農業協同組合新聞 JACOM
   

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新しい時代を創造する生協の活動と商品戦略

「日本農業を守る」ロマンを掲げて産直運動を展開
ライフステージ別に個配の商品案内発行

山本伸司 生活協同組合連合会首都圏コープ事業連合
常務執行役員(商品統括本部長)
インタビュアー 田代洋一 横浜国立大学教授
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 首都圏コープ事業連合は「日本農業を守る」というロマンを掲げて産直運動を進めている。事業規模や取り組みの先駆性などで全国トップレベルの産直生協だ。また商品を個配する実験を1990年から開始し、96年から本格展開に入った。これは無店舗事業を進化させた個人対応型の業態だ。産直の理念や個配からは21世紀型生協像の可能性が模索できる。農協のあり方への示唆も大きい。横浜国大の田代教授が聞き手となって、首都圏コープの山本伸司常務に現状や戦略を語ってもらった。話題は地域農業ビジョンづくりなどにも及んだ。


◆無店舗事業から進化

山本伸司氏
やまもと・のぶじ 昭和27年生まれ。昭和53年東京都調布生協に入組、平成2年神奈川県けんぽく生協専務理事就任、8年首都圏コープ事業連合に移籍、現在に至る。

 田代 最初に首都圏コープ事業連合のとりくみの特徴をご説明下さい。

 山本 首都圏7都県の8生協による事業連合で、統一した商品案内(カタログ)によって、食品を中心に組合員に宅配する個人対応無店舗事業「パルシステム」を展開しています。加入は約60万人、供給高は1338億円(03年度)で、前年比106%と順調に発展しています。

 田代 個配システムを開発された背景や意図をお聞かせ下さい。

 山本 生協は班組織をつくり、共同購入で伸びてきましたが、そうした無店舗事業を進化させたのが個配システムです。
 共同購入は、実は80年代中期から空洞化したと私は見ています。班の中で熱心な当番の人だけががんばって、ほかの数人は、それにぶら下がっているという状況が広がったのです。
 そこで、当番だけの生協よりは個配が良いと考え、班づくりというハードルを設けないで、たった一人でも生協を利用できる仕組みにしたわけです。
 ところで、無店舗事業のマーチャンダイジングは、価格競争にさらされる店舗事業とは違うと思います。ある種の情報産業だともいえますから、現物を見ないで注文する組合員への情報提供に独創性を発揮しました。
 田代 どんな特徴点があるのですか。

◆生協離れ食い止める

 山本 組合員のライフステージ別に3種類の商品案内を発行しているのが大きな特徴です。
 まずは、2歳以下の赤ちゃん(初産児)を抱えた層をターゲットとする「YUMYUM」という商品案内があります。ヤムヤムは英語で赤ちゃん言葉の「おいしい」という意味です。食品添加物や農薬などを気にしたり、生協を意識し始める層の子育てを支援する案内紙をつくっています。
 次に、子育て真っ最中の層を対象にした「マイキッチン」という題名の案内があり、さらに子育てを終了した年代向けに「Kinari」があります。
 キナリは「生成」で、自然体で生きようという意味です。子育て終了期は生協卒業期ともいわれるので、この層のニーズを考えた結果、子どもが手を離れた後は、自分探しをして、熟年時代を豊かに暮らそうと提起しています。具体的には少量で美味な商品情報などがあり、生協離れを食い止めています。
 以上、3種類のカタログを3媒体と呼んでいます。

 田代 3つのうち1つの媒体を組合員が選ぶのですか。

 山本 年に2回の選択ができます。商品規格が例えば、マイキッチンは一品単位の量が多いので、育ち盛りの子がいる層はたいてい、これを選びますが、中にはKinariを選ぶ人もいます。そこは自由です。

◆ヒット商品の開発手法

田代洋一 横浜国立大学教授
田代洋一 横浜国立大学教授

 山本 とにかく3媒体とも、商品を作った人の思いや、料理法まで載せますから情報量が多いのです。例えばYUMYUMは「味覚が育つ赤ちゃんに『だし』のある暮らしを」と提起し、カツオ節や昆布など合わせだしの商品を案内しています。こうした食育の観点も、ほかの通信販売カタログと違う点です。

 田代 媒体は生協内部で作るのですか。

 山本 いえ、プロとの協働で作ります。規格は商品企画部で作り、編集は協力企業に委託しています。モチはモチ屋に任せる考え方です。基本的政策は、会員生協代表からなる理事会で決め、その下の商品活動委員会で方針を議論します。

 田代 商品開発はどのように進めていますか。

 山本 基本は商品部が開発しますが、さらに会員生協で登録した商品開発サポーターグループが22あって商品部と直結してやっています。組合員の意見を聞き、時間をかけますから、グループが開発した商品は非常にヒットします。

 田代 意見や要望や苦情はどのようにまとめていますか。

 山本 商品の注文書の後ろに書き込むようになっています。またインターネットや電話でも受けています。それを改善につなげ、一覧表にして総会で返しますが、それは膨大な量です。

◆中間の調整者が必要な時代に

 山本 インターネットといえば、利用者の中には発注の翌日に品物が届くと誤解している人もいます。実際には注文の締め切りは週に1回で、届くのはその1週間後なので、まとめて注文するというルールが必要です。
 また産直提携先の生産者が生協を中抜きして組合員から直接受注するネットシステムをつくったことがありますが、すぐに失敗したという例もあります。生産者は自分の作ったものが一番良いと思い込んでいるし、消費者は有機農産物にしても慣行栽培の2倍も高ければ買わないし、視点が違うのですね。だから中間にバランスをとるコーディネーターが必要なんです。

 田代 個配の配達は外部に委託していますね。

 山本 これもモチはモチ屋でプロに委託し、中小企業の物流専門会社ががんばっています。

 田代 個配の利用者は普通の主婦ですか。

 山本 調査したところ、若い専業主婦で高学歴の人が圧倒的に多いという結果が出ました。

 田代 生協と比べ農協はなかなか個人をつかんでいく組織にはなれないと思います。

◆産直には戦略が重要

 山本 強い農協ほど組合員の自立性が弱く、農協が作物を買ってくれたら、それでおしまいとなり、消費者が見えない、といった問題があります。一方、農業法人や任意団体のサムライたちは自分たちの作物が消費者にどう評価されるかを見ています。しかしサムライたちの経営には監査の仕組みがないなどの弱点があります。そこで民主的な農協運営の良さとサムライたちの独立性をミックスしてみればどうかと思います。お互いに刺激し合うことですね。

 田代 産直について、お話下さい。

 山本 私どもの産直事業は全国に100以上の産地を抱え、主要品目は青果、食肉、コメ、牛乳、鶏卵などに及びます。供給高は全体の約40%です。
 産直は戦略的に進めることが大事です。例えば有機と慣行を対立的にとらえず、ピラミッドの頂点に有機、底辺に慣行、その中間に減農薬・減化学肥料ががあるというように産地を立体的に組み立てる戦略です。
 この試みを新潟のJAささかみでやったところ、いろいろ面白いことが起こりました。生産者はカネに変えられない価値を有機栽培に発見し、ホタルやメダカが増えたなどと自慢するのです。交流に出向いた生協の組合員との対話のレベルが高くなり、豊かさのありようがしっかりと語られます。

◆地域水田農業ビジョンづくりを

 田代 地域水田農業ビジョンづくりの実践とともに転作作物も産直品目にすることが必要になりますが、その辺の取り組みはいかがですか。

 山本 私どももビジョンづくりを産地に働きかけています。これは国が政策転換をするためのいいわけとしてのビジョンづくりではなくて、産地には主体的な戦略がなくてはだめだという考え方からです。
 農政批判をしながら、国や自治体は何をしてくれるのか、と没主体的に施策を待っていてはだめです。自分たちで、どういう地域づくりをしていくか展望を持つ必要があります。
 具体的な成功事例をつくることも大事です。個配が拡大した時も成功例が他の生協で活かされましたからね。私どもはJAささかみをモデルとして地域活性化の様々な事業を展開しています。
 パルシステムは、食料・農業政策を掲げていますが、これは安全・安心な食料を確保するためには、生協自らが作り出す産直・農業にチャレンジしていこうという考え方からです。

インタビューを終えて
 いま生協では個配が伸びているが、ほかが伸びているからウチもやるといった便乗型が多く、共同購入の補完物という位置づけも多い。首都圏コープは、個配を共同購入を深化させた独自業態として位置づけ、パルシステムに事業特化する点で極めてユニークである。
 個配を情報産業と位置づけ、組合員のライフステージにあわせて3種類の媒体を発行するなど、業態開発のきめ細やかさが光る。組合員の産地との交流も濃密であり、また組合員による開発商品がヒットするのも一般常識と異なる。新潟中越地震への個配組合員のカンパは最も多額になった。個配は組合員の新しい協同の発見・開発だという点を教わった。
 媒体編集や個配の配達業務はアウトソーシングする。通常はコストダウンの手段として位置づけられがちだが、「もちはもち屋」というパートナーシップを追求している。
 農業法人などはユニークなサムライが多いが運営は問題。農協が強いと生産者が育たないが運営は民主的。両者のいいところをミックスして成功事例を作れ、というメッセージは肝に銘じるべきだ。(田代)
(2004.12.3)


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