農業協同組合新聞 JACOM
   

生協との事業提携と全農の役割

生産者と消費者を結ぶ懸け橋に
第2回 東都生活協同組合

全国ネットワークの情報力・専門性の発揮を


 いま産直事業についての取り組みや考え方は、それぞれの生協によってさまざまだといえる。「産直の東都」といわれている東都生協は、2002年に事態が確認された産直豚肉偽装問題で大きなダメージを受けたが、この経験を総括し「産直の再構築」を今年度から始まった第7次中期計画に掲げ、新たな産直運動に取り組んでいる。そこで今回は、庭野吉也同生協理事長にこれからの産直事業に対する考え方とそこで果たすJA全農の役割・期待を中心に聞いた。

◆食料自給率の向上、国内農業の発展を目指して

庭野理事長
庭野理事長

 東都生協(庭野吉也理事長)は「『産直』『協同』『民主』いのちとくらしを守るために」と、産直を基本理念のトップに掲げている生協だ。また、「基本理念に基づく個別理念」でもそのトップに「食と農を事業の基軸」におくとしている。
 1960年代後半、「本物の牛乳が欲しい」「そのためには生産者と牛乳工場と提携してより安全ですぐれたものを手に入れよう」ということから東都生協の運動は始まった。その背景には、当時の消費者を取り巻く環境として「インフレや乱開発による環境問題や公害問題があり、そのなかで生活者自身の生活防衛手段として生協ができあがってきた」。そこに東都生協としての「産直の原点があったしその位置づけはいまも変わらない」と庭野理事長。
 1988年には「地域総合産直」を提起する。これは、産地の特産物だけを産直し、それ以外の農産物はいらないという「つまみ食い」ではなく、産直産地にあるものを「地域丸ごと」産直しようというものだ。茨城県のJAやさととの産直で始まったこの取り組みは、高齢者が少量しか作れないという農産物などでも商品として利用していこうというもので、当時とすれば地域農業の振興をはかる役割を果たしてきた。

◆環境保全型で持続可能な農業を

 1998年には、「脱ダイオキシン宣言」をし、農業についても「ダイオキシン類を発生させる物質の製造・生産・流通・消費・廃棄過程において可能な限り削減」をめざし、「ダイオキシン類で受けているダメージを回復するために、資源を循環させ、環境を保全する運動と事業を共同でめざす」という方向で取り組むことにした。
 環境保全型農業に取り組む生産者の努力が生協組織組合員に伝わるような工夫を2年前から始めた。
 具体的には、有機JAS認定または有機JASで使用が認められていない化学合成農薬、化学肥料を栽培期間に使用しない農産物は「東都みのり」、化学農薬・化学肥料を慣行栽培より概ね50%以上削減して栽培された農産物は「東都わかば」、化学農薬・化学肥料を慣行栽培より概ね30%以上削減して栽培された農産物は「東都めばえ」と「産地の努力の到達点を3つの自主基準で分かりやすく表示」している。
 また、地域循環型農業について庭野理事長は「畜産農家の飼料原料の大半は輸入だから、厳密には地域循環とは言い切れない」ことを前提にしながらも、「地域の中で畜産農家と耕種農家が連携をはかる取り組みで、これをこれからの農業の一つの形としてイメージづくりをしていく必要があると考えている」と語った。そして、これらのことが国内規模での環境保全につながっていくとも。

◆産直事業を補完する全農グループ

 東都生協の産直事業のうち、米については9割が全農パールライス東日本など全農グループを利用している。そのうちの約4割が全農安心システム米となっている。また、畜産飼料分野でもPHF、NONGMOのように品質保証が必要な分野では全農と提携した事業が早くから進められてきている。また、東都生協の生鮮食品で唯一輸入品であるバナナについても、タイの農協と栽培計画や農薬使用回数などを決めた農産物ガイドを取り決めて輸入しているが、この輸入業務は組合貿易が代行し、国内での小分けなどの業務は全農越谷青果が行なっている。
 しかし、国内産しか扱わないという生鮮野菜や果物については、東都生協の組合員で構成される仕入委員会がJAなど産地と栽培方法や規格などを取り決める「農産物ガイド」を直接締結しているために、全農との取り引きは少なかった。しかし最近は、全農首都圏青果センター大和や全農越谷青果の利用が増えてきている。
 それは、産地と栽培方法や数量を取り決めても、天候不順や病害虫の発生などによって必ずしも計画通りにはいかないことがある。そうなると組合員への供給を停止しなければならなくなるので、そうした場合には、事前に仕入委員会で選定された産地以外の栽培内容が明らかであり、「緊急ネットワーク運用基準」に適合していることを確認した上で、急遽出荷を依頼することにしている。そうした農産物が大和センターなどを通して供給されるからだ。いわば産直事業の補完的な役割を全農グループが果たしているわけだ。
 このことについて全農越谷青果の平野蕗一常務は、それは市場や仲卸でも可能なことだが「商品をキチンと吟味する全農」だからという信頼があるからではないかとみている。だから今後は「生協とJAや産地とのジョイント役として積極的に取り組んでいきたい」とも平野常務は考えている。

◆地域づくり・村おこしにつながる事業を全農と

 庭野理事長はいまの段階で具体的な枠組みについてはいえないとしながら「全農がもつ専門性とか全国ネットワークの情報力、資金力を地域農業の発展や生協産直事業強化に有効に活かされるべきだし、その可能性は十分にある。そして、農産物の生産・販売だけではなく環境保全型の取り組みなどへの支援も期待したい」と考えている。
 さらに、いろいろな生産者団体と取り引きをしているが、価格や品質の評価から「もう一歩踏み込んだ形。単なる農産物取り引きから、地域づくりや村おこしにつながるような事業を視野に入れたものを全農グループとつくっていけたらよいというイメージをもっている」と語った。
 そこには、産直を巡り発生した問題を踏まえて、産地も生協もお互いに「こういうことで困っているんだ」と率直に正直に話し合える関係。お互いの立場を理解し尊重しあえる対等な関係をつくることで「産直を再構築」していく。価格で動くことは否定できないが、「それだけで将来にわたって安全でおいしい食品を担保できるのかということを考えられる生協の活動や運動をつくるべきだ。価格がすべてになってしまうと、持続可能な国内農業ができるのか」という熱い思いがあり、そこに全農が情報力や専門性を発揮して欲しいという期待が込められているのではないだろうか。
 そして、通年供給するような主要品目については、その時期にもっともおいしい産地のものを全国リレーで展開しようとすれば「全農の力を借りなければできない」。そうすればおいしさを追求した農産物を常に組合員に供給できるし、国内農業を支援することにもなるとも。
 インタビューの終わりに庭野理事長は「人と人とのハート・ツー・ハートという関係性を産地と消費地がつくれるような企画や取り組みができたらいいと思う。そういう視点から産直をもう一度つくりあげていく必要があるし、そこで全農がリーダーシップをキチンと発揮すべきだと思う」と語った。
 こうした期待に全農グループがどう応えていくのかが問われているのではないだろうか。

(2005.11.25)


社団法人 農協協会
 
〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-1-15 藤野ビル Tel. 03-3639-1121 Fax. 03-3639-1120 info@jacom.or.jp
Copyright ( C ) 2000-2004 Nokyokyokai All Rights Reserved. 当サイト上のすべてのコンテンツの無断転載を禁じます。