農業協同組合新聞 JACOM
   

アジアの農業最新事情
韓 国 農業の新たな可能性創る “ベンチャー農業”を促進
閔 勝奎(ミン スンギュ)
サムソン経済研究所 首席研究員

 WTO農業交渉やEPA交渉では日本にとってアジアとの協力、連携が今後の大きな焦点となる。このシリーズでは、水田農業という共通点のあるこれらの国々の農業最新事情を研究者らに定期的に解説してもらう。


◆韓国農業の新たな転機

閔 勝奎(ミン スンギュ) サムソン経済研究所 首席研究員

“人々が /争う都市に/引っ越したら/村は 寂しい/そしたら 村は泣く/村よ 泣くな”
 キム・ヨンテックという詩人の散文集の中に載せられた小学校5年生の文である。韓国農業の現実をそのまま表現しているといえる。今韓国の農村共同体は活力を失いつつあり、農民達は負債の軽減を要求しながら激烈な示威をする程の危機的状況にある。
 その一方、他の産業部門では今や新しい転機を迎えている。
 社会の各分野は知識基盤のデジタル時代に移り変りつつある。これは選択の問題ではなく生存の問題として認識されており、ベンチャーが我々社会のキーワードに浮かび上がっている。このような変化の流れは農業部門においても例外ではない。
 農業もこのような新しい転換期に積極的に合流してこそ現在の危機を克服して新しい発展の跳躍を迎えることができるのである。

◆創意力重視の精神で

 そのためには今後 農業は、農業が持つ限界を考慮しつつこれまでのような労動・土地・資本など人的・物的要素の拡大に偏重する慣行的な古い農業とは異なって、アイデアと技術、 創意力に基礎をおく知識基盤の新しい農業の創出に注力する必要がある。ベンチャー農業はまさにこのような課題を一言に圧縮した概念である。
 農業分野でベンチャーという意味は、単にKOSDAQ(日本のJASDAQに似てるもの)に上場して株価を上げるというレベルのものとは異なり、今まで生産にのみ汲々としていた農業分野に消費者、即ち顧客満足という概念を認識させて、 変化を嫌う農業界にデジタル経済に適合した経営とマーケティング能力を注入するという意味である。
 今まで農業分野が立ち遅れていたもののうちの一つがまさにこの経営とマーケティングだと見た場合、この分野へ新しい血を一日も早く輸血しなければならない。過去のように政府に依存する農業ではなく、個々人の創意力が重視される農業に発展させ、このような土台を定着させようとするのがまさにベンチャー農業の精神である。
 幸いにデジタル革命という時代の潮流は農業の成功・可能性を高めている。
 今や農業にもビジネスチャンスが到来した。農業人、個々人が変化の機会を自覚して創意力とベンチャー精神を調和させ、個性ある農業ビジネス(Agri―Business)を創出すれば、農業もいくらでも先端産業として発展できる分野に変身が可能である。
 既に国内の農業には、劣悪な環境から創意力と技術で勝負しようとするベンチャーの新しい芽が芽生えており、農地、施設などのハードの基盤と長期間蓄積されたノウハウに新しい技術とアイデアが結合されたベンチャー型農業が出現している。
 これは伝統的な製造業がIT技術を導入してデジタルに転換(e―Transformation)するのと同じ理屈である。3代にわたる匠人精神で名品を生産している青梅農園、多年生トラジ(キキョウ)の栽培法を発見した長生トラジ、コンピュータとインターネットを先端農器具として活用している育鶏農場とサイバー・ファーム(cyber farm)、東洋の神秘的な味を創り出そうとする人蔘チョコレート等、成功・可能性の高い事例は少なくない。
 これらの事例は、農業も高い収益を創出するビジネスモデルになり得ることを実証している。特にバイオ、デジタルなどの新技術を積極的に活用しながら、マーケティングとネットワークを重視するのが共通点である。

◆ベンチャー農業の生態系を形成

 今からでも韓国農業が持っている潜在的な経営資源とベンチャー精神を結合させた成功事例を拡散させてベンチャー農業の生態系を形成すべきである。これが可能であれば、現在の困難な環境をかえって良い土壤に変転することができる。
 意外にも農業分野ではベンチャー化が可能なアイテムが無尽蔵なのに、産業化されずに死蔵されている境遇が数多くある。今からでもベンチャー精神に目を向け新しい変化を企図すべきである。
 もちろん、ベンチャー農業を我々の農業の活路を開く新しい分野の一つとして位置づけさせるためには解決すべき課題が山積している。
 まず、ベンチャー農業特有の高いリスクを解消する制度的な補完装置の開発が切実に要望される。そして大部分が所有と経営が分離されていない家族農業であるか、または形式的な組合形態で運営されているために、資本誘致に多くの困難を抱えている。加えて販売網の構築なり製品の広報戦略の面からも解決すべき課題が山積している。
 今や韓国農業も“顧客”“集中”“連結”というキーワードで顧客のために存在する農業、成功可能な分野に集中して革新力量を育てる農業、いままで断絶されていた非農業分野に同伴者を求め彼らと協同する農業を指向すべきである。
 これらを通じて新しいアグリ・ビジネス(Agri―Business)を我々自らが創って行かねばならない時だと思われる。

◆21世紀型の知識産業へと変身を

 このために必要なことは、農業をより一層競争力を持つ産業に、そして希望と夢のある21世紀型の知識産業に変身させるという自覚と意志である。
 この時、重要なことは未来の農業の変化を他人に先駆けて受け入れ、古い時代の遅れた問題点をいち早く捨てることができる能力を育てることである。
 現在の物差しで過去に執着すれば、問題の悪循環をもたらすだけで根本的な解決の手助けにはならない。
 ベンチャー農業の導入とその精神の拡大、これは素晴らしい変化に先立つ韓国農業の重要な生存手段になるかも知れない。

(2005.4.6)


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