小高根 利明 JA全農肥料農薬部長に聞く
IPM(総合的病害虫管理)に取り組んでいる産地とIPMに適合した生物農薬や化学農薬を開発・提供し、積極的にIPMを推進しているメーカーを5回にわたって紹介してきた。最終回の今回は、JAグループとしてIPMをどう考え推進していくのかを、JA全農の小高根利明肥料農薬部長に聞いた。
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◆輸入農産物に勝つための重要なファクター
――IPMについてはいろいろな考えがありますが、部長はどのようにお考えですか。
小高根 産地がより安心・安全な農産物を生産して消費者・国民に提供するという熱い思いを実現するために、どういった手段で何を取り入れるかだと思います。その一つがフェロモンや天敵であり、天敵に影響をおよぼさない化学農薬を組み合わせたりすることだと思いますね。
市場経済のなかで輸入農産物とも競争しているわけですから、国民の一番近くで生産し新鮮で安全・安心で、美味しくて健康のもとになる農産物を届けることが、農産物の商品性として輸入物に勝つための大きなファクターとなると思います。その一翼をIPMが担っていくと考えています。
――JA全農としてはIPMの担当者を置き積極的に取り組まれていますね。
小高根 国民の健康は食事であり食料が基本ですから、多彩な農産物を届けることが、JAグループの大事な使命です。そのために安全で美味しくて新鮮な農産物を生産するために、どう防除したらいいのかが鍵になると思います。そして、化学農薬を必要最小限に抑えて生産される農産物の安全性を消費者に理解してもらう。また、生産者にも必要以上の農薬を使わない防除体系を推進していきたいと考えています。
化学農薬は効果面では大変に優れた面がたくさんありますが、連用すると虫ならば抵抗性がつきますし、菌であれば耐性菌がでたりします。化学農薬の潜在力を十分に活かすためにも、手間ひまはかかりますが、IPMという総合防除体系を定着させていきたいと考えています。
◆産地として農産物の価値や思いを共有する
――これからはIPMが重要な防除方法になるわけですね。
小高根 IPMはけっして楽な農法ではありません。自分たちの農産物を安心・安全できちんと生産して消費者に届けるという熱い思いがないと取り組めないと思います。このシリーズで紹介された産地の人たちには、そういう熱い思いがありますね。
――生産者の意識づけが重要なのですね。
小高根 自分たちの産地を、農産物をどういうメッセージで消費者に届けるのかという基本的な思いがなければ難しいと思います。
それは1軒の農家だけがやっても効果が薄いので、地域全体で取り組み、みんなで産地や農産物の価値を共有しなければいけないと思います。そして地域防除・共同防除をする核としてはJAグループが一番ふさわしいと思います。
――そういう意味でフェロモン剤を中心とした取り組みをしていくのですね。
小高根 フェロモン剤だけではありませんが、フェロモン剤は地域全体で取り組まないと効果がありませんから、私たちが推進の主体的な役割を担えるし、担わなくてはいけない分野だと考えています。ただし、IPM即フェロモンと限定して考えているわけではありません。
――果樹や露地栽培の野菜などは、地域全体で取り組まないと効果が上がりませんね。
小高根 いまトレーサビリティとか、農産物の特徴を消費者に理解してもらう方向に進んでいますので、IPMは輸入農産物と差別化する大きなファクターだと思います。ただ、地域全体の同意が得られないといけないので、歩みは遅いとは思いますが、今後ともキチンとやりとげていきたいと考えています。
――そういう意味ではJAで営農指導する人たちの役割は大きいですね。
小高根 一人ではできない防除ですし、それぞれの地域で、みんなで熱い思いを共有しないと成り立たない防除体系ですね。
◆より良い資材の開発をメーカーに期待する
――メーカーへの期待としてはどういうことがありますか。
小高根 マーケットが縮小するなかで苦しいとは思いますが、新剤の創製はメーカーでなければできない仕事ですので、より安全な農薬を開発して欲しいと思います。それが長い目でみて、日本農業の発展に寄与していただける途だと思いますね。
もう一つは、「農薬は悪いもの」というイメージが強いので、できるだけ早い時期に農薬そのものに対する国民のイメージを変えていかなければいけないと思いますね。農薬は必要な資材で、みなさんの食卓を豊かにする一つの要素だということを理解してもらえるような農薬のイメージをメーカーや私たちが一緒になってつくっていかないといけないと思いますね。
40〜50年前の生産性優先時代の効果だけを狙った農薬の残像がまだ残っています。ですから、より安全性の高い農薬を開発してもらい、昔のイメージを今日的なイメージに切替えていきたいですね。IPMとかフェロモン剤が定着すれば、そういうことも期待できるのではと考えています。
そして開発面ではより多くの仲間がいた方がいいわけです。そういう意味では、IPMの普及、系統園芸事業の活性化、共同防除といった分野で一緒になってやってくれるメーカーと力を合わせて、普及推進のスピードをあげていきたいと考えています。生産者のみなさんが使える資材が豊富になることを期待していますし、それが農薬メーカーの使命ではないかと思いますね。
◆生産者・JAグループ・メーカーが一体となって
――現在はフェロモン剤を中心にIPMを推進していくということですが、今後の展開については…。
小高根 現実に使える防除体系や商材がないと生産者に訴えられないので、選択肢が広がるような研究開発に期待していますし、待ち望んでいます。
フェロモン剤はそういう中でも共同防除しなければ効果がありませんから、JAが核となって実施するのが一番の近道だと考えて進めているわけです。それはフェロモンという資材だけではなく、いままでお話してきたような考え方や熱い思いをJAグループのなかに広げていきたいということです。
――定着するには時間はかかりますね。
小高根 それぞれの産地に合わせたIPMのプログラムが必要ですから、技術として確立するにも、効果が表れるにも時間がかかります。そうした困難を乗り越えていくためには、IPMでやるという考え方や思いをシッカリもたなければいけないと思いますね。
そういう意味では、JAの営農指導員の役割が大きいと思いますね。
――みんなが一体となって取り組むことが大事ですね。
小高根 農薬の分野でいえばメーカーからJAグループそして生産者までみんなが一緒になって、消費者に安心・安全で新鮮・美味な国産農産物を届けるという意味での価値を高めて、消費者に認められる。まさにインテグレーションというか一気通貫の事業だと思いますね。そのなかで私たちの使命と機能をがんばって果たしていこうと考えています。また、同じ思いを持つ仲間である生産者やメーカー、さらにいえば日本農業の価値をキチンと届けろという消費者の意見も取り入れて進めていきたいと思います。
――ありがとうございました。
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