農業協同組合新聞 JACOM
   

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新しい時代を創造する生協の活動と商品戦略

信頼関係と同時に緊張関係をお互いにどう創造していくか
コープこうべの商品政策の考え方

浅田克己 生活協同組合コープこうべ専務理事
インタビュアー 田代洋一 横浜国立大学教授
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 1921年の創立以来80余年、日本の生協運動のリーダー的な役割を果たしてきたコープこうべの浅田克己専務理事に、最近のマーケットの状況とそれに対する商品政策・産直政策、そして産地・生産者との関係のあり方などについて聞いた。聞き手は、田代洋一横浜国大教授。

◆ジャストフィットする事業サイズは何か

浅田克己氏
あさだ・かつみ 昭和22年生まれ。明治学院大学法学部卒業。昭和45年灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)浜芦屋支部家庭係入所、59年供給企画室、商品開発部、商品政策企画室課長、同部長を歴任、平成2年日本店舗近代化機構(COMO・Japan)出向、5年コープデイズ西宮準備委員長、店長、7年常任理事、11年常務理事、13年専務理事。
 田代 まず、これからのコープこうべの基本的戦略についてお話いただけますか。

 浅田 生協全体としては、事業サイズをもう1回考え直そうとしています。コープこうべも大きな考え方は一致しています。組合員の活動は、地域的なサイズで最適化できますが、事業のサイズがそれと同じで、市場との戦いに適応できるかというと、これは生活圏のサイズではないと思います。新しい局面を開いていくには、事業サイズ、これは産地形成のサイズでもあると思いますが、ジャストフィットのサイズは何なのか、ということが問われていると思います。
 供給高3000億円を事業サイズとして考えたときに、全国にいくつかの事業連合がいるのではないかということになっているわけですが、私どもの今期末の供給高は2800億円くらいで、既にそのサイズを実現している生協として、どんな役割を果たさないといけないのかが問われていると思っています。

 田代 そのサイズの中での最適化をはかっていこうということですね。

 浅田 1998年ごろの供給高は3600億円くらいで、この間に800億円ほど落としてきているわけですが、それは不採算店舗や事業をいくつか整理をしてきたからです。そして、拡大主義ではなく、もう一度きちんとジャストフィットできるサイズの中で、次の発展期の展望をめざしていこうとしています。この間の5年間は、最初の2年が改革期、01年度、02年度が養生期、そして03年度、04年度が発展期という位置づけです。

◆未利用のマーケットに目を向けて

田代洋一氏
たしろ・よういち 昭和18年千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒業。経済学博士。昭和41年農林水産省入省、林野庁、農業総合研究所を経て50年横浜国立大学助教授、60年同大学教授、平成11年同大学大学院国際社会科学研究科教授。主な著書に『新版 農業問題入門』(大月書店)、『農政「改革」の構図』(筑波書房)、『WTOと日本農業』(同)など。
 田代 現在は発展期にあたるわけですね。

 浅田 03年〜04年度の2年間を発展期としていますが、03年度はどちらかというと仕込みの1年でした。無店舗事業では、要冷品の集配センターを新たにつくります。集配センターとしては温度管理が必要な冷凍・冷蔵のジャンルと農産温度帯を新たに設定して、セットセンターと加工センターを併設してスタートしますが、1年をかけて基礎条件を整えました。もう一つは、店舗ではこの4月から店舗の営業時間を拡大しますが、そのための準備も03年度に1年かけてやってきました。
 04年度は新しい市場と需要を創造していく、そういう年になります。マーケットをそういう目で見てみようと考えています。いま兵庫県全体で、食料品の売上高は1兆9000億円くらいです。私どもの食料品の総供給高が1980億円ですから、率にして11%弱で、シェアは県内1位です。しかし、そう見るのではなくて、90%の方が他を利用されている。マーケットは存在しているのだけれども、生協との接点が薄いとか細く利用いただけないマーケットにもっと目を向ける、こういう年にしなければいけないと考えています。

◆利用の安定と新規組合員の創造―戸別配達

 田代 どういう層をターゲットに、どういう業態を拡大していきたいと考えていらっしゃいますか。

 浅田 主力の業態は、店舗と無店舗です。無店舗では戸配が全国で伸びていますが、私どももここ1、2年間の戸配の伸長度は高いです。利用者の年齢層は二極化されます。一つは、団塊の世代とその上の年齢層です。もう一つは、仕事をしながら子育てをしている方やお子さんをつくられたばかりの方ですね。
 協同購入では、生鮮品とくに農産が象徴的だと思いますが、十分なアプローチができていないと考えています。日常品であっても戸配の「ひまわりセンター」のマーケティングで全部が満足して利用できるような内容になっていないと思っています。そこを徹底的に強化しなければいけません。そのための装置として先ほどのセンターを建てるわけです。当然、二つのマーケットに対応できますので、利用の安定と新規組合員の創造につながると思っています。

 田代 マーケットが変化してきているわけですね。

 浅田 本部のある神戸市東灘区では、この少子化時代に、子育ての拠点になる保育所や小学校のクラスが足りません。それくらい組合員やマーケットは変わってきていますから、私たちのマーケットを見る目を素直に押さえ直す方がいいと思っています。
 最近、新しくお母さんになる方のための商品や情報を集めた「赤ちゃんの玉手箱」を差し上げますと呼びかけましたら、応募の50%近くはインターネットでのご注文でした。この人たちから、非常にストレートな意見をメールでいただきますね。いままでとは違うネットワークですね。

◆加工度の高い商品で需要を開拓――店舗事業

 田代 5割がインターネットでの注文というのは驚きというか、新鮮です。ところで、店舗事業の方はどうですか。

 浅田 店舗の方は、主力の業態は食品中心のスーパーマーケットに置き換えてきていますし、着実に進展していることが一つです。現在ある店舗も、時間の便利さ、商品構成の便利さにきちんと応えていないと、市場競争に負けてしまいますが、いまは少しズレていると感じています。営業時間の拡大も、全店一斉にということではなく、高齢者の多いところは朝10時開店を9時に早める、駅前店は夜遅くまで開けるとか、それぞれの店のマーケットにジャストフィットしていくことにしています。

 田代 商品構成では…。

 浅田 もともと素材型のスーパーマーケットが得意でしたし、組合員も伝統的な手作り派の方がたくさんいますので、それはそれで大事にしていきますが、加工度の高い商品をどれだけマーチャンダイジング(MD)に入れるかが大事になってきています。例えば、カット野菜とかカットフルーツは、まだマーケットは小さいですが、130〜140%も伸びています。こうしたもののマーケティングがまだちゃんとはできていません。店として進めると同時に、本部としても新しい需要開拓をしなければいけないと考えています。
 ただ、新しい動きは下手をすると新しいコストだけが増えることになりますから、仕事の仕方・仕組み、労務構造の転換をはかる必要があります。例えば、夜の営業時間延長では、職員だけでやるのではなく委託とか、新しい労務構成にしていきます。

 田代 職員のマネージメント力が問われますね。

 浅田 人材の活性化と教育にはかなり力を入れないといけないと考えています。店舗職員も高齢化しているので、1年に80人程度共同購入センターの若手の職員を店舗に回しています。

◆組織の顔「コープス」商品――PB商品

田代洋一氏
 田代 日本生協連を中心に商品政策・産直政策の見直しがされていますが、産直政策についてお聞かせください。

 浅田 「コープス」というPB商品が2323品目あり約740億円供給しており、26%のシェアになります。農産品はそのうちの183品目、供給高が78億円です。農産品全体の売り上げがだいたい260〜270億円ですから、農産品全体に占めるコープスの割合は3割くらいで、7割は市場流通品ということになります。
 基本的な考え方は、コープスのようなPBと市場流通品をどれだけ最適に組み合わせるかです。満足度を測る指標はいろいろありますが、選択幅は豊かさの基本だと思っていますので、多様な選択幅をきちんと確保することが前提になります。人間の体に例えると、顔の面積は全体の3割です。そしてその顔で個性がほとんど決まりますね。そういう意味で顔である3割前後のPBが、その組織の存在感を決めてしまう重みがあると思います。しかし、顔だけでは体になりませんから、そのバランスをどうとるかですね。

 田代 「フードプラン」というのもありますね。

 浅田 フードプランが通常のコープスと違うのは、全部国内産地のもので、残留農薬が国の基準の10分の1以下とか、環境基準など独自の厳しい基準を設けていることです。そういう商品ですから供給側と生産側の交点に対する組合員自身の参画を深いものにしていこうと考えています。これ以外のコープスについても、肥培・肥育管理について基準を設けています。供給高は、78億円のうちの33億円です。

 田代 産地に地域性はありますか。

 浅田 基本は産地リレーで通年供給することですから、ニンジンですと長崎から始まって北海道までリレーしていく形にしています。と同時に地産地消についても大事にしています。

 田代 産地同士が連携する仕組みはありますか。

 浅田 「フードプランフェスタ」という集いを2年に1回開いて、生産者の方に来ていただきますので、神戸で出会うことができますね。
 時おり無理をいって生産者の皆さんに売場に立ってもらうこともあります。いろいろ組合員さんから質問されたりしますが、これが財産だと思いますね。

◆産地とは五分の関係―同じ方向をどう向くか

田代洋一氏
 田代 産地との関係で大事にされていることは何ですか。

 浅田 私たちと産地の方は5分5分の関係で成立していると思っています。つまり向かい合うのではなく、同じ方向をどう向くかが問われるわけです。そういう意味では、一つは、信頼関係と同時に緊張関係をどう持つかが私たちの最大テーマです。信頼関係をどう持つのかは大事にしますが、それだけだと内向きになってダメですから、そのなかでどう緊張関係を持てるかを互いに創造していかなければいけないと思います。
 二つ目は、「安全性の確保」について、プロセス管理を含めて一緒に考えられ、率直に話し合える相手かどうかですね。
 三つ目は、未来に向けて成長していかなければ面白くもありませんし、力も出ませんから、共通利益を大事にできる関係をつくりたいですね。
 そして情報の共有化ですね。

 田代 最後に農業・農協へ期待というか注文を。

 浅田 基本的には、頑張っていただきたいですね。強い商品がたくさんありますから、目前の問題解決も大きな課題でしょうが、チャンスに焦点をあてれば十分にやれると思います。まだまだ開発できる市場はあると思います。私たちは消費者である組合員に利用していただくのが仕事ですから、その強みを出すお手伝いを精一杯やらせていただきたいと思います。

 田代 お忙しいなか、今日はありがとうございました。

インタビューを終えて
 阪神淡路大震災から10年。なお続く厳しい市場環境のなかで、コープこうべが培ってきた地力、それを踏まえたチャレンジ精神と柔軟性が光る。
 産直品(コープス)3割は人間でいえば「顔」に当たると位置付ける。そのシェアを高める産地探しは「コアになる人物がいるか」どうかだ。コアは若い営農指導員、女性、Uターン者など多様であり、産地は幅や多様性が大切で、チャンスに焦点をあてるべきだ。
 産地との関係は、第一に信頼が基本だが、それだけでは内向きになる。信頼と緊張関係が大切。第二にいっしょに考えてもらえる産地かどうか。トレーサビリティもいいが、基本はプロセス管理をいっしょに創造すること。第三にともに成長するために共通利益を大切にする。最後に情報の共有化。産直フェスタの参加生産者には店頭にたってもらう。交流もマンネリ化をさけ、フツーの組合員にいってもらうという話。いずれもうなずくことばかりだ。
 「基本を丁寧に」。王道とは何たるかを教えられたインタビューだった。(田代)
(2004.3.22)


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