農業協同組合新聞 JACOM
   

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中国農業を視る

第4回
トウモロコシでも輸入国化か?
―伸びる国内消費に生産追いつかず―

杉山 由洋 JA全農畜産生産部穀物課長
聞き手:坂田正通(本紙論説委員)
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 世界の穀物市場における中国のウエイトは高い。すでに大豆では輸入国となっているが、主要な飼料原料であるトウモロコシでも輸入を始めるという話もインターネット上では飛び交っている。そこで、日本における飼料原料の取扱いがもっとも多いJA全農の杉山由洋穀物課長に、最近の中国における穀物事情を聞いた。聞き手は本紙論説委員の坂田正通。

中国の穀物事情

中国のとうもろこしの需給バランス

◆5年で1億トン減った世界の粗粒穀物在庫


 ――はじめに現在の世界の穀物状況はどうなっていますか。

 杉山 世界の粗粒穀物の04/05年度(9月〜8月)期末在庫は、1億500万トンで期末在庫率は11%です。通常は適正在庫率は、2カ月分に相当する15〜20%といわれていますから、現在は1.5カ月分の在庫しかないということになります。
 99/00年度には2億1000万トン(期末在庫率23.7%)ありましたから、5年間で1億トン以上減少したわけです。

 ――在庫減少の原因はなんですか。

 杉山 減少幅の太宗は中国の期末在庫の減少によるものです。中国の需給の引き締まりが、世界のタイトな需給状況を生み出しているといえます。


◆4分の1になった中国の在庫量


 ――穀物の中心はトウモロコシですが、中国のトウモロコシ輸出量はどれくらいあるのですか。

 杉山 米国農務省のデータによると(グラフ参照)輸出のピークは、02/03年(9月〜8月)の1500万トンですが、現在の03/04年は800万トンとほぼ半減し、来年(04/05年)はさらに半減して400万トンという見通しです。
 ――02/03年に1500万トンと輸出が増えたのは何か理由があるのですか。

 杉山 米国産が不作で相場が上昇したことと、上昇傾向にあった海運市場を背景に近隣アジア諸国を中心に輸出したためですね。

 ――その後なぜ、輸出が減ってきているのですか。

 杉山 期末在庫がどんどん減ってきているからです。期末在庫が一番多かったのは98〜00年で1億2000万トン以上ありましたが、これがだんだん減ってきて今年(03/04年)は4400万トン、04/05年はさらに減って2400万トンと、在庫が4分の1くらいになってしまったわけです。

 ――生産量はあまり減っていませんね。

 杉山 むしろ国内消費が順調に増えているのに、生産は増えていないと見た方がいいと思いますね。そのために輸出を抑制しているのではないでしょうか。


◆食生活の変化で配合飼料の需要が増加


 ――国内消費が増えている要因はなんですか。

 杉山 食生活の欧米化で肉類を食べるようになってきたことだと思います。
 そのためには配合飼料が必要になりますから、トウモロコシの国内消費が増えてきているわけです。

 ――中国の畜産のあり方が変わってきているということですね。

 杉山 日本の昭和20年代のような残飯養豚・養鶏の世界から、穀物を使った配合飼料による畜産に変わってきているわけです。

 ――中国の場合には豚肉が主ですか。

 杉山 中国の食肉消費量はブロイラー(生肉)が984万トン、牛肉(枝肉)が600万トン、豚肉(枝肉)が4385万トンですから豚肉が圧倒的に多いですね。

 ――中国の食生活が西欧化しだしたのはいつごろからですかね。

 杉山 どこの国でも、食生活の変化は経済成長率と比例しています。肉類を食べる割合は、経済成長率が1%伸びると肉類を食べる率は1.2とか1.3%増えるといわれています。ですから、中国の食生活の変化も、中国の経済成長が始まってからだといって間違いないと思います。

 ――この数字(グラフ)を見ていると、期末在庫を消費することで需給バランスをとってきたけれど、在庫がなくなってきたので輸出を減らさざるをえなくなってきたわけですね。

 杉山 00年に入ってからの輸出は、在庫調整によって輸出していただけで、生産が増えたからでも国内消費が落ちたからでもないわけです。

 ――外貨を稼ぐためですかね。

 杉山 それもありますが、在庫がそれなりに重かったのだと思いますね。この数字を見ると、00年以降は生産量よりも国内消費量の方が多いですね。その上に輸出をすれば在庫量は減っていくという単純な図式ではないかと思いますね。


◆耕作面積も反収も増えない穀物生産


 ――インターネットでは、中国が米国からトウモロコシを輸入するというニュースがありました。しかも遺伝子組み換え(GMO)のものでもいいといっているとも…

 杉山 中国はトウモロコシについてはGMOをまだ認めていません。
 それから輸入を行っているということは、現在はありません。買うのではという噂はいろいろとありますけれど…

 ――このデータを見ると在庫はないわけですから、消費が伸びればきつくなりますね。

 杉山 ただ、中国の場合は統計の未整備という問題がありますから、この数字が本当に正しいかどうかということはあります。
 しかし、傾向的に在庫が減ってきていることは間違いありません。

 ――食生活の変化が国内消費量の伸びになっているということでしたが、今後どういうことになっていくと思いますか。

 杉山 いまは少ないのですが肉を輸入するのか、穀物を輸入して自前で畜産をやっていくかですね。トウモロコシの主産地は、黒龍江省・吉林省・遼寧省の東北3省と河北省ですが、飼料穀物耕作面積は、都市化とか水の問題とかがあって、ここ20年くらいまったく増えていません。逆に減っています。
 米国も都市化で耕作面積は増えていませんが、ハイブリットなど種子の改良にGMOが加わるなど広い意味での技術革新があって、反収は増え生産拡大がはかられています。しかし、中国は反収も増えていませんね。


◆将来は穀物輸入国になる可能性高く


 ――そうするといずれ輸入国になる可能性は高いわけですね。

 杉山 すでに大豆を1900万トン買うようなマーケットになっています。トウモロコシも需要が堅調に伸びていますから、今後の輸出力には限界があり、将来的には輸入国になる可能性は出てくると思います。

 ――日本のトウモロコシの輸入量はどれくらいあるのですか。

 杉山 飼料用が約1200万トンですね。それ以外にスターチ用とか、コーンフレークなどの原料となるグリッツなど食品加工用が400万トンほどあり、合計で約1600万トンほど輸入していますね。

 ――輸入国は…。

 杉山 米国が90〜95%です。中国からは食品向けを入れれば100万トン程度ですね。

 ――中国が輸入国になると日本にも影響が出ますね。

 杉山 米国の生産が世界的な供給に見合ったものであれば、それほど影響はないと思います。しかし、米国も耕地面積は増えていませんし、世界的に見ても耕地面積はあとは南米と東欧くらいでそれほどありませんから、需給バランスが崩れれば大きな影響がでる可能性はありますね。

 ――貴重なお話をありがとうございました。

インタビューを終えて

 全農の中に「課」や「グループ」が幾つあるか数えたこともないが、穀物課はもっとも重要な業務の中枢を担う課の一つである。日本が輸入する1200万トンの飼料向けとうもろこしの約30%をこの課の指揮のもとに価格・購入タイミング・船積みの指令を出している。日本の飼料業界に影響を与える。それだけに世界の穀物情勢、取り分けアメリカの穀物事情の分析は緻密に行う。杉山課長はニューヨーク勤務の経験もあり、シカゴ穀物市場の仕組みは熟知している。中国は数年の内にとうもろこしの輸入に踏み切るだろうと推測している。 (坂田)
(2004.7.2)


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