19年産からは新品種「まっしぐら」への全面転換が目標
◆値ごろ感と均一性に卸が白羽の矢 JA東つがるは平成13年にJA上磯とJA蓬田村が合併して誕生した。青森市北部に隣接する蓬田村から、北は竜飛岬までの津軽半島東部地域が同JAの管内だ。
水田面積としては1900ヘクタールだが、17年産の作付け面積は約1000ヘクタール、18年もほぼ同程度となっている。米の生産者は約1000人だから平均すれば作付けは1ヘクタール程度だが、10ヘクタール以上を経営する生産者もいる。17年産の生産量は約4100トンでJAの集荷率は94%と高い。
主力品種は「ゆめあかり」。17年産では生産量の大半を占めた。そのほか「まっしぐら」(青系138号)も試験的に生産し、今後、主力品種に育てていく方針だ。
JA米の要件のひとつである生産履歴記帳には、全国的に取り組みがスタートした16年産より1年前の15年産から、一部の生産者で始めた。
そのきっかけは卸業者からの要望だった。
「ゆめあかり」は値ごろ感から業務用需要を中心に実需者から評価されている。卸業者はこの「ゆめあかり」がまとまった量で生産され、しかもライスセンターなどの施設で管理されているものを求めていた。
一方、同JAには、旧JA上磯地区にカントリー・エレベーター1機と旧JA蓬田村地区にライスセンター1機がある。いずれも1800トンから2000トンの収容能力。とくにライスセンターは平成11年に増設し施設集荷に力を入れてきた。
その蓬田村のライスセンターに白羽の矢が立った。「ゆめあかり」を大量に施設集荷しているJAはほかにはなく、卸業者は県本部とJAに「丸ごと買いたい」と申し入れてきたのだという。
ただし、条件があった。それは米の生産履歴が分かること。生産者に生産履歴記帳が求められたのだ。また、卸業者の取引先は業務用だけではなく量販店もあり家庭用として地元のスーパーでも売られることになるという。自分たちの作った米が自分たちの地域でも販売されることになる。
特定の米卸との契約を前提にした生産、販売というこれまでになかったこの案件は、JAの米事業方式を変えるものだ。「それに乗らない手はない」とJAでは急遽、ライスセンターを利用している全生産者を回り生産履歴記帳の取り組みを進めた。
◆生産者の理解広げ意識を変える
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稲葉宏課長 |
食品に生産履歴が求められたのは、まずは畜産、果樹、野菜の分野だったが、さらに米にまで生産履歴記帳が必要な時代になってくると、生産者からは負担が増えるなどの理由で理解が進まないという声が当初はあちこちから聞かれた。記帳をすることで手取りが増えるのかという声も多いという話もJA担当者から聞いた。
同JAの場合、生産者の反応はどうだったのだろうか。
「もともといずれはどの作物にも生産履歴が求められると想定し、人の口に入るものはすべて履歴が必要だというのがJAとしての考え方だった。生産者は農作業の記録を何がしかはメモをしているもので、それを決められた用紙にきちんと記帳していく必要性については素直に理解されました。もっともいちばんの理由はトレーサビリティが確立していれば、間違いなく米は売れるということが具体的に実感できたからでしょう」と指導生産課の稲葉宏課長は話す。
17年産からのJA米の取り組みも、生産履歴があれば売れる米になること、逆に売れ残りが発生すれば生産量の配分が少なくなってしまうことなどを生産者に強調し、パンフレットの配付や集落座談会で推進をはかった。とくに生産履歴記帳用紙が提出されない場合は一般米として扱い60kgあたり200円の格差をつける条件を示した。ただし、17年産の実績ではJA集荷量の98%がJA米の要件をクリアしている。生産者の意識が着実に変わってきたことがうかがえる。
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今年の田植えは5月20日前後から(左) JA東つがるの本店(右) |
◆生産履歴をデータベース化 銘柄が確認された種子で栽培することもJA米の要件だが、同JAでは自家育苗が100%。そのため、JA米の要件を満たすためにJAが銘柄を確認した種子の購入を推進している。
さらに生産者の種子購入量と作付け予定面積を照らし合わせて、自家採取した種子を使用していないかどうかも点検する。たとえば、作付け予定面積の半分程度の種子購入量であれば残りは自家採取した種子を使用することも考えられる。
生産者にすればJAから購入した種子を使用したほ場と自家採取の種子を使ったほ場を区別し、一方をJA米として区分して出荷しようと考えるかもしれない。しかし、それがJA米であることを証明する手だてはなく自己申告に頼らざるを得ないことから、基本的に作付け面積に見合った種子の量を購入しない場合は、全量JA米として扱わないと注意を促している。
また、生産履歴記帳の点検は田植え後から収穫・出荷前までに3回実施し、記帳の促進と内容の点検を行ってきた。
とくに記入の仕方で工夫したのが、ほ場によって使用した農薬などが異なった場合は、生産者ごとに決められたほ場番号を記入したうえで、散布した薬剤名を別途記帳することにした点。JAにも保管されているほ場番号を参照すれば場所を特定できる仕組みになっている。
こうして点検を経てJA米として出荷されたものについて、17年産からはその生産履歴をパソコンで入力しデータベース化した。生産者からはホームページ上で公開することに了解をとっており、今後、情報公開も検討する。また、データを蓄積し、将来は、たとえば収量が他のほ場よりも平均して少ない事例などについて、どこに原因があるのかを追跡し土壌改良などに生かしたいという。これも均質な米をつくるため大切な課題となる。
◆米づくりは地域とJAの重要な基盤
同JAの農産物取扱高は約15億円(16年度)。そのうち米が約11億円と7割以上を占める。米はこの地域の基幹作物でありJAを支える基盤でもある。
JA職員自身も多くは米生産農家であり、また米生産に携わっていない職員にも、佐々木登志男組合長は「親戚の手伝いに出かけて体験して農業を覚えるべき」と日頃から強調しているという。
こうした姿勢を反映し18年産からはJA米の推進には営農部門の職員だけではなく、購買や共済担当職員も含めた職員総がかりであたる体制とした。
具体的にはJAの全男性職員が1人5人程度の生産者を担当する。総勢で60名ほどで集落ごとに班をつくって、班長のリーダーシップで生産履歴記帳用紙の配付、記帳内容の点検を行う。記帳内容の点検のために講習会も開いて徹底した。
共済事業で一斉推進をするのと同じ発想で、JA米の周知徹底をさらに図り、品質の向上をめざしていく。全国のJAでもきわめて珍しいまさにJAらしい取り組みだろう。
また、多くのJAでは営農指導員のみが履歴のチェックを担当することから何十人もの生産者を担当し負担が増している例もあるが、同JAが導入した全員体制は幅広い人材の活用でJA米に取り組むという点でも注目される。
◆減農薬の「青森クリーンライス」を主力に
18年産からは管内作付面積の30%に「ゆめあかり」より収量が多く、食味も良いと評価されている「まっしぐら」(青系138号)を作付けしている。粘り気があり香りがいいという。同JAでは19年産から主力品種として「ゆめあかり」から切り替える方針だ。
また、全農青森県本部が基準を策定した「青森クリーンライス」の生産も推進する。これは農薬の使用成分を慣行栽培の半分に減らすもの。18年産は14人の生産者、あわせて76ヘクタールで栽培する。ほ場には「青森クリーンライス」の栽培ほ場であることを示す標識が立てられることになっている。
稲葉課長は「栽培履歴記帳などはもう当たり前の時代。減農薬など次の課題に取り組み19年産からは全量を青森クリーンライスとすることが目標。最終的にはJA米の独自の要件として今の要件に上乗せしていきたい」と意気込む。
まだ個体出荷も集荷量の半分近くを占めるが、市場は施設で管理された米を求めており、施設利用率を向上させることによる高品質で均質な米の供給が、地域農業の要になるとJAでは考えている。
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