやるわけですね。花博に取り組めるのも、やはりJAの財務基盤がしっかりしているからだと思います。それからJAとぴあ浜松はコンプライアンス(法令順守)の徹底でも定評があります。
 話が変わりますが、JA共済の伸びも素晴らしい。

 松下 これはね。保有が増加しなければ保障の充実にはならない。だから、うちは純増方式で8年間に1兆円伸ばし、加入者の中には1億円以上保有の人が約1万3000人います。

 森澤 信用事業でも貯金の伸び率が高い水準です。組合長は“集める貯金よりも集まる貯金を”が持論ですが。

 松下 販売高、購買高、そして管内の農地面積も農業就業者数も毎年減り続けている、そんな中で貯金を伸ばすには、年金振り込みの取り扱いしかないとして力を注ぎました。販売代金は購買代金や生活費で出ていきますが、年金はごそっと出ていきません。“集まる貯金”というわけです。

◆人材の有効活用にも力を入れて

 松下 年金は集めに回るコストがいりません。その分をいろんな顧客サービスに使っていますが、とくに日帰り旅行が喜ばれています。今では管内年金受給者の4人に1人がJA貯金口座への振り込みで、シェア24%です。

 森澤 もともとJAへの信頼はありますが、とぴあ浜松は、それに仕組みなどを付け加えて厚い信頼にしています。

 松下 もう1つ、うちの特色に女子営農指導員の導入があります。13年度に8人を入れ、現在は13人です。合計約80人の指導員のうち半分ほどは女性にしてもよいと私は考えています。 静岡大学をはじめ4年制大学の農学部卒で大学院卒も2人います。彼女たちは仕事上の疑問に直面すると出身大学に問い合わせるため、先輩が指導員になっていることを知った後輩たちが、その後、次々に採用試験を受けに来ています。組合員の中にも最近は大卒の就農者が増えているため、英文レポートの翻訳などを彼女たちに頼むといった風景も見られます。
 また、うちは職員たちが視野を広げるようにと連合会との人事交流をしており、企業へも6人出しています。

 森澤 最後に、これから経済事業の改革に取り組むJAに向けてのメッセージとか留意点を挙げて下さい。

◆意識改革がキーワード

松下 久

 松下 経済事業については、農協がやらなくてもよい仕事まで農協がやる必要はないと思います。例えば、うちは合併当時、家電製品の取扱高が8億円ありましたが、供給先の半分は職員と、その親戚でした。量販店が増えている中で、これが購買活動だといえるのか、と議論をして同事業から撤退しました。
 またガソリンスタンドとAコープが7つずつ、自動車整備工場3つの合計赤字が2億6000万円ありましたが、これらは株式会社化で2年目から黒字に転換しました。しかし会社化しただけでは利益は出ません。やはりコスト意識を含めた意識改革が必要です。
 しかし銀行では肥料や農薬を売っていない。それはやはり農協の仕事です。

 森澤 経済事業改革を進めるに当たっても組合員に率直に情報を開示して、説明責任を果たし、組合員の合意を得ることが大事だというお話でした。そして意識改革をキーワードに実践を進めようということですね。ありがとうございました。

インタビューを終えて
 JAとぴあ浜松は、事業・組織規模ともに全国屈指のJAである。組合員61000名(正・准)、貯金7700億、販売高240億を有している。なお、今期は貯金量も8000億に近づきつつある。広域合併後8年を経過したが、JAの経営が健全でなければ、組合員への貢献はできないとの信念の下、事業・経営改革やコンプライアンス態勢の確立に取り組み、今日の盤石な経営基盤を築きあげてきた。
 改革を行う際のポイントは、組合員への「情報開示」とそれに基づく徹底的な「話し合い」という。施設再編等の改革を進める際には組合員との軋轢を生むことも多いが、徹底的な「公開」と「議論」によって、組合員参加・納得の上ですすめることが逆に「信頼」に結びつくことの重要性を改めて教えられる。
 来年4月より10月中旬まで、浜松市において浜名湖花博が開催されるが、JAとぴあ浜松はパピリオン「JAとぴあ浜松館〜はなとぴあ〜」を出展することとしている。投資額は5億を超えるとのことであるが、JA単独でこの規模はおそらく全国で始めてであろう。これも、財務が安定していなければできぬこと。パビリオンは組合員参加型で運営していくので、新たなJA結集の核にもなる。農と共生の地域社会をJAがリードしていくために、まずもって足下の経営確立の重要性を再認識させられる。(森澤)


(2004.1.8)

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