◆「種子更新は当たり前」の土壌
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石川薫営農部長 |
町の東端に出雲空港があるJA斐川町管内の水田面積は約2200ヘクタール。恵まれた平坦な土地で島根県内の穀倉地帯である。
JAへの米の出荷者数は約2200人。JA米の要件をクリアした生産者は16年産からすでにほぼ100%となっている。
JA米の要件を改めて確認しておくと、(1)銘柄が確認できた種子による栽培、(2)登録検査機関での受検、(3)生産基準に基づく栽培と生産履歴記帳の確認、だ。JAグループではこのJA米生産に16年産から取り組んだが、課題として多くの現場で聞かれたのは「銘柄が確認できた種子による栽培」という要件だった。JAなどから種子、あるいは苗を購入しているなら問題はないが、種子を自家採取しているなどの場合は銘柄確認が必要になる。種子や苗の購入について、生産者への説明と理解を求めることが課題となっている地域もある。
しかし、JA斐川町では「もうかなり前から種子更新100%は達成していた。記憶にないほど昔から、と言ってもいい。みなこれは当然のこと、という意識がありました」と石川薫営農部長は話す。
JAに出荷すれば農産物検査は当然、受検するから、JA米の要件のうちすでに2つはほぼ全量でクリアしていたことになる。
こうした土壌のうえに生産履歴記帳運動への取り組みを行った。スタートは15年産から。JA斐川町は町や農業関係機関と一体となって「斐川町農林事務局」を設置しており、300ある集落の農業振興委員を通じて、米政策の変更や転作対応など制度、政策面での理解と徹底を図ってきているが、生産履歴記帳運動も、各委員に向けて今後の農業生産に必要なことだとして全員参加を呼びかけた。
結果としてほぼ全員が生産履歴記帳運動に取り組み、それをベースに16年産からは「安全・安心な米づくりに取り組み、確実に売り切ること」を目標に掲げ、JA米の生産をスタートさせた。「初年度から出荷者約2200人のうち、要件を満たさなかった生産者は一ケタ。ほぼ100%達成できました」(石川部長)という。
◆OCRのデータ活用が今後の課題
島根県では生産履歴記帳は16年産からOCR(光学式読みとり装置)を導入。11JAのうち9JAがOCRカードを活用している。
県本部が作成した基本フォーマットに、JAごとに決めた栽培基準に基づいて肥料、農薬名などをあらかじめ印刷しておき、生産者は使用量や作業日など数字を記入するだけでよい。
提出は出荷日の2週間前までとして、JAではOCRで読みとる前に、営農指導員が記述内容を点検する。たとえば、種子更新の欄が空欄になっていた場合など、資材課に問い合わせてJAからの購入を確認する。確認できないときは生産者に直接問い合わせる。大型農家に育苗を依頼してそこから購入しているなどの例もあるからだという。農薬の使用量の記入にも単位の間違いがときどき見られることからきめ細かなチェックが必要だ。
栽培履歴カードは前述した集落の世話役である農業振興委員に依頼してまとめて回収した。記載上の注意も委員を通じて説明しているが、そのほか毎年、4月にJA米講習会を地区ごとに開催し、農薬使用や、栽培履歴カード記入の注意点を徹底ささせている。また、8月初旬にはカントリー・エレベーターの荷受け体制などについて出荷説明会を開いているが、その場でもコンタミ防止など生産者個人での品質管理などについても説明している。こうした取り組みによって、これまでに不適正な農薬指導などによって出荷を受け付けなかった例はないという。
また、OCRのメリットは、生産者ごとに栽培履歴が電子データ化して管理・蓄積できること。小売り店などからの問い合わせがあっても生産履歴がパソコン上で確認できる。現在はまだ流通段階と結びついたシステムとして稼働していないが、JA段階では着実に蓄積が進んでいるため、トレーサビリティの要請に応えたり、生産指導に生かすなどデータの活用が期待される。
売れる米づくりに向け 新品種「きぬむすめ」も登場
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ライスセンターを合わせ6500トンを集荷できる |
◆「2・5・3運動」を展開
JA斐川町の米生産量は約8000トン。品種はハナエチゼン、コシヒカリと祭り晴の3品種が柱。ハナエチゼンの収穫は8月中旬から始まり、その後、コシヒカリ、祭り晴と9月下旬まで収穫が続く。ハナエチゼンは市場の新米需要にいち早く応える品種で値頃感もある。祭り晴は品質が安定し、倒伏しにくいという特徴がある。
こうした複数品種の作付けは規模拡大にともなって作期を分散させる必要があることから進んできた面もあるが、5年ほど前から、売れる米づくりとカントリー・エレベーターの有効活用をめざして、「2・5・3運動」に取り組んでいる。
これはハナエチゼンを2割、コシヒカリを5割、祭り晴を3割という配分で作付けを誘導しようという運動だ。小規模な生産者はともかく、集落営農組織や大型農家にはこの運動を呼びかけて需要に見合った生産量になるよう運動に取り組んできた。
18年産からはこの運動は祭り晴から新品種「きぬむすめ」に切り替えて進める。
きぬむすめは、島根県独自の品種で、炊きあがりの色がきれいで、冷めても味が落ちず「おいしい」と実需者からも評価が高い。耐倒伏性があるため生産者にとっても作りやすく期待が高まっている。JA斐川町では18年産で1800トンの生産量を目標にしている。
◆個性ある米づくりで消費者の支持を得る
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土づくりなど大切にし斐川町産米の
レベルアップに取り組む |
共同乾燥施設は、カントリー・エレベーターとライスセンターの2つで合わせて6500トンの能力がある。このうちライスセンターは、火力を使用しない常温除湿乾燥(DAG乾燥)方式を導入。ハナエチゼンは全量をこのライスセンターで集荷している。
集落営農組織は現在29あり、現在も担い手育成の観点から集落で検討が進んでいるが、集落営農組織が立ち上がる際には、共同乾燥施設の利用を条件とすることを指導している。
販売面では全農経由がほとんどだが、17年産から町内の小中学校の給食用に25トンの供給を始めた。集落営農組織が減農薬減化学肥料で栽培、ほ場も決め、田植えや収穫も子どもたちに体験してもらい、食農教育の一環も担っている。また、地元の病院への納入も決まった。
ほかに長崎県の生協とハナエチゼンの栽培基準を決めて契約栽培し「産直米しまねえんむすび」の名称で販売しているほか、関西の業者にも斐川町産米としての販売契約をしている。
今後もこうした販売の取り組みを維持していくため石川部長はこう語る。「土づくり、水管理、適期収穫の基本技術を改めてしっかり行わなければならない。斐川町産米としてレベルアップを図り、ファンづくり、リピーターづくりをすることが安定した米づくりにもつながる。
JA米としての要件はクリアし、これが当たり前の意識になってきた。今後はどう付加価値をつけていくか、個性ある米として評価されるには基本技術の徹底を改めて図っていきたい」。
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