農業協同組合新聞 JACOM
   

米事業改革の現場から
座談会 売れる米づくりに向けたJAグループの米事業改革を考える


 改正食糧法の施行など16年度から具体化した米政策改革。JAグループは、地域水田農業ビジョンの策定とその実践、また、安全・安心を基本とした売れる米づくりをめざす「JA米」の確立など米事業改革に取り組んでいる。本紙ではこうしたJAグループの取り組みについて継続的に考える「シリーズ・米事業改革の現場から」を企画した。
 このシリーズでは産地JAの地域農業戦略づくり、米の生産、販売計画など、現場での模索、実践を紹介するとともに座談会、本紙アンケート結果分析なども交え、多角的に米事業改革を考えていく。第1回は16年度の取り組みをふまえて関係者に現状分析と今後の課題などを話し合ってもらった。(このシリーズは月1回を予定しています)

出席者
JAみちのく村山
営農販売部米穀課長 高橋成男氏
JA全農
米穀部事業対策課長 中地次男氏
明治大学教授(司会) 北出俊昭氏

◆米政策改革は意識改革が必要

高橋成男氏
高橋成男氏

 北出 昨年から米政策改革が具体化されました。最初にこの一年を振り返って米の生産、販売をめぐって現場ではどういう問題が起きているのかお話いただけますか。
 高橋 食糧法改正にともなって米の世界も市場重視ということになったわけですが、われわれJAの立場では、そうした状況の変化をいかに生産者に理解してもらうかが重要だと考えました。それを伝えるために、、毎月発行している組合員向けの「農協だより」で昨年の2月から半年間のシリーズで、逐一説明しながら理解を求めてきました。ほかにもあらゆる機会を捉え、座談会や農協の事業説明会とかさまざまな場で米をめぐる情勢が変わっていることを繰り返し説明しています。
 こういう取り組みのなかでいちばんの問題だったのは、生産者の理解とわれわれJAの認識が必ずしも一致していないことです。たとえば、農協に米を出せばそれでもう売れたという認識が依然あるんですね。ですから、それを払拭するためにも、何回も説明して意識を変えてもらうことが必要だったわけです。農協に出荷しても、農協はそれを保管して売り切るために時間もさまざま、経費もかかるというようなことをですね。
 北出 現場ではまず生産者の意識を変えることが課題だということですね。全農の立場からは、この1年間の変化についてどうみておられますか。
 中地 16年産米の事業の取り組みにあたっては、米政策改革の初年度ということでしたから、従来の集荷・販売対策を大きく見直し、次の3つの大きな柱を立てました。
 1つは、計画流通制度が廃止されるためJAが取り扱う米については安全・安心をコンセプトとした「JA米」を確立していこうということです。
 2つめは、販売面で実需者と結びついた取り引きを拡大していこうということです。
 そして、3つめは生産者とJAの間でより契約意識を徹底した出荷契約をめざそうということです。今までのような制度で結びついた集荷というものから脱却し、民間ベースの契約意識への転換が必要と考えたからです。
 こうした取り組みの結果ですが、「JA米」の16年産の集荷実績は177万トンになりました。しかしながらJAグループ全体の集荷見込みは現時点で392万トンと、生産量に対する集荷率は45%で残念ながら集荷の回復というところまでには至っていません。
 一方、販売面では、実需者との結びつきを強めた販売という取り組みは一定の成果を上げたのではないかと考えています。16年産の特定契約については20万トンを見込んでいるところです。ただ、米流通の多様化が進んでおり、JAグループの集荷、販売は厳しさを増してきています。
 こうした状況をふまえて、17産米では、より信頼される米づくりの強化と、生産者とJAの結びつきを強化することを大きな柱として位置づけて具体的な取り組みを提起していきたいと考えています。

◆売れる米づくりに向けた生産者・JAが一体となった取り組みが課題

 北出 今回の米政策改革の重点は、農業者・農業者団体が主役となった需給調整と、売れる米づくりだと思います。
 今日は、売れる米づくりへの取り組みがテーマですが、生産者は売れる米づくりについてどのような受け止め方をしているのでしょうか。

 高橋 作れば売れるという時代ではないという基本的な認識は一応持ってもらえたのではないかと思っています。
 ただ、理解が得られたというだけでは問題は解決しませんから、具体的な取り組みとして示さなければなりません。したがって、どういう米が売れるのかという点でわれわれは生産者と一緒になって、「特色のあるこだわり米」を作っていこうと考えました。
 では、その特色やこだわりとは何かということですが、ひとつは減農薬減化学肥料での栽培です。まずできる範囲で取り組みましょう、ということにしましたが、管内のなかのある町では、すでに昨年から全町あげていわゆる「減減」栽培に取り組んでいます。
 もうひとつは、JAの施設面での取り組みです。これは雪を米の貯蔵施設に搬入して冷却し、「みちのく雪室米」ブランドで販売するというものです。収穫のときと変わらない味を長期間提供できるというメリットがあって、貯蔵できるのは5万8000俵で本州では最大規模です。
 また、販売されればスペースが空くわけですから、別の倉庫で保管してある米を移動させて数カ月冷却させてから出荷することもできます。われわれも非常に期待しています。この雪室米には流通業者からもかなり問い合わせもあります。
 普通の低温倉庫ですと夏場で15度が基準ですね。ところが、この雪室は5度まで下がるんです。ですから、玄米表面の劣化が少ないので食味が低下しないという特色があります。われわれの地域の品種ははえぬきが主力ですが、これを貯蔵していこうと考えています。

◆多様な用途に応じた米生産が進む需要情報の発信が全農の役割

中地次男氏
中地次男氏

 北出 栽培面だけではなく、JAの施設面でも売れる米づくりに取り組んでいるということですね。全国的にはこのような取り組みはどう進んでいますか。
 中地 各地の状況を詳しくつかんでいるわけではありませんが、用途別、価格帯別の米づくりが意識されてきたのではないかと感じています。
 これまでは高付加価値一点ばりだったり、あるいは家庭用だけをターゲットにした生産販売が主体だったと思いますが、地域によってはたとえば業務用などをターゲットに定めて生産販売戦略を構築しているところもあります。
 あるいは、JA管内が中山間地域から平場まで条件がさまざまな場合、その条件での生産を仕向先や価格帯をきちんとふまえて作付を誘導し、すべての米を販売先に結びつけていこうという取り組みも聞かれます。
 全農として需要に応じた米づくりに向けて何ができるかという面では、そのような取り組みを各地に広げていくという役割もありますが、最大の課題は需要の情報をいかに集めて生産現場につないでいくかということだと考えています。
 全国本部としても販売センターを設置して、消費地の情報を発信するようにしていますが今後はもっと力を入れていく必要があると思っています。

「JA米」は安全・安心の核

◆「JA米」の取り組みは計画以上の成果 種子更新、区分集荷の課題も

 北出 最初に指摘がありましたが売れる米づくりのベースに「JA米」があるわけですね。この取り組みを現場はどう受け止めていますか。
 高橋 「JA米」の基準は生産履歴記帳、農産物検査の受検、そして種子更新100%ですが、やはり問題なのは種子更新ですね。これがネックになっています。実際に、種子更新率は9割程度でした。ですから、種子更新されていない1割程度の米について、どういう対応をすればいいのかが16年産では非常に問題になりました。
 ただし、16年産では種子更新が間に合わないという実態があるなかでいわば見切り発車的にスタートしたわけですから、生産者に対しては精算段階で差はつけないことにしました。
 もちろん集荷段階では厳密に区分集荷して「JA米」と一般米に分けて販売しています。ですから、集荷には非常に神経を使いましたね。個別の出荷であれば種子更新した米とそうでない米を区分して保管することは簡単ですが、カントリー・エレベーターやライスセンターといった施設集荷ではどうするか、これが問題になった。結局、ある地域のカントリーでは新しく乾燥機を導入して、一般米がサイロに混入しないように設備を整えざるを得ないところもありました。
 北出 農産物検査と生産履歴記帳への対応はいかがですか。
 高橋 農産物検査は問題がありませんが、生産日誌は3回回収して点検するようにしました。春の段階で配布して記入してくださいというだけでは、記帳を忘れたとか、生産日誌を紛失したといったことも考えられるものですから、意識づけを徹底させるためにも、6月と8月に回収、そして収穫の9月の段階でもう一度、回収、点検するというように小刻みに記入、回収をしていくことで回収率も上げようと考えました。
 北出 JA米の3つの基準のうち、種子更新と生産履歴記帳については現場でさまざまな工夫が必要なようですね。全国的にはどういう状況ですか。
 中地 「JA米」の基準を提起した当初は、これは相当難しい、何とかならないかという声があったのは事実です。しかし、実際に16年産で取り組んでみると、これはJAの担当の方々の推進努力があったと思いますが、当初目標の100万トンを超える177万トンの実績となったわけですから、急速に理解が得られたのではないかと思っています。
 種子更新率が15年産では75%程度で、16年産の取り組みは簡単ではないことは分かっているなかでこうした積上げができたことの意義は大きいものがあります。
 生産者のみなさんがご苦労されているのは生産履歴記帳だと思いますが、これもここ1、2年で意識が相当変わってきているように思います。
 というのも、私どもの調査では15年産の生産履歴記帳された米は、150〜160万トンだったと思いますが、16年産で県段階の意向を調査したところほぼ前年の倍の300万トンにあたる面積になるということが分かりました。この結果については、“安全・安心は当たり前”という認識が生産段階でも相当浸透してきたのではないかと見ています。

◆各地で増える独自基準でのブランド化

北出俊昭氏
北出俊昭氏

 北出 「JA米」の取り組みでは、基本的な3つの基準に加えてそれぞれのJAで栽培基準などを上乗せしている例もあるようですね。
 中地 全国本部としてもそういった先進事例のビデオやパンフレットなどを作成しようとしているところです。たとえば、JAみちのく村山でも整粒基準や食味データなどで独自の基準を設けていますが、そのほかにも県ぐるみで網目を指定して、1.85ミリ以上でなければ「JA米」として扱わないという取り組みなども行われています。
 言ってみれば、3つの基準とは最低具備すべき条件ということであり、より高い独自の基準を設定する取り組みはこれからも増えていくのではないかと思います。
 北出 今、話があったJAみちのく村山の整粒歩合80%以上、食味値80以上という「8・8米」というのはどういうものですか。
 高橋 これは全地区で取り組もうということではなくて、生産者の手上げ方式で行っているものです。栽培マニュアルがありますからそれに従った米づくりをするという生産者が参加しています。人数は多くはありませんが運動の核になってもらえればという考えから始めたことです。
 この米は地元の銀山温泉の旅館に販売するというルートをとっています。全国から訪れたお客さんをこの米でもてなそうという旅館側の意向に応えるものです。整粒歩合をクリアしたものについて、検査現場で食味値を判定してそれもクリアすれば特別に集荷販売するという方式をとっていて、基準を満たさなければふつうの「JA米」と同じ扱いになります。ですから、参加する生産者には説明会や栽培指導などを行って基準をクリアするような米づくりの取り組みも行っています。
 精算にも格差をつけていますが、売れる米づくりに向けたアドバルーン的な意味合いもありますね。
 北出 JAとしても今後はもっと特定契約を進めるという方針を出されているようですね。
 高橋 35万俵のうち30万俵程度はやはりそういった契約のもとでの生産にしていきたいと考えています。つまり、需要があるから生産があるという考え方ですね。取引先が望んでいる米を生産していくという方向にしていきたいということです。

◆JAグループへの信頼が集荷向上につながる

 北出 安全・安心を基本に取引先と結びついた米づくりを進めていくお話ですが、それがJAグループの集荷率の向上につながればいいと思いますが課題は何でしょうか。
 中地 JAグループの米がより一層信頼されるにはどうすればいいのかということですが、基本はご指摘にように安全・安心の取り組みを確立していくということだと思います。その軸となる取組みが「JA米」の取組みです。
 生産から流通までの段階をみると、流通段階におけるトレースや品質管理の体制は、ほぼ整備されつつあります。生産段階においても品質管理の取り組みがますます重要になります。このため17年産ではJA米管理マニュアルの見直しなども行いながら、安全・安心の取り組みをさらに前進させていくこととしています。
 また販売面では、卸さんや実需者の皆さんのところまで足を運んでニーズを聞き、それを生産につなげていくという姿勢が求められていると思います。こうしたことの積み重ねにより契約取引を拡大し、そのことが集荷の向上につながっていくのだと思います。
 北出 JAでは直接販売の拡大も課題だとしていますが、具体的な状況はいかがですか。
 高橋 そのためにわれわれが考えているのは一部で買取り方式の導入もしなければならないだろうということです。多様な集荷方式という問題もありますから。買取り方式も考えなければ農家組合員への対応も難しいかなと思っています。
 どこまでできるか不透明な部分はありますが、集荷の問題としてはやはり価格が問題ですからね。他の集荷業者との関係を考えると仮渡金だけでは生産者の理解が得られないという面もあります。
 中地 基本は共同販売・共同計算ですが、たとえば大消費地近郊県では集荷に苦戦しているという実態がありますから、そういった地域では買取りという集荷手法について検討していくという考えをもっています。
 これには集荷の拡大という面もありますが、販売環境を整備するという狙いもあります。イメージとしては、事前に集荷する対象と売り先も決めたうえで買取り集荷できないかということですが重要なのは他の業者から流通されるのではなくて、これまでJAに出荷されなかった米を系統の流通に乗せていこうということです。
 また、今後の販売面対策では、 相対取引の事前年間契約取引について年間取引数量を卸との間で早い時期に決めるということにも取り組みます。事前年間契約については17年産では180万トンを計画したいと考えています。
 そのなかでさらに実需者との結びつきを強めた契約を拡大することも課題で、16年産ではこの部分は20万トンの見込みですが17年産では40万トンにまで拡大していく計画です。
 北出 そういった取り組みの基盤には「JA米」がどれだけ認知されるかということもありますね。
 中地 そうですね。いくつかの取引先からは「JA米」をという要望があったり、お米ギャラリーを訪ねてくる消費者からもJA米はどこで購入できるのかといった問いあわせもあります。
 16年産では生産現場での理解を進めることが中心でしたが、17年産では消費者への認知度を高める取り組みが重要になると考えています。PRが大事ですね。

◆生産基盤の再構築もJAの役割

 北出 では、最後に今後の米の生産販売についてのお考えをそれぞれお聞かせください。
 高橋 販売も重要ですが、やはり米の生産体制の再構築ですね。担い手の問題です。集落営農の組織化も課題ですね。そこにも力を入れていかないと、それが米づくりの核になっていくわけですから。中央会、連合会や行政の支援も求めていきたいですね。
 中地 ご指摘のように担い手づくりは大きな課題ですから、連合会としてどのような支援ができるか、関係先と連携しながら検討し取り組む必要があると考えています。
 それからJA米の取り組みにも関連しますが、今後は表示も課題になると思います。これはJAグループだけで解決できるものではありませんが、生産段階では避けられない混入の問題もありますから、消費者に対してもそこを理解してもらう取り組みもしなければならないと思います。
 全農としての事業の課題としては、やはりお客さまの視点に立った事業をどう展開していくかだろうと思います。そういう観点から情報発信や消費者とのコミュニケーションをとりやすいような取り組みを率先してすすめていきたいと思います。そのことが国産米に対しての評価を高めることにもつながると思います。
 北出 どうもありがとうございました。

座談会を終えて

 農協組織が「JA米」を中核とした取り組みを強めてから1年が経過した。その結果、昨年産米集荷量は目標の100万トンを大きく上回る177万トンに達した。これは全農をはじめ、全国の農協組織がその意義を繰り返しPRしたからである。しかし、これをさらに発展させるための課題も明らかになりつつある。その1つが、生産者の認識を深め、自発的な活動を一層強めるにはどうしたらよいか、である。これは今回の座談会でも強調されたことである。そして、生産者の理解と納得を基礎に、地域の特色を活かしたいわゆる“こだわり米”などの多様な生産を進め、実需者に供給していく活動強化が課題であることを痛感した。集荷率を向上するにはこうした方向が重要であるが、一面では取引形態や価格設定などの多様化にもつながる。しかし、米政策の根本的な転換期においては、これは協同組合としての農協組織の本来の役割と思われる。(北出)

(2005.4.7)


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