農業協同組合新聞 JACOM
   

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トップインタビュー・農と共生の世紀づくりのために

生産現場の情報を伝え、消費者ともっともっと交流を
生産履歴の記帳は信頼感を醸成する
日和佐信子 雪印乳業(株)社外取締役に聞く
聞き手:北出 俊昭 明治大学教授
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 生協や消費者団体の活動を経験し、食の安全性やこれからの食品行政のあり方について、消費者の立場から提言をされ、現在は食品メーカー・雪印乳業の社外取締役としても活躍されている日和佐信子氏に、今日における食の安全と安心や農協組合が考えなければならない問題を率直に語ってもらった。聞き手は北出俊昭明治大学教授。


◆安全性確保のルールはできた だが、守らなければ安心はない

日和佐 信子氏

ひわさ のぶこ 
昭和11年生まれ。早稲田大学卒業。昭和60年都民生協(現コープとうきょう)理事、62年東京都生活協同組合連合会理事、平成元年日本生活協同組合連合会理事、7年同組織推進本部本部長補佐、9年全国消費者団体連絡会事務局長、14年雪印乳業(株)社外取締役。食料・農業・農村政策審議会委員。

北出 最近、食の安全問題が大きな社会問題になっていますが、そのことについてどう感じていらしゃいますか。

 日和佐 よく食の安全・安心とひとくくりでいわれますが、食品の安全を確保するために、さまざまなルールや法律、公規制がありますが、それらが適切に設定されていることが、まず前提になります。従来は、食品衛生法が主な安全性確保の法律だったわけですが、「時代錯誤の法律」と私たちが指摘してきたように大きな問題がありました。それが改善され食品安全基本法ができ、整合させる形で個別法も改正され、安全性を確保するために法はかなり高いレベルで整備されたと思います。
 もう一つは、メーカーとか生産や流通にかかわる企業・事業者が、自分のところから安全な食品を社会に出していくために自主ルールもかなり整ってきていると思います。全体としていえば、食品の安全性を確保する枠組みは、それなりにできているといえます。

 北出 だけど、国民の間には安心できないという意見がありますね。

 日和佐 それは、ルールができ罰則も強化されたけれど、そのルールがキチンと守られているという確信を持てないからです。いまだに表示の偽装があるように、ルールはできたけれど「守っていない。だから信用できない」「安全性に対する信頼が持てない」というのがいまの状況だと思います。
 いままでの食品安全行政は、「行政が国民の命は守ってあげますから、安心しなさい」という枠組みで、リスク情報などの情報を出してこなかった。だから消費者は情報を見て「こういうリスクがあるんだ」ということを考えずにきました。いま枠組みが変わりましたが、まだ、消費者は慣れていません。

 北出 法整備ができたのにいろいろ問題が起きている要因は何でしょうか。

 日和佐 事業者の意識が変わっていないからだと思います。表示偽装問題をみていると、いま急に悪いことを事業者がし始めたわけではなくて、いままでずうとやってきたことに対する反省がないから、世の中が厳しくなっていることに敏感でないから、「いままでやってきたんだから」という感じでやり続けて、暴露され糾弾されているケースが多いですね。

 北出 企業倫理が欠如しているわけですね。

 日和佐 「いままでもやってきた」「他所もやっている」というこの二つを見直さなければダメですね。

 

◆食べる技術、食事を楽しむ技術がなくなってきている

 

北出俊昭 明治大学教授
北出俊昭 明治大学教授

 北出 消費者の健康に対する不安感も強いですね。

 日和佐 知識のキチンとした受け継ぎがなくなっていますから、食べる技術がなくなってきています。だから、健康に対する不安を補填するためにサプリメントに走るわけです。

 北出 食べる技術がなくなってきているのはなぜでしょう。

 日和佐 一つは、核家族化だと思います。食べることの知識や経験が、親から子へ伝わっていないんですね。たぶん「腐った味」を知らないので、腐っているかどうかの判断ができないから、賞味期限が切れるとパッと捨ててしまう。
 もう一つは、全体的に暮らしが忙しくなってきていて、主婦のほとんどがパートとか仕事を持っています。主婦が家庭を出るとカバーしてくれる人が誰も居ないので、とにかく簡便な食事でという方向に傾斜していき、自分で作る技術も、みんなで食事を楽しむという技術もなくなってしまいます。

 

◆農業体験をすると子どもの顔つきが変わり目が輝く

 

 北出 現在の農業について、食品の安全性で感じておられることはありますか。

 日和佐 食品安全基本法の制定で生産現場に対する責任追求が非常に強くなり、生産現場も安全性の確保に努めなければいけないという枠組みが強化されました。そして生産記録をつけることも取り組まれています。これは大変なことかもしれませんが、何かあったときに説明の根拠になります。これを有効に活用すれば自分の農業経営の見直しにもつなげることができますし、そのことが生産現場に対する信頼感を徐々に醸成していくことになると思います。

 北出 農産物は天候に左右されますが、産直などの場合、約束したものがなぜ定時・定量こないのかといわれますね。

 日和佐 それは流通の責任ですね。流通は約束した量は、どうしてもといいます。しかし、生き物を相手の生産現場はそうはいきません。生協のような組織は、天候不順で収穫できないので欠品になるということを組合員に伝えることです。それは流通を担う人たちの責任です。そうすれば消費者は納得します。
 大消費地の消費者は、どのように作られているのか、生産現場をほとんど知りませんから、農作物とはこういうものですということを、消費者につなげるのも流通の責任です。そういうことをやっていかないと、機械工業製品のように農作物も作られ、同じ形のきれいなものができてくると思い込んでしまう。

 北出 生産者ももっと消費者に働きかけをしないといけないわけですね。

 日和佐 現実を突きつけられた方がいいと思いますね。

 北出 そのほかに、生産者団体として何が必要ですか。

 日和佐 消費者ともっともっと交流をして欲しいですね。そのときのターゲットは、私は子どもだと思います。農業を体験して楽しさを知ると顔つきが変わり目が輝きます。給食を地産地消でやるのはとてもいいことです。そして給食の時間に生産者にきてもらって話をしてもらうと、子どもは変わります。そういうプログラムに農協が協力してくれるといいですね。

 北出 農協組織は購買や販売だけではなくて、そういう方面にも事業の幅を広げていかなければいけないわけですね。

 

◆自給率向上は食生活を見直しお米中心の食事から

 

 北出 輸入農産物の問題についてはどうお考えですか。

 日和佐 いまの生産能力からいえば、一定、輸入に頼らざるを得ないわけですから、しかたがない部分があると思います。しかし、カロリーベースの自給率は一つの指標にすぎないと思います。自給率の高い野菜はカロリーが低いから、かなり食べてもカロリー自給率に貢献しません。そういう矛盾もあるので、自給率は多角的に見て、どう考えたらいいのかというような提案をした方がいいと思います。
 そうはいっても、自給率は上がった方がいいと思います。日本は米が作りやすい国で、兼業農家でも作れるのが米なんです。そんなに作りやすい米を食べなくなったのが、自給率には影響していますね。
 食生活を見直すという点でいうと、お米を中心にすると副菜が油っこいものでなくてよくなるんです。パンに豆腐は合わないでしょう。自分の身近な環境で生産されているものが、一番合っているわけですから、そこをもう一度見直した方がいいと思います。

 

◆問題をいち早くキャッチするために内部告発制度の導入を


 北出 農協組織については、どう思われていますか。

 日和佐 先駆的な全農安心システムを開発したり、表示問題が起きたときには全商品をチェックして公表され、ずいぶん変わってきていると思いますね。しかし、協同組合組織というのは、みんなで考え、みんなでやっていくという共有化が良いことである反面、甘さにつながったり意思決定が遅いという問題がありますね。
 いま多くの企業では、ホットラインとかヘルプラインという内部告発制度を設置するようになってきています。そういうシステムが必要ではと申し上げたら、協同組合という性格上なじまないということでした。何も問題が起こっていなければいいんでしょうが、起こっている問題をいち早くキャッチするためには、協同組合組織といえども何らかの形でつくった方がいいと私は思います。私も生協にいましたから、なじまないという気持ちは分かりますが、いまはそうはいっていられない時代で、どうしたら自浄作用が働くかという仕組みは必要だと思います。

 

◆消費者基本法をキチンと受け止め考えて欲しい


 北出 最後に、05年に大事なことは何だとお考えですか。

 日和佐 消費者基本法ができましたので、これをキチンと受け止めて欲しいと思います。従来は消費者保護基本法だったから「保護」が抜けました。保護基本法のときには、行政がルールを決めて事業者をコントロールするので消費者は安全ですという枠組みでした。それが、消費者には権利があります。消費者は自立してその権利を確立していけるように、消費者がまず頑張らなければダメですよ。行政や事業者は消費者の権利を尊重して、その権利が実現できるように援助していく責任があるという枠組みに変わりました。
 消費者の権利を考えたときに、農協ならばどういう権利がかかわってくるのか、それに対してどう考えていくのかを考えて欲しいですね。
 例えば、選択する権利は、表示につながってきますし、選択するために情報は分かりやすく提供しろと書かれています。そのあたりをよく考えて欲しいですね。

 北出 どうもありがとうございました。

(インタビューを終えて)
 日和佐氏は長年生協運動に携わってこられた経験があり、「食」の安全について貴重なご意見をお聞きすることができた。なかでも特に印象深かった第1点は、法体系が整備されているにもかかわらず偽装表示などが続いている原因について、事業者の意識改革と同時に、ホットラインやヘルプラインの具体的対応策の充実を強調されたことである。こうした観点から見て、協同組合での自浄作用の強調も印象的であった。第2点は国民の「食べる技術」が不足していることを指摘されたことである。これには個人では解決できない問題もあるが、まずひとり一人の自覚が大切だと思われた。第3点は生産者と消費者との交流の大切さである。特に次世代を担う子ども達への働きかけの重要さを感じた。
 「食」の安全には「質」と「量」の両面がある。インタビューを終え、本年には人間の生存に不可欠な「食」についての関心がもっと高まることを期待する思いが強まった。(北出)
(2005.1.11)


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