農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JAの生命線 営農指導と販売事業
第5回 地域農業の再生と組織化に全力を(2)
今村奈良臣 東京大学名誉教授


 前回(第4回 地域農業の再生と組織化に全力を)までの、10項目提案のうち、(1)誰が、(2)どの土地で(または誰の土地で)まで述べてきたが、今回は(3)何を、から述べることにする。

◆何を

 (1) 「売れるものを作る」ということが基本である。米をはじめとしてすべての農畜産物について、消費動向や販売先にかかわる情報を的確に分析し、JA系統組織が一体となり、かつ地域の立地条件や地域特性を踏まえて、各JAは自らの地域における作目や生産構造の短期、中期、長期の展望を描きつつ、組合員に提示し、何を作るべきかを、自己責任の原則にもとづき、決定しなければならない。
 (2) もちろん、さきにP―six理論を解説した折りにふれたように大消費地の消費者を念頭に置くだけでなく、多様な実需者、地域内の消費者、学校給食等地産地消の分野にも取り組み、さらに地域の食文化の継承、食を通じた教育力の発現などにも視野を広げ、作目の選定を行うべきであろう。
 (3) 要するに「適地適作」と昔から言われてきたことに加え、地域の生産者が活力をもって生産に励むべき路線、つまり「適智適策」を推進し、その内発的エネルギーをかきたてる路線を地域で創り上げることを基本におくべきであろう。
 (4) 近年、生鮮農産物や農産加工品の輸入が季節的変動を伴いつつも増加してきているが、これらに対応し打ち克つべき生産戦略を策定すべきであろう。同時に、海外への農産物輸出の可能性とその推進方策も具体的に検討してほしい。
 (5) JAの担当者に望みたいことは、JA管内で歴史的にどういう農産物(加工農産物や山菜なども含めて)がこれまで作られてきたか、そのすべてについて一覧表を作成し、何故生産が行われなくなったのか、需要、消費に起因したものか、生産、供給体制に原因があるのかなどその要因を明らかにしてもらいたい。それらの中で、いま消費や需要の可能性のあるものはないか、生産技術の向上で新たに生産回復の可能性のあるものはないか、などについて改めて検討してみることをすすめたい。消えていった農産物や加工品の中で、いま見直され、需要の拡大が見込まれている農産物が色々とあることが最近の特徴である。

◆どれだけ

 (1) 各作物の生産量、つまりどれだけ作るかということは、消費、需要動向の的確な予測にもとづき各JAの自己責任の原則によって決定しなければならない。もちろん、全農との協議などによって決定するのが妥当であろう。
 (2) とりわけ、米については従来のトップ・ダウン方式により国の指示してきた生産調整の配分システムの時代は終わり、これからは国が策定する基本指針(需要見通し、備蓄量など)を踏まえて、農業者団体が自主的・主体的に生産調整を行う方式へ移行する。ただしこれまでの経緯もあり、07年度までは国と農業団体が一緒に生産目標数量を配分することとされている。以上のことを踏まえ、各JAは米の生産量を最終的には自らの責任で確定しなければならないことになった。
 (3) 当然のことであるが、「いくら作るのか」ということは、「いかに売り抜くか」ということを常に結びつけて考え、その生産量を策定しなければならない。
 (4) その場合、消費者一般ではなく、多様な展開をみせている食品産業、外食産業、中食産業、あるいは給食産業、さらにはスーパーやコンビニなどの小売産業等の需要動向等を重視し、それらへの対応と、のちに述べる販売戦略の開発と併せて地域の基本路線を策定する必要がある。

◆どういう品質のものを

 (1) 先にも述べたように「四安」が基本であると考えている。「安全」「安心」は当然のこととして、安定供給という内容の「安定」、さらに市場競争力を持つという意味での値ごろ感としての「安価」の4つの「安」である。もちろん「安価」とはただ安ければよいということではなく、市場競争力を持ち、かつ、生産者にとっては再生産を可能とする価格であって、そういう意味での値ごろ感である。
 (2) もちろん、生産履歴証明(トレーサビリティ)の明確化をはじめ、今後の方向としては適正農業規範(GAP)の策定、実践などの路線を方向付けていくべきであろう。
 (3) 消費、需要の近年の動向を注視すると二極化ないし三極化傾向、つまり普及品、高級品、その間の中級品への分化がみられるようになっていると思う。この連載の1回目で述べた背広の例のように、吊し既製品、イージー・オーダー、オーダー・メイドという具合である。こうした消費・需要の変化にどのように産地としては対応していくべきか、産地戦略の再構築が必要となってきているように思う。

◆どういう技術体系で、いつ作り

 (1) 「技術を活かすのは人材である」という基本視点を徹底して、JA管内の地域特性、立地特性を踏まえて技術体系を策定してほしい。さきに述べたように、地域内には、青年、中堅、女性、高齢技能者、新規参入者、定年帰農者等多様な人材がいるはずである。それらの人材をいかに活かすか、それに対応した技術体系を地域特性を踏まえて策定すべきであろう。例えば、JA甘楽富岡では、新規野菜生産者の育成のために、老練な生産者によるアドバイザリー・スタッフを組織し指導させている。また、生産者番号を分け、初心者は2ケタ(主として直売所へ出荷)、中級者は3ケタ(主としてインショップ対応)、高級者は4ケタ(主として高級贈答品などへの対応)とグルーピングして、いかに1ケタ向上するかという向上心、競争心を培っており、地域の活力の源泉になっている(『農村文化運動』第161号、163号参照)。
 (2) さらに重要な視点は、稲作、大豆、麦等の土地利用型高生産性部門の技術体系の効率化・低コスト化など改善と野菜、花卉、果樹等の集約部門の技術体系についてそれぞれ組みたてるとともに、両者の間に新たな有機的結合関係(土地・水利用や機械利用、施設利用など)を創り、いかに地域全体としても周年就業体系を創り出すか、改めて検討を加えてほしい。
 (3) 技術体系の策定にあたっては、先人の培った知恵の結晶である「伝統技術」をいかに現代に活かすか、また技術進歩の著しい現代、実用可能な「先端技術」にいかに挑戦し、実用化しつつ地域農業の発展に資するかという視点で取り組んでほしい。例えば、その先進事例としてJA越後さんとうの人工衛星活用の先進事例に学んでほしい(『農村文化運動』第167号参照)。
 (4) また、かねてより私の提案してきた農業の六次産業化(一次×二次×三次=六次産業)の推進を通して付加価値の増大と地域における就業機会、雇用機会の増大を目指し、そのための技術体系の開発と安全管理技術体系の確立に全力をつくしていただきたい。
 (5) 技術進歩のなかで、栽培時期、収穫時期、出荷時期などは大きく変わってきた。いかなる時期に生産し、販売するか、農産物加工(農業の六次産業化)などと併せて、JAの立地特性を活かしてそのシステムを策定する必要がある。
 (6) 市場の需要動向、競合産地の動向などを踏まえて、「種子を播く前に、売り先、売り方、売り場、売値などを考え、販売戦略を開発し、全力をあげて実行する」という観点に立ち、いつ作るのが有利かということをJAの責任において方向づける必要がある。

◆どのような方法でいかに売るか

 (1) 販売戦略の策定にあたっては、JAがこれまで行ってきた販売路線を全面的に再点検して、新しい販売戦略と戦術を策定することが何よりも重要である。その場合、食と農の距離をいかに縮めるか、生産者組合員の手取り最大化をいかにめざすかということが基本におかれなければならない。そうすることが、組合員のJA離れを防ぎ、JAの営農・販売事業の自立にもつながると考える。
 (2) 販売戦略の基本原則とその理論については、すでにP―six理論として述べてあるので、各JAの実態に即して販売戦略の改革、策定に全力をあげてほしい。
 (3) 販売戦略の策定にあたり、私がこれまで提起してきたいま1つの重要な視点は、リスク最小の原則として、「3・3・3・1の原則」というのがある。この提案を参考にして販売戦略を構想し実践してほしい。簡潔に紹介する。はじめの3割は直売、直販、地産地消などである。次の3割は契約販売、契約生産などでその典型はスーパーなどとの契約によるインショップ方式。次の3割は中央・地方卸売市場出荷で、これを私はバクチと呼んでいる。最後の1割は1〜2年先を読み新たな需要を先取りしつつ試作、販売しつつ将来に備える。これまで多くのJAは無条件委託販売方式という名のもとに卸売市場へ出荷(販売ではない)してきたのであるが、これをバクチと呼んで批判してきた。こうした従来からの方式を全面的に改め、リスクを最小にする販売戦略として提起してきたのが「3・3・3・1の原則」である。もちろん、この割合は「5・2・2・1」でも「2・2・5・1」であってもよい。JAの実態に即して、自己責任のもとで決めればよいのであるが、全力をあげてリスクを最小にして組合員生産者のフトコロを暖めること、将来に向けての試作を常に行うことの重要性を強調しておきたい。

◆そのために産地づくり交付金をいかに活かすか

 (1) 平成19年度まで産地づくり推進交付金が交付されるものの、この制度は終わり、経営安定政策へと抜本的に改革されることになる。しかし、産地づくり交付金と担い手の育成、集落営農の推進、地域農業の再編と改革、そして地域の活性化へ向けて活用した地域では多大の成果をあげている。
 (2) 経営安定対策への政策体系の抜本的改革のなかで、当面、JAが取り組むべき最大の課題は、水田農業を中心に担い手の育成、認定農業者等の大規模経営や集落営農の法人化の推進・育成など、地域農業を将来とも経営していくべき主体の形成に全力をつくさなければならない。とりわけ、新対策に伴う助成金は国から農家や法人などの経営体に直接交付されるシステムへ抜本的に改革されることを踏まえて、「金の切れ目が縁の切れ目」とならないよう、JAの指導力、組織力、管理力の抜本的見直しが迫られているということを肝に銘ずべきであろう。

◆そのためのJA改革をいかにすすめるべきか

 (1) これまで述べてきたような課題をいかに包括して取り組むか、という中から、自ずとJA改革の基本路線の内実が固まることであろう。
 (2) さらにその核心を整理するとはじめに述べたように、@JAのマーケティング機能、Aコンサルティング機能、Bマネージメント機能の全面的充実をいかにはかるか、ということになる。
 (3) マーケティング機能とは、くり返しになることをいとわず述べれば、地域の農畜産物をいかに巧みに販売し、組合員生産者の手取り最大化をいかに実現するかということができる。そのためには、従来の卸売市場出荷中心の無条件委託販売方式を改め、消費者、実需者のニーズに的確に応えうる販売戦略へいかに改革するかという課題である。JA―IT研究会に結集しているトップ・リーダーの販売戦略の開発手法に学んでほしい(とりあえず『農村文化運動』の第163号をはじめとするバックナンバーの各種を読んでほしい)。
 コンサルティング機能とは、従来の枠にはまった営農指導事業を脱して、地域農業の活力を生み出すような人材や経営体の育成とその内包するエネルギーを全面的に開花させるような企画、営農にかかわる指導事業への改革と着手である。
 マネージメント機能とは、JAの経営や組織、指導体制の管理・運営の改革にかかわることである。具体的には、@平等原則から公平原則への改革、A経営の透明性、公開性の徹底、B人事管理の改革と人材の育成、登用、C財務健全化の徹底、D業務執行体制の改革、E生産者組織、組合員組織の改革、Fとくに女性の地位向上、理事、総代の比率の増大、G地域住民、都市消費者等との交流の拡大、食育の推進、など広範な分野にわたる改革、改善をはかる課題である。
 (4) 今年の10月10日〜11日には、第24回JA全国大会が開催される予定である。そのために、これから大会に向けて試案の討議がJAレベルでもすすめられるであろうが、自らのJAこそが全国に誇れるJAである、という自信と誇りにあふれたJAとなるべく、全力をあげて、食と農をむすぶ活力あるJAを築いていただきたい。

(2006.7.7)


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