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シリーズ 財界の農業政策を斬る(5) |
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転換期にある財界農政 産業界との「融界」も課題 | ||
小松 泰信 岡山大学教授 |
今年に入って提起された、財界農政を代表する三種類の提言資料が、手許に置かれている。3月に経済同友会が出した「農業の将来を切り拓く構造改革の加速ーイノベーションによる産業化への道ー」(以下、同友会農政と略す)、5月に日本経済調査協議会が出した「農政の抜本改革:基本指針と具体像」(以下、日経調農政と略す)、そして6月に設立された“農林水産業から日本を元気にする国民会議〜田園からの産業革命〜”の設立趣意書および目標である(以下、国民会議農政と略す)。
わが国農業の閉塞した状況を打破するためには、外部からの指摘は少なからず有効である。まして、激烈な競争社会で多くの価値を創造することによって、社会的信頼を獲得してきた財界人の発言には、傾聴すべきものが少なくない。 このような姿勢で、三種類の提言を読み比べると、三者三様であることを再認識するだけではなく、その差異から、財界農政も転換期にあることがうかがえて興味深い。 ◆単純かつ傲慢な同友会農政 同友会農政は、古典的パターンの財界農政である。自由貿易の推進が思い通りに進まない理由に、農業構造改革の遅れをあげ、そのことで「国益」が損なわれるばかりか、国際社会から孤立しかねない、と嘆いている。自由貿易こそが国益をもたらす、という単純かつ傲慢な姿勢では、残念ながら国民的合意は得られないだろう。より問題なのは、経営者能力が高く、意欲に満ちた農業経営者が、国益の名を借りた財界益獲得のために、御為倒しのダシに使われていることである。有能な農業経営者にとっては迷惑千万な話であろう。 ◆傾聴に値する日経調農政
日経調農政は、農業界を過度に刺激せぬよう、慎重に言葉を選びながら、しかし核心部分については、毅然とした姿勢での提言を行っており、共感するところが多い。なかでも、食品産業との連携や新事業の展開で、農業の未来を切り拓くことを提起する「フードシステムと農政改革」、支援対象を日本農業の牽引車に集中することを提起する「新たな担い手経営支援策」、利用優位に徹した新たな農地制度を提起する「農地制度の抜本改革」、アジアにおける日本農業のあり方にまで言及した「むすび:日本農業の将来像」は、興味深かった。そして何よりも、農政の抜本改革をトータルに描き出している点は評価されるべきであろう。不覚にも、「斬る」ことを忘れて読み入ってしまった次第である。 ◆国民会議農政の画期的な取組 国民会議農政は、これまでの財界農政とは、かなり異なった取り組みである。宮沢喜一元総理を代表幹事とする本会議は、社会・経済の再生と活性化のためには、農林水産業の「共同体の基盤となる産業」としての再生・復活が必要不可欠であるという認識のもと、新たな農林水産業の方向性を明らかにし、その構造改革に国民的運動として取り組むことを企図している。 ◆融業は財界の都合か!? 農業をはじめとする第一次産業、そして農山漁村にまで、多くの期待を寄せている国民会議農政ではあるが、手放しで賛意を表すわけにはいかない。最大の疑問は、なぜ今頃「融合」に目覚め、「融業」まで思いついたのか、である。要は、不況期における雇用対策の中で、たまたま第一次産業、とりわけ農業に目がいっただけではないのか。好況期においても、農業との融業まで意識していたのかどうか。さらに将来、好況期が来たときにも農業に対する現在のモチベーションを持続できるのか、甚だ疑問である。 ◆自立した農業経営者の叢生と財界の役割 かつて大先輩から、「財界は農地を狙っている。儲けるためにはどんなことでもする。軽々に信じるな。そして誉めるな」と、大変有難いアドバイスをいただいたことがある。 ◆「融界」の実現をめざせ 転換期にある財界農政から発信された、融合・融業の展開の先に、財界も農業界もない「融界」という新しい概念が浮かび上がってくる。そこではわが国の産業のあり方そのものが、総合的に論じられている。農業界は、財界とのパートナーシップを確立し、早急に「融界」の実現に尽力すべきである。 (2004.8.10) |
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