農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 五味久壽の農協教室
コミュニティ資本主義と産業の分極化


◆中国・アメリカ「コミュニティ資本主義」

 中国では同一地域に同種産業に属する企業(郷鎮企業ないし民営企業)が多層的多重的に集積している。このことを、同種企業のコミュニティが形成されているという意味で、中国「コミュニティ資本主義」と呼ぶべきであろう。同様に、アメリカのシリコンヴァレー資本主義も、多種多様なIT企業が集積しているという結果から「コミュニティ資本主義」といえる。
 この中国とアメリカは、両者の「コミュニティ資本主義」が台湾IT産業を仲介にして結びついた。このことが新情報革命と新産業革命を起動させた。
 現在の中米相互依存体制の基礎は、この新情報革命の推進者である「コミュニティ資本主義」同士の結びつきにある。さらに、中国新資本主義とアメリカ新資本主義とは、地域や仲間の社会関係を基盤とした起業ないしヴェンチャー企業設立が容易であることにおいて共通しており、こうした起業活動を通して企業構造や産業構造を変化させる力を持つ。
 中国「コミュニティ資本主義」は、各地域が相互に過当競争――たとえば中国の液晶TVメーカーは、相互の激烈な価格競争によって、本年度全社が赤字になったという――しながら、工業化を目指す強烈なダイナミズムを持つ。それが、中国産業の拡張再編の動力を作り出している。
 
◆新産業と旧産業との分極化

 新情報革命と相互促進的に発展する新産業は、分散・並列・ネットワークシステムを特徴とする。したがって、新産業は、これまでの大企業に代表される一貫生産システムを特徴とする旧産業分野と分極化する。
 この分極化の中で、新産業と旧産業の対抗関係が起こり、それが生み出すダイナミズムは、現代産業の拡張再編のエネルギーとなっている。したがって、新産業革命とは、旧産業が衰退し、新産業分野一本槍になることではなく、新旧二層構造となって、資本の活動力が増大することである。
 旧産業分野の代表は自動車産業であろう。自動車産業は、環境・燃費対策としての自動車部品の電子化の影響も手伝って、もう一段階展開する。今後の最大市場となる中国の自動車市場は、中古車の販売が増加する中で、それを縫って新車販売競争を展開する。その段階で、一貫生産型メーカーと、分散・並列・ネットワーク型で展開してきた地場メーカーとのどちらのタイプが主流になるのかは、まだ確定していない。
 
◆新産業革命と資本の活動力

 本来世界市場を基盤にして活動するグローバルな貨幣的運動体である資本(資本とは世界市場企業)は、その活動力が新産業革命を通して従来よりも飛躍的に高まっている。
 代表として、07年3月期に連結営業利益2兆円台を射程に入れ日本の全企業利益の1割近くを占めるトヨタを挙げると、その海外売り上げ比率の74.6%という数字は(今後巨大市場中国で躓けばどうなるかわからないが)、日本の大企業の海外売り上げ比率の高さを、よく示している。トヨタは、海外向け増産の必要が出てくるまでは、長く日本国内での新工場建設を行ってこなかった。
 トヨタは、リコールの急増に対応すべく、品質担当の専務を置いた。その一因は、年2箇所のペースで海外新工場を新設するため、現場の熟練労働者がラインを離れ、期間従業員に置き換わったこと、つまり、トヨタ生産システムを支えてきた正社員からなる現場のコミュニティが崩れかけたことにあるという。また、コスト削減のため人間の手に頼らない生産の自動化が進んでいるためであるともいう。
 新情報革命は、産業や企業や国家組織などの社会組織の活動全体を、ディスプレーを通してリアルタイムで知ることを容易にした。だが、トヨタの例は、企業が得た情報を使いこなし、集団労働と協業労働を通して人間労働を目的意識的に組織するためには、従来のトヨタ生産方式――現場の労働者の熟練に依存した手作り的な品質の維持――では不十分であり、企業の管理者組織も、新情報革命と新産業革命に対応する訓練と組織化を行わなければならないこと、トヨタが、まだ対応できていないことを示している。

◆新産業革命によるアメリカ社会の分極化

 新産業革命は、かつては社会主義の主張によって代表された所得の貧富格差の是正に役立つものではなく、新資本主義部分がコミュニティ資本主義となっているアメリカでも中国でも、格差拡大を強めている。
 アメリカで04年に税申告した1億3200万人の内、所得3万ドル未満の層が50%、5万ドル未満の層が70%となっている。所得50万ドル・約6000万円(1ドル120円で換算)以上の富裕層は、67.3万人・0.5%に過ぎない。アメリカにおける中間層の衰退ないし「喪失」、「ロスト・ミドル」現象である。
 しかも、労働職種のうち人数がもっとも多いレジ係(労働者全体の2.7%)が年収約195万円、これは、情報革命のユーザーであり流通革命の旗手であるウォルマートなどの最低賃金すれすれの水準にある労働者を代表する。その他3番目のウェイター・ウェイトレス約170万円、8番目のファストフード料理人約181万円、10番目のバーテンダー約190万円など、低収入のサービス業職種の労働者が多くなった。

◆コミュニティ資本主義とコミュニティの解体

 したがって、新産業革命は、コミュニティ資本主義のグローバルな活動が、人間社会の伝統や文化の担い手となってきた社会構造、地域コミュニティを解体する力を、これまた飛躍的に強化している。
 かつては「総中流」といわれた日本でも、正社員雇用の抑制が長く続いたことにより、「格差社会」や「ワーキングプア」の問題が生じている。また、32道県で人口が減少する「地方の縮小」も招いている。
 地理的にも社会的にも日本と中国との中間に位置する韓国では、企業のリストラが1998年の韓国経済危機を通して一挙に強制された結果、非正規雇用が正規雇用を上回った。その後サムスンや現代などの世界市場企業が世界市場での活動を進める中で、少子化が日本をさらに上回って合計特殊出生率が05年には1.08と世界最低水準まで進み、地方の農村の高齢化と過疎化が深刻になった。
 また中国の農村部も、人口はその中の都市部に集中しており、農業地域にいるのは年寄りと子供ばかりである。中国でも、産業としての農業の維持は困難になっており、農業問題は地域コミュニティの維持問題へとすでに転化している。

(2006.12.20)


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