◆3要件見事にクリア
JA能美では、今年産の米集荷量が最終的に約10万3000俵になる見込み。JA集荷率は75%と高い。その全量をJA米とする計画だったが、やや及ばず、99%強となった。ごく一部に種子の自家採種で銘柄(品種)確認のできないものがあったためだ。
JA米には3要件があるが、JA集荷の100%近くが、それをクリアしたという達成率は、全国的にもトップクラスの数字だ。昨年産の場合も99%だったが、今年はさらに微増となっている。その要因には集落座談会で意識改革をはかってきたことがあるようだ。
しかし営農部の中田一之部長は「集落座談会で話し合うという当たり前のことをしてきただけ。何も特別な取り組みをしたわけではない」と淡々と語る。 それは、集落座談会を基本とする運動スタイルの定着を物語っているともいえる。JA能美はずっと以前から、きめ細かく話し合う座談会を毎年続けている。集落数は69。開催時期は1月後半から2月初旬だ。さらに4月下旬にも営農部の職員たちが全集落を回って説明会を開いている。
◆“助走”段階があった
ここ3年、集落座談会の特徴的なテーマは土づくりだった。平成14年12月に米政策改革大綱が出たころからJAは「売れる米づくりは、まず土づくりから、と本格的に呼びかけてきた」と営農推進課の土井育男課長は、JA米づくりに先立つ取り組みの“助走”段階を振り返った。
集落座談会では、販売対策の説明に力を入れ、みんなで努力して土づくりを進めないと、市場から評価されないと訴えた。
また均質な米を求めている市場ニーズや、安全・安心志向をさらに強めている消費者の動向などについて、生産者に向けた情報量をぐんと増やした。
そうした販売対策重視の訴えの中で、均質な米を作るためには種子更新も当たり前とする感覚も生まれてきたという。
土づくり運動では「土に立つ者は倒れず」、「土に生きる者は飢えず」、「土を護る者は滅びず」という旗印も掲げた。
そこへ16年産からのJA米戦略が打ち出された。そこでJAは土づくり運動とセットにして、これを推進した。このため生産者にとって、安全・安心で均質な米を作る点では、どちらもねらいは同じだとの認識がすんなり入ったとのことだ。
こうして土づくり運動とJA米の取り組みが結びついた。つまり集落座談会を軸にした土づくり運動の土台の上にJA米の実績が花開いた形だ。
土づくりについて安田舜一郎組合長は「米価低落傾向が強まる中、売れる米作りを念頭に3年2サイクルの土づくりを継続する」(今年の通常総代会のあいさつから)と強調した。
◆網目切り替えに助成
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米流通合理化施設の内部 |
今年産に向けては水稲の作付面積1630ヘクタールのうち約930ヘクタールの土づくりをした。60%強に当たる。昨年産の取り組みに比べ微増だが、18年産に向け今秋は1000ヘクタールを目指す。
投入する土づくり資材では、ほとんどが珪酸からなるアルカリ分39%の剤をメインに推奨している。部分的には、もみがら牛ふんたい肥も投入している。
土づくり促進策の1つとしては、共同乾燥施設の利用に当たって、水稲作付面積の半分以上に資材を投入した農家に対する優遇策をとり、昨年から実施した。施設への搬入日が競合した場合、土づくり農家の希望を優先させるというものだ。
これも“売り切る”ことができる米づくりを目指すきめ細かい手だての一つだ。
しかし土づくりをJA米の追加要件とはしていない。今のところは、あくまでJAグループの3要件に従って取り組みの幅を広げ、これを定着させることにしている。
実需者には歩留まりのよい米を好む傾向があるため、個人調製の場合1.85ミリが主流だが、JA能美も共乾施設と同様、1.9ミリへの切り替えを積極的に進めている。
そこで切り替える際の網代金をJAが半額助成している。また1.9ミリによって出るクズ米の代金にも1袋(30kg)200円の上乗せ助成をしている。これによって、良い意味での競争心も生まれているという。 ◆負担の少ない記帳様式
JA米に取り組む農家の負担には栽培履歴記帳があるが、記録簿の提出もJA能美では100%だ。その要因としては記入事項が、ほかのJAより少ないという有利さもある。
たとえば、JAの育苗センターは供給率95%と県下でもトップレベルのシェアを誇るが、その苗を購入している農家は種子更新関係の欄には、JAの担当者が記入してもいいことになっている。
育苗センターは4か所。16年度の取扱量は約26万4000箱にのぼる。営農事業をがっちり進めてきたJAの底力がJA米づくりでも発揮されたといえる。
5%は自家育苗などだが、
種子証明書などによってJAが確認したJA米が含まれている。
防除欄についても記入を省くことができる。JAが農薬の空中散布をしているからだ。今年は一部で有人ヘリコプターを使ったが、来年からは全地区で無人ヘリによる散布を実施する。このためラジコンヘリを計10機に増やす計画だ。
栽培品種が「コシヒカリ」が大半であることも記帳の手間が省ける一因だ。
しかし、収穫適期をずらしたり、リスク回避のために、「ゆめみづほ」の生産にも取り組み今年産では約15%程度を占めるようになった。
また、コシヒカリでは「姫九谷コシヒカリ」と名づけたエコ農業認定米も少し作っている。これは減化学肥料栽培で栽培暦を作成し、生産部会で取り組んでいる。こうした付加価値をつけたブランド米はJA米全体の底上げをはかっていくためにも、その生産を増やしていくことが今後の課題となっている。
◆栽培履歴を電算管理
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OCRで読み取り栽培履歴を電子データ化するシステムを17年産導入した |
記帳の手間がかなり省ける条件があるといっても、1月下旬から2月にかけて開く集落座談会での説明内容は盛りだくさんで念入りだ。冒頭に売り切ることのできる米作りを強調したあと、土づくり推進事業の説明と併せて、JA米の栽培履歴記帳について説明をする。
記帳された記録簿は8月中旬にいくつかの生産組合に委託して回収し、その費用をJAが支払うという仕組みにしている。
回収されたぼう大な記録簿をJA職員が1枚々々チェックするが、昨年は電算管理ができなかったため、回収後の手間が大変だった。チェックが済んでいない農家の米は共乾施設に搬入できない規定になっているため職員は休む暇もなく作業した。
しかし今年は手書きの記帳をそのまま読み込んでパソコンに入力できるOCR(光学式文字読み取り装置)システムを導入し、電算管理に移したため職員の労力は「半分か3分の1程度に減らすことができた」(土井課長)という。
これはJA全農石川県本部が県下統一の記帳様式を作るなど電算管理のソフトを開発したことによる。
OCRシステムの普及もJA米推進の課題のひとつだろう。
◆地産地消へ直売所を
ただし、記帳の中にはくせのある数字など、OCRが読み取れない書き込みもある。このためJA能美は読みと取れそうもない記入については、その農家に電話などで確かめ万全なチェックをしている。
電算管理初年度の今年は、頭をひねるような記入が数%あって、これのチェックに結構時間がかかったという。
今後のJA米販売について中田部長は、直売所の出店計画を挙げた。イメージとしては、JAグリーンのような店舗に生産資材などとともに精米機を置いて、お客の注文に応じ、その場で精米して新鮮なお米を販売するといった案があるという。
姫九谷コシヒカリも、そこで販売すれば地産地消の拡大につながると思うと部長は続けた。
現在、JAは直売所を持っていないが、その開設などによって「JA米全体の販売ルートを広げていく」とも語った。
なおJA能美の正組合員戸数は3325戸。うち稲作農家は943戸。その中で、経営面積規模は1ヘクタール未満が約300戸で3分の1弱となっている。そのうち約120戸が50アール未満だ。転作も含めて受託組合は20ある。
JA能美概要
▽組合員戸数6041戸(准組合員を含む)
▽職員数157人
▽販売高20億9000万円。うち米穀16億9000万円
▽購買高33億円
▽貯金569億円
▽長期共済(保障額)254億円(いずれも16年度末現在) |
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