農業協同組合新聞 JACOM
   

JA米事業改革の現場から

多収量よりも高品質めざす
−JAしおのや

刈り取り・集荷が集中、
早稲品種に期待


JA管内には4つのカントリーエレベーターがある
JA管内には4つのカントリーエレベーターがある

 「シリーズ・JA米事業改革の現場から」第4回目は、JAしおのや(栃木県)を訪ねた。
 米は同JAの主力農産物で、全販売額120億9100万円のうち53億2500万円と44.1%を占める。
 伝統的にコシヒカリの単作地帯であったが、16年度から食味、大粒で見た目の良さなど、消費者に受け入れられる点を考慮して、早稲品種の『なすひかり』を導入した。今後はコシヒカリと並んで、主要銘柄に育てていきたいとしている。
 県本部と一緒になって売れる米作りをめざしており、産地として高品質の米を作ることに全力を傾ける。そうすることが、消費者に受け入れられ結果的に売れる米作りにつながると確信している。

◆1.85mmの網目更新に補助 県独自のJA米要件付加

若色一郎 農産課長
若色一郎 農産課長

 JAしおのや管内の16年産米生産量は5万301トン、JA集荷分は約3万トン。作付け面積は9650ha、うちコシヒカリが95.0%、ひとめぼれ3.9%、残りが『なすひかり』となっている。『なすひかり』は県内で開発された新品種で、16年度から導入された。大穀粒で食味が良いと評判。コシヒカリに比べ早稲品種であり、将来はひとめぼれに変わると同時にコシヒカリのシェアも脅かす銘柄としてJAでは期待している(16年産実績は770俵)。
 JA全体の販売高は120億9100万円。米類は44.1%の53億2500万円で、畜産物15億3100万円(12.7%)、野菜14億700万円(11.6%)、果実9億6600万円(8.0%)などを大きく上回り、JAしおのやの主力商品となっている。
 売れる米作りを基本に、JA米については積極的に取り組んでいる。栃木県はJA米の3要件に加え、県独自の要件として、穀粒の大きいものが消費者から好まれていることや見た目の良さを考慮して、1.85mmの網目で振るい、それ以下の穀粒を「一般米」としてJA米と分けて出荷している。JAしおのやでは、個人調製をおこなう生産者への普及促進のため、L網の購入経費に対する助成措置を実施した。
 生産履歴については、5月と8月に農家から回収し農薬の使用時期や量など詳細を確認し、また農家に戻している。今後は、回収した履歴を確認するだけではなく、JAのコメントを書き加えて戻すことを考えている。それによって、農家の営農状況についてJAから的確な指導が行えると同時に、農家とJAが履歴をやりとりする中で、互いに顔の見える関係を築いていくことも狙いだ。しかし、合併等により職員数が減っているなか、現況の職員数で対応できるのか、信用など他部門の職員も営農指導の一部を受け持ってもらうのか、今後検討が必要とされている。種子更新については、ほぼ100%JAからのものを使用しており、それ以外は証明書を添付することで確認している。検査は9月〜10月の検査集中時期には、職員以外に農政事務所OBなどの助けを借りスムーズかつ適切な検査実施を心がけている。

◆『なすひかり』作付け、効率的な施設利用の一助に

出荷された17年産新米の『コシヒカリ』
出荷された17年産新米の『コシヒカリ』

 現在、刈り取りがほぼ終わり、集荷の最盛期を迎えている。作付け銘柄の約93%がコシヒカリなので、刈り取り・集荷時期が9月に集中する。施設受け入れを予約制にするなどしているが、容量が一時的に能力不足になるなど、このところ毎年現場では混乱が起こっている。集荷が集中すると保管・管理などにも影響が出てくるので、早急に対策を検討する必要に迫られている。
 対策として刈り取りを時期や集荷をずらすことも考えているが、最大でも一週間程度しかずらせない。田植え時期をずらすことも検討しているが、管内のほ場は土地改良事業がほぼ終わっているため水管理が徹底しており、ほ場の都合で水を勝手に使えないため、田植え時期を大きくずらすことも難しい。そこでJAは刈り取り時期がことなる『なすひかり』の普及を進める考えだ。現在作付け面積はわずかだが、今後はひとめぼれを上回る作付けをめざし農家を指導し、コシヒカリと並んで管内の主力銘柄に育てていきたい考えだ。そうすることで、刈り取りや集荷時期がずれ、無駄のない施設の利用が進み、確実な保管・管理が可能となると考えている。

◆県本部と一緒にJA米を売っていく

 JA集荷分の一部は地元のスーパー、直売所などで販売している。しかし、ほとんどは県本部を通じJA米として販売している。「地産地消ということからいえば、地元で消費するのは良いことだと思います。しかし、直売を拡大することは考えていない。生産者から預かった大事なお米をそのようなリスクにさらすことに、生産者を含めた合意ができていない。あくまでも、県本部と一緒になって売っていく方向をめざす。我々の使命は消費者が望む米を生産者と一緒になって作り、そのことで生産者の手取りが少しでも多くなるよう助けることだと思います。生産者と全農を結びつけるのがJAの役割だと心得ています」と農産課の若色一郎課長は語る。また、県本部から消費者がどのような米を望んでいるのかなどの情報をもらい、それに合わせた米作りをすることが必要だろう、とも語った。
 稲作農家は、組合員約1万戸のうち4500戸。年々減少している。JAとの出荷契約者数で見ると、16年度が4752名、17年度が4658名で、1年で約100名減った。そのような状況で、消費者が望むような米を作り、生産者の生活を守ることがJAの課題だ。コンバインなど高価な農業機械の更新時期に合わせて、経営規模の縮小や高齢者の農業から撤退が問題となっている。一方で、田植えや刈り取りなどの作業が大規模農家に集中する傾向が続いている。JAは作業委託希望農家と作業受託する大規模農家および専業的農家の間に入り、受委託の調整を行い地区全体で稲作を守ることを進めている。JAは今後も積極的に調整役を果たし、地域の農業を守ると同時に、活性化に大きく貢献したいとしている。

◆高品質の米づくりに徹する

刈り取り時期の集中をどう調整するかも課題
刈り取り時期の集中をどう調整するかも課題

 「営農指導や集荷などで農家の信頼を勝ち取ると同時に県本部の力を借り、売れる米作りをめざしたい。米価低迷のなかで、生産者の意識も変わってきた。コスト削減を徹底し、多収量よりも高品質をめざすようになっている。生産者の期待に応えたい」と若色課長は生産者の意識の変化がJAの先を行っている現状を語る。
 全農の役割が生産者と消費者の懸け橋機能だとするならば、JAは農家組合員と全農をつなぎ、消費者が求めるような質の高い米を作ることに徹することで、それが売れる米づくりに大きく貢献すると考えている。

JAしおのや概要(16年度)

・代表理事組合長 阿久津哲大
・組合員数 1万3560人
 (うち正組合員数1万802人)
・販売高 120億9100万円
・貯金残高 1073億円
・貸出金 378億円
・長期共済保有高 6361億円
・職員数 496人(臨時職員含む)

(2005.10.6)


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