青果は食品スーパーの顔だといえる。価格は消費者の購買を左右する大きなファクターだが、それだけで消費者が店を選択しているわけではない。四季のある日本では、旬や新鮮さ、美味しさ、健康面など価格以外のファクターも消費者の購買行動に大きな影響を与えているといえる。そこで今回は、首都圏に次ぐ大消費地である阪神圏でも食品スーパーを展開する(株)大丸ピーコック大阪本社の福井寛関西仕入営業部青果部長に、最近の消費動向とそれに応える同社の考え方を聞いた。 |
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福井寛
大丸ピーコック
関西仕入
営業部青果部長 |
◆高質・新鮮・ホスピタリティを追求
大丸グループのスーパーマーケット事業部門である(株)大丸ピーコックは、関東地区に38店舗、関西地区27店舗、さらに大丸各店に8事業所を展開する食品スーパーで、今年創立45周年を迎えた。その基本コンセプトは「安心・安全・健康そして、高質・新鮮・ホスピタリティを追求し、地域の食文化向上を目指す」だ。
同社の関西地区の店舗は、阪神間と千里地区を中心に展開されている。顧客層は、芦屋・宝塚に代表されるような阪神地区の「高質でグレードの高い層が中心」だと福井部長。
◆団塊世代にも好評なカット野菜・少量野菜
日本最初の大規模ニュータウンである千里ニュータウンも同社にとって重要な地域だ。ここは35年前の大阪万博の前から建設され約40年経っている。そのため、ここの住民の多くは「団塊の世代」であり、そろそろ定年を迎える人たちだ。
この人たちは、比較的恵まれた時代に育ち生活してきているので、食べるものに対するニーズも多様だといえる。海外生活の経験者も少なくなく、「中高年は和食だろう」と単純に考えると間違いで、ローストビーフやシーフードサラダなどへのニーズも高い。また、カット野菜やサラダ、少量野菜は、若い人たちのニーズが高いと当初は考えられていたが、世帯人数が少なくなったこともあって、この団塊世代の人たちに売れているという。
◆安心・安全は当たり前。これからは美味しさをLIVE化
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北千里店の青果物売り場 |
そうした顧客の価値観の変化や消費行動の変化に、どう店として対応するかが、これからの課題だと福井部長はいう。
安全・安心というニーズはあるが、それは大丸ピーコックという店では当たり前のことであり、「それができなければ、小売店として失格」だといえる。安心・安全を前提にしたうえで、いま求められているのは、「新鮮さや美味しさ、そして健康」だ。新鮮さや美味しさの裏づけとして、全農安心システムのように栽培履歴が記録されていてそれが「トレースでき、安全・安心が保証されていればいい」という。
そうした「お客様目線に立ったサービス」をするためには、「できたての美味しそうな香りとかジューシーさ、熱々感という人間の五感にダイレクトに伝えられるような“美味しさのLIVE化”」や「食卓での美味しさを提案できる商品提案」をすること。そして、クレーム処理を含めて丁寧な顧客サービスをすることが大事だと考えている。
つまり、新鮮で質の高い商品を親切・丁寧なおもてなしで販売して「お客様に支持される売り場づくりをめざし」ている。それを福井部長は、「高質でおしゃれなスーパーマーケット」と表現する。
◆簡便性・利便性にどう美味しさや新鮮さをプラスするか
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少量野菜・カット野菜など分かりやすく
工夫された商品展示 |
大阪本社のある北千里店をみると、どこのスーパーでも見られるように、その日の目玉商品が入り口近くの平台に山のように積まれている。
だが、その奥の商品棚をみると「カット野菜」「サラダ」「少量野菜」などと記されたプレートが目に付く。こうしたコーナーは、団塊世代だけではなく、それよりも高齢な70〜80歳代の人たちにも好評だ。なぜなら、高齢のために包丁などを使うことが難しくなってきたこともあり調理の手間が省けるからだ。しかも必要な量だけを買うことができる。簡便性・利便性ニーズは若い人だけではなく、高齢者でも高いということだ。
しかし、少量商品だけでは多様な消費者ニーズに応えたことにはならない。「少量から大量まで、量目に注意した細かな商品構成」も必要だし、惣菜でいえば時間帯別のMD(マーチャンダイジング)も必要だ。そして、大丸ピーコックとしての基本的な考え方は全店で統一され貫かなければならないが、各店舗には地域ごとの特性があるので、それを活かした地域密着型の品揃えやサービスを取り入れた独自の展開も重要となる。
こうした簡便性・利便性にどう美味しさや鮮度をプラスすることができるか。それが一番大事だと福井部長は再三にわたって強調する。
◆パートナーとして、全農の情報力・企画力に期待
そうした多様化する消費者の価値観・消費行動に応えた「高質でおしゃれな」店づくりをするためのパートナーとして、全農への期待は大きい。
福井部長はバイヤー時代に5年ほど全農大阪青果センターに常駐していたことがある。その当時は、さまざまな情報がセンターから提供されかなり密度の濃いコミュニケーションができていたが、最近は、年1回「全農フェアー」を開催したりしてはいても、少し疎遠になったのではないかと感じている。
もう一度、コミュニケーションを深めるために、2か月に1回、センターと情報交換会を開き、その情報を元にバイヤーが産地に出かけて商品開発をすることにしたという。そのときに福井部長が期待するのは、全農がもつ、全国各地の多種多様な情報の提供とそれにもとづく企画力だ。
例えば、ジャガイモのような「土もの」について「全農マーク」の付いた商品を年間安定的に供給したり、野菜産地での独特の食べ方や食文化を消費者に紹介して、新しい食べ方を提案することだ。「全農マーク」の土ものが美味しいと消費者に受け入れられれば、「このマークの付いたトマトとかキュウリはないのか」といわれるようになり、次の商品展開へとつながっていくことになる。産地の食文化の紹介は、「この野菜にこんな食べ方があったのか」と、消費者に新たな発見と驚きをあたえることになり、需要を喚起することにもなるからだ。
また、バイヤーの人たちが産地を訪れ生産者と意見交換をし、生産者の想いを知ることで、一つひとつの商品への愛情も生まれ、売り方も変わってくることもあるだろう。
◆価格一辺倒では勝ち残れない
阪神・千里地域もオーバーストアであり、関西という土地柄もあって価格にはシビアだ。だが、そういうなかで競合に勝ち残るには、価格競争一辺倒では難しい。とくに、青果はお客がどの店で買い物をするかを決める重要なファクターとなっている。そういう意味で、安全・安心はもとより、美味しさ・旬などの季節感・新鮮さ・健康などのファクターを組み合わせた商品の提供と、調理の仕方や食べ方などをどう提案できるか重要になる。
それを可能にする情報の提供とそれをベースにした企画提案を積極的に行なうパートナーを求めているといえる。福井部長は、それを全農大阪センターに求めているわけだ。最近は、日配品や加工品など保存のできる商品では、一社に品揃えから棚の管理を任せる傾向がある。青果でもそうした店が増えつつある。福井部長の脳裏には、それを全農にというイメージがあるのではないだろうか。