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トップインタビュー・農と共生の世紀づくりのために |
消費者が本当に望んでいるのは「分かりたい」ということ |
これからの食のテーマは「健康」
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河野 栄次 生活クラブ事業連合生活協同組合連合会会長 聞き手:田代 洋一 横浜国立大学教授 |
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首都圏を中心に北海道から愛知まで1都1道13県の26単協26万人を擁する生活クラブ生協は、「食の自給と環境保全」や食料を世界から輸入することで生じている「格差・差別の廃絶」などの基本理念を掲げるとともに、「生命の論理に立ち『安全・健康・環境』をあらゆる事に優先して行なう」という生活クラブ原則による産直によって、トレーサビリティをすでに実施しているなど、日本における食の問題のオピニオンリーダー的存在として知られている。そこで、河野栄次会長に、同生協の基本的な理念から産直や今後の農業のあり方などについて語っていただいた。聞き手は、田代洋一横浜国立大学教授にお願いした。 |
◆協同組合は生活を豊かにするための道具
河野 生活クラブが考える協同組合の本来的な目的は、協同組合に参加した人の生活を良くするための道具ということです。ですから、人びとの生活を良くするためにどのような道具立てをするべきなのか。事業はあくまでもそのなかの一つで、事業を通して生活の豊かさを実現することもあるし、事業活動を伴わずに生活の豊かさをつくることもあるわけです。 田代 それはなぜですか。 河野 協同組合は民主的に運営すると決定に時間がかかる弱点を持っています。2つ目は、出資金は増殖する形態を持っていないので、資本ではありえない。その制限性がある資金力を持って、株式会社と同じレベルのことをやるのは無理です。この二つの問題を解決する目途が立たない段階で、株式会社と構造が違うのに、同じように競争しても勝てるとは思えません。 ◆コミュニケーションの場としてこれからも班は必要
田代 業態としては、何が主体ですか。 河野 基本的には、班をベースにした個配です。デポー(小型店舗)は、40デポー・100億円という枠組みのなかで、再生産が可能な仕組みにするという計画段階に留めるという方針です。これは店舗というよりも、大型の分け合うところであり、ここで見て発見して新たに参加する動機づけの場ですね。 田代 班に基づく個配が主体ということですが、班とはどういう性格ですか。 河野 物を分け合うという仕組みとしてだけではなくて、コミュニティの場でもあります。人びとの活動の場としての班という認識です。人びとが学び合い助け合うことができる場という意味です。 田代 個配をどう位置づけますか。 河野 全部が個配になったら負けると思います。なぜかというと、班が持つ教育機能は非常に重要です。班は人びとが集まりながら、人びとの生活を相互に話し合って、自分たちの生活のあり方をつくってきたという歴史的な経過があると同時に、今日も次ぎの時代も人びとのコミュニケーションは必要条件です。事業形態のあり方は多様にしますが、組織運営のあり方としては、人びとの集まる場として班を位置づけるわけです。 田代 商品開発や仕入れへの組合員参加はどうなっていますか。 河野 単協の代表者で構成する連合消費委員会で、すべての消費材について決めています。この委員会では米とか牛乳などの政策議論もします。新しい消費材の開発については、自分たちが開発したいものに手をあげてもらいチームを組んで半年から1年かけて開発します。 ◆国産の「種(しゅ)」にこだわり生産者と一緒につくる運動が産直 河野 品目別に産地開発を行なっています。できるだけその品目の主産地の生産者の中で、生産情報を開示してくれる人と提携します。情報開示は絶対条件です。生産者には「『安全・健康・環境』生活クラブ原則」を批准してもらい、一緒に問題を解決していくという考え方に立っています。 田代 代表的な例をあげてください。 河野 米は現在はJA庄内みどりになっていますが、合併前から遊佐町農協にササニシキ全盛時代にポスト・ササニシキという提案をして、生産者と組合員で委員会をつくり、実験を繰り返しながら共同開発しました。 田代 その他の品目では…。 河野 牛乳、鶏卵、豚肉で生産者を集めて組織化をしてやっています。鶏肉では国産肉用若鶏「はりま」で取り組んでいます。従来は、生産者に情報開示してもらっても、一般的にはコップやチャンキの原種鶏で輸入されているので生産者も原々種鶏までは分かりません。ところが(独)家畜改良センター兵庫牧場は原々種鶏まで持っているので、そこと提携して、原種鶏にしてもらって(株)イシイ関東支社で種鶏にして、群馬農協チキンフーズ(株)と山口の(株)秋川牧園でコマーシャル鶏にしています。 ◆食料はどういう価値を持つのかを問う運動 田代 通常いわれる産直とは確かに違いますね。 河野 このやり方は、安い高いということではなくて、食料はどういう価値を持つのかを問う運動をしているということです。だからといってすべて高くなることもありません。中間の処理コストを改善したり、予約制度と1頭(羽)買いで戦えるのではないかと思います。 田代 野菜については…。 河野 地場産を中心に生産者を組織しています。これが全体の供給量の2割ほどです。後は首都圏の場合、100キロ圏内の農協と話し合いをして決めます。年間正月とお盆休み等を除いた49週にどんな野菜をどう扱うかを最初に決め、まず地場、次に主要産地にお願いし、それでも需要供給のアンバランスがあるときは補完産地をつくります。 田代 欠品が起きたときはどうしますか。 河野 仕様規格書が出ているところがあれば代替できますが、そうでなければ欠品になってしまいます。 ◆熟して次ぎの生命を生むときが一番おいしい 田代 これからの食のテーマはなんだと思いますか。 河野 「健康」です。いまは「安全・安心」といいますが、これは間違っています。はりまのような健康な鶏が安全性を保証してますし、健康な牛が安全な牛乳を保証しているんです。人間は「健康で長生きしたい」といいますが、動物は経済的な動物になって健康という概念がありません。私たちが種の問題に取り組んだときから、健康は絶対条件になりました。 ◆守りの発想をやめ、農業は創造的な仕事だと宣言しよう 田代 最後に農業サイドへのメッセージをお願いします。 河野 一番いいたいのは、農業・農村を守るという発想をやめて欲しいということです。その発想が既得権益を守るエゴとして受けとめられています。そうではなくて、自分たちは1億3000万人の食料を創る産業なのだと、ハッキリ宣言してください。そして、農業とは創造的労働なんだと。こうしたメッセージを明確に出すべきです。工業は開発や製造など作業が分業化されていますが、農業は環境条件が毎年異なり、二度と同じことはありませんから、経験に基づきながらも、常に自分で創造的に判断しなければならない。こんな面白い仕事はありません。それがいつの間にか3K労働になってしまったわけです。なぜかというと、農業の生産時間と生産空間をメッセージとして消費者に出さなかったからです。 田代 今日はお忙しいなか、ありがとうございました。
(2005.1.6) |
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