農業協同組合新聞 JACOM
   

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新しい時代を創造する生協の活動と商品戦略

生活スタイル・意識の変化に対応した戦略で
インタビュー みやぎ生協専務理事 荻原多加資氏に聞く

荻原 多加資 コープ東北サンネット 事業連合専務理事
聞き手  田代 洋一横浜国大教授
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 東北での生協の中心的存在としてサンネット事業連合を牽引するみやぎ生協は、店舗・共同購入で積極的な施策を打ち出し注目されている。とくに、農産物直売所をインストア化した「旬菜市場」や生協自らが生産指導員を雇用し、産直産地を巡回指導するなど、生産サイドからみても注目に値する施策が取られている。そうした最近の施策を中心に、みやぎ生協の活動について荻原多加資専務理事に聞いた。聞き手は田代洋一横浜国立大学大学院教授。


◆現場力・組織力を上げ競争力を高める

 ――量販店などとの競合が厳しいと思いますが、取り巻く環境についてどう見られますか。

荻原専務
荻原専務

 荻原 一つは、量販店など競合店は大量出店を続け、みやぎ生協の近隣への出店は今後も続くと考えています。なかでも主な競合店であるヨークベニマル(YB)やウジエは惣菜を含む生鮮を中心に強化した店づくりを進めてきていますので、これに対応した生産性の高い競争力の実現が必要です。そのために02年に明石台店というスーパーマーケット(SM)の新しいモデルをつくりました。
 共同購入も業態は異なりますが競合店出店の影響を受けています。競合に勝ち残るためには、共同購入業態の特色を強化していかなければいけないと考えています。
 今年から「7次中期計画」に取り組んでいます。6次中期計画で粗利益率を改善しながら安さ感を生み出してきましたが、業態を超えた価格競争が厳しさを増してきていますので、さらに粗利益率を下げる圧力が強まります。そして、デフレの進行と競争の激化による買い回りが増え、客単価が下落しています。それに適切に対応するために、時間帯ごとの品揃え、使いやすい適量サイズとか地域特性に合わせた品揃え、配達ニーズへの対応が求められています。つまり、組合員の生活スタイルや意識の変化に十分対応しきれていない。また、安全とか安心という生協の良さを、生協ファンを自覚的に拡大するためにうまく戦略化できていないという課題があります。

 ――そうしたなかで、何を目標に、どんな戦略を考えていますか。

 荻原 基本戦略は、「現場力と組織力を向上させ、生産性と競争力を高める」です。「現場力」とは、改善活動が継続して行なわれている職場単位の力量のことで、「組織力」とは、本部の力量、部門間の連携、役員・部長・幹部職員のマネジメント力のことです。

 ――そのためには、どういうことをやっているのでしょうか。

 荻原 典型的なのは、店舗で作業の標準化、売場の標準化、マネジメントの標準化をするためのプロジェクトを1店ごとにやっています。また、目標設定時の折込条件や執行時の状態や条件を分かりやすく記録し、次の計画作成時に使える状態に維持する履歴管理や、予実管理の強化を行います。店舗については、既存店の大規模改装と店舗の再編、3ヵ年で8店以上の新規出店をするつもりです。
 共同購入については、食料品を配達しているという魅力を背景に、店舗にはない特色や利便性のある商品企画と単品集中を強化しようと考えています。みやぎ生協では、毎週注文をしなくても、予め利用登録しておけば自動的に配達するという制度があります。当初、10品目でスタートしましたが、現在は150品目ぐらいまで登録できます。

 ――共同購入のうち個配はどれくらいありますか。

 荻原 いまは32%ですね。

 ――「食料品を配達しているという魅力を背景に」というのはどういう意味ですか。

 荻原 買い物が面倒だという重いものとか、毎週買うものは共同購入でもっと伸ばさなければいけないということですね。

 ――共同購入については商品部を独立させていますね。

 荻原 創立以来、店舗が7割で共同購入が3割できています。そして、共同購入のヘビーユーザの半分は店のヘビーユーザでもあります。だから、県内の食品売上げで11%程度のシェアを取っているわけです。しかし、商品部が一つだと、店と共同購入はサイクルが違うのに、まず店優先になり、共同購入の企画力がなくなってしまうわけです。
 共同購入の企画力を強化するために商品部を独立させよう。しかし、独立させて人を配置するには規模がまだ小さい。そこで事業連帯をしようということにしたわけです。来年からはサンネット事業連合(コープ東北サンネット事業連合)で、統一的に共同購入事業を行う検討を進めています。

◆夕食のレシピを提案する「キッチンサポート」

 ――新規出店のお店のコンセプトはどんな内容ですか。

 荻原 90年代に出店したタイプよりも、生鮮の売場を強化しています。具体的には、メニュー提案をするキッチンサポートというコーナーや旬菜市場という産直野菜の直売所というコンセプトの売場をつくるとかです。02年にこのタイプの1号店を出しましたが、これを広げていこうと考えています。今年度中に同タイプ店舗が15店になります。

 ――評価はどうですか。

 荻原 良い評価を得ていますので、既存店舗も4店舗このタイプに改装しました。

 ――どの点が評価されたんでしょうか。

 荻原 一番インパクトがあったのは、キッチンサポートと旬菜市場ですね。そして、棚を低くしたので、明るくなった、広く感じるということです。

 ――キッチンサポートではどういう形で提案するのですか。

 荻原 今日のおすすめを1〜2品提案しています。1日に200〜500枚レシピが持っていかれますし、取り上げた商品が通常の10倍ほど売れたりします。

 ――このコーナーを利用する年齢層はいくつくらいですか。

 荻原 年齢は関係ないですね。来店したときにメニューを決めている人は2〜3割です。後の人たちは店に入ってから決めているので、その時に良い見本があれば、これにしようとなるわけです。そして、そういうことが期待できる店は、行きやすい店ということになります。

◆好評な直売所をインストア化した「旬菜市場」

 ――旬菜市場とはどういう売場ですか。

 荻原 農産物の平台1シマを産直契約している農家に売上納品方式で提供しています。

 ――直売所のインストア化ですね。

 荻原 そうですね。店から遠い生産者もいますから、インターネットカメラを設置して、産地に売場を見せていますから、自分が今日出した野菜が売れているかどうかがリアルタイムで分かります。個人で見れなくても生産者グループの事務局とか農協でみることができます。

 ――何人くらいの生産者が参加しているのでしょうか。

 荻原 全体では100名くらいです。最初は古川南店で、近くの農家と契約して始めたら大ヒットし、野菜の供給高の2割を占めるようになったので、広げ始めたわけです。広げると自分で運んでこれる人は限られますので、農協と市場とが協力して物流を組んでやっています。

 ――なぜこういう方法をとったのですか。

 荻原 宮城県は米と畜産が中心で野菜はそれほど多くありません。私どもでは、農家の奥さんたちを中心に組織して、地場野菜を仕入れて供給しており、野菜売上げの11%程度が地元産直野菜です。しかし、組合員からは、品物が悪いとか、冬場になるとなくなるとか、不満が多く出されました。それと、もともとは店と特定の産地を結びつけていましたが、たくさん作れる産地のものは全店配荷するが、生産量の少ないところは魅力がなくなり店との結びつきが不明確になってきたので、もう一度、お互いの責任とか緊張関係をハッキリさせるために、直売所を売場の中にもってきたわけです。

◆生産指導員を配置し産地を巡回指導する仕組み

 ――生鮮品とくに産直についての施策は…。

 荻原 産直はみやぎ生協がここまで大きくなってきた原動力です。ただ、30年やってきているうちに、産直が形骸化したり、産直の内部ルールに縛られたりします。そこで私たちの産直を見直すために「産直未来プロジェクト」をつくり、生産者にとっても、生協にとっても、そして生産物にとっても幸せになれる産直とはなにかを検討しました。それをもとに品目ごとに産直の中期計画をつくり、いまそれを実行しているところです。

 ――具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。

 荻原 旬菜市場を含めて産直生産者が400人ぐらいいます。その人たちとどのように生産するかというルールを決めていましたが、それをほ場単位に記録したり監査したり、もっと収量があがり良いものができるように指導したりはしていませんでした。それに挑戦しようと、3年前に元種苗会社員だった人を生産指導員として雇い、産地を回ってもらっています。
 そういうことの成果を含めて品質を高め、収量を上げていくための生産履歴の管理をするという「緩やかなみやぎ生協農業法人」というコンセプトで、野菜の産直をもう一度組み立て直そうと02年からやっています。

 ――個々の生産者と直接やっているのですか。

 荻原 JAといっしょに取り組んでいます。私たちの産直は、旧角田市農協(現・JAみやぎ仙南)からの歴史があり、そこから他の農協へ広げ、さらに漁協や森連へ広げて「協同組合懇話会」をつくり、宮城県の協同組合セクターとして組み立ててきているわけです。

 ――400人の生産者は農協を通してということですね。

 荻原 ほとんどの人がそうですね。主要な野菜産直産地である5農協には産直担当者をおいてもらっています。

◆農業の担い手育成では幅広い角度から支援が必要

 ――最後に、日本農業に対する助言、激励をお願いします。

 荻原 宮城県で農業を考えると、担い手問題について、非常に幅広い角度での支援体制をつくっていかないといけないという思いが実感としてあります。
 旬菜市場のように、まだ家族経営があったり、奥さんやおばあちゃんが作ったりしています。そうした農産物も売り方や結び付け方によっては、良いものがでてきますから、そこに価値がないとは思いません。そういう意味では、一本調子ではなく、実際に現実性のある、今すぐ役立つサポートの仕方があるのではないかと思います。
 現実に野菜県でもない宮城県で、お母ちゃんやおばあちゃんが作っている農家には、何の手だてもいかないわけです。だから私たちのような素人が指導員を雇ってでもやるぞと思うわけです。それが、地域社会や日本経済、自給率向上という大きな流れと違う場所にいるのかというと、そうではないと思いますね。だから、農協に産直担当者を置いてもらって一緒に考えていますし、いまは50万60万の小遣い稼ぎかもしれませんが、グループをつくり生産性を上げ、いいものを作っていけば400万、500万になる可能性はあると思います。そういう意味での支援の仕方があると思いますね。

 ――ありがとうございました。

インタビューを終えて
 東北は出店競争の激戦地で、生協も店舗リニューアルに力を入れているが、その目玉がキッチンサポートと旬菜市場。キッチンサポートで勧めたメニューの食材は10倍、20倍の売れ行きの時もあるという。提案して売ることの重要性を教えてくれる。
 旬菜市場は、農産物直売所の生協店舗インストア化だ。農協直売所の音声情報等で売れ行きを生産者に伝えているが、ここではインターネットカメラによるリアル情報が伝えられる。生協が「営農指導員」を雇って、農家のおかあさん、おばあさんの野菜作りをサポートして宮城県を野菜県に仕立てようという気概だ。
 日本生協連の委員会報告も出るなか、農業県の生協が農業をどう見ているか、不安と期待をもってのインタビューだったが、生協が地域農業の未来や担い手を力強く示唆してくれた。農業サイドがやるべきことを生協がやっている。農協陣営もうかうかしてはおれない。(田代)
(2005.8.4)


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