新産業革命論を5回連載し、最終回となった。新産業革命論を掘り下げるよりも、それ自体が進行中である歴史的現実の諸側面を述べただけに終わったことを反省する。
新産業革命論は、現代産業の拡張再編がIT産業(情報の言語的処理)のグローバルな発展によって牽引され、現代産業が、機械システムとは異質の生物のシステムに端緒的に接近しつつあると見るものである。産業システムのグローバルな分散・並列・ネットワークシステム化が進んでおり、基軸産業という従来の見方では、どの産業部門が発展しているかを、具体的に捉え難くなっている。
生命体にとっては、情報の言語的処理が根本的な重要性を持っている。生命体内部のあらゆる組織は、それぞれのレベルで(細胞でも)独立して機能しており、リアルタイムで分子(情報伝達物資という)の交換を通して、情報をやり取りしてコミュニケーションし、言い換えれば相互に話し合って協調して生きているコミュニティとなっている。
この事実の意味が理解されるためには、分子生物学の発展によって、機械システムとは異なる生命体内部の多層的多次元的な情報処理の仕組みが解明されなければならなかった。それと同時に生物の進化過程という生命体全体の歴史が、遺伝子情報の中に内包されていることも解明された。
装置(容器)産業であるオールド産業・重工業も、機械という力学的システムを中心としてきた自動車産業も、情報の言語的処理を手作り的一品生産的システムで済ませてきた。現在の「新情報革命」は、その根本的な見直しが必要であることを示している。
◆IT産業の株式時価総額
IT産業の成長力の大きさとは、世界市場企業の株式時価総額(企業価値の市場による評価)に具体的に反映されている。
第1位エクソンモービル3487億ドル、第2位ゼネラルエレクトリック3623億ドル、第3位マイクロソフト2844億ドル、第4位シティグループ2642億ドル、第5位ガスプロム2537億ドル、第6位トヨタ2453億ドル、第7位AT&T2308億ドル、第8位中国移動2017億ドル(以上は2007年2月23日現在)。製造業では、ITハイテク産業が2位と3位、通信産業が7位と8位にある。
現代の通信産業は、現代IT産業が、企業による物流の効率化や生産過程(工場内部も素材や部品が流れる)の利用から、消費者による利用を中心とするものへと拡張していることを反映している。現在の携帯電話は、IT産業と密接に結びついたメディア機器である。携帯電話ネット利用者数は、日本国内で2005年12月末に6923万人とパソコンネット利用者数6601万人を上回り、グーグルなどを利用すれば、通信事業者に関係なく、音楽、ゲーム、地図等を無料でオープンな環境でいつでも見られる。
◆日本産業も過渡的に反映
オールド産業自動車産業に属するトヨタは、ITハイテク企業を超えることができない位置にある。オールド・オールド産業の鉄鋼産業は、世界第1位アルセロール・ミタル474億ドル、第2位新日鉄461億ドルとさらに一桁低い。
ハイテク部門日本企業は、キヤノン732億ドル、ソニー(PSに代表されるエンターテインメント企業)523億ドルとホンダや日産等と匹敵し、通信部門日本第1位のNTTドコモも846億ドルと、現代IT産業の成長を時価総額に反映している。
◆ヴェンチャー的中国IT企業
中国巨大資本主義は、新興ヴェンチャー企業が熾烈な競争を展開し、成長産業が1〜2年単位でダイナミックに入れ替わる新産業革命の渦中にある。ルパート・フーゲワーフ『中国の赤い富豪』(日経BP、2006年)は、1位〜10位(資産額270億元〜100億元)で第1位古紙輸入・包装製品、第2位家電量販店、第5位太陽電池販売を除く7名が不動産業、11位〜20位(資産額90億元〜65億元)にポータルサイト、自動車部品、鋼鉄、ソフトドリンク、インフラ建設、保健品、鋼鉄貿易等を挙げている。
また、民営企業家の「代表的な業界の代表的人物」に、中信泰富の栄智健、自動車部品・万向集団の魯冠球、鉄鋼・沙鋼集団の沈文栄、不動産開発の許栄茂、飲料・娃哈哈の宗慶後、電子商取引サイト・阿里巴巴の馬雲、家電小売・国美電器の黄光裕、オンラインゲーム・盛大網路の陳天橋、民営インフラ建設・太平洋建設の厳介和等を挙げる。
現在のIT、不動産、製鉄に続き、今後IT、小売、エネルギー業界に注目し、電子商取引サイトやオンラインゲーム等消費者サイドが利用するヴェンチャー企業的IT産業を、最大の成長産業と見ている。
中国IT産業の地域配置の変化
中国は、携帯電話やデジカメなどの最大の生産地域であると同時に最大の市場となっている。したがって、中国巨大資本主義とは、「新情報革命」の進展とともに現代IT産業が発展し、新産業革命が展開している「新資本主義」である。
それゆえ、中国のIT産業の配置の変化とともに、中国産業全体の配置が変化している。「日経産業新聞」は、2007年2月末の「新産業城市――中国発展の奔流」シリーズで、日系企業の投資先という視点から、都市名を具体的にあげた。
(1)「日系企業のIT(情報技術)業務を一括受託するアウトソーシング(業務の外部委託)を受け入れ」「製造業から『オフショア開発』と呼ばれるソフトウェアの受託開発)サービス業への転換を目指す」江蘇省無錫。(2)「中国アセアン博覧会」の開催によりアセアン諸国の事務所が集積し、広東省からアセアンへ製品や部品を陸路輸送する際の中継拠点、アセアン市場向けデジタル機器の生産が進む広西チワン族自治区の南寧。(3)内陸部随一のIT企業集積地、欧米系のオラクルやシマンテック、インテル、ノキア、マイクロソフト等が開発拠点を置き、電子科学大学や西南交通大学、四川大学などのIT系大学が集まる四川省の成都(但し、進出日本企業の代表はトヨタやコベルコ建機)。(4)大連ソフトウェアパークが建設され、GEやIBM、HPなどの有力IT企業が進出し、日本の製造業向けソフトウェア開発拠点となっている大連。
したがって、中国IT産業は、華南地方のパソコン・携帯電話部品生産から、2000年前後に上海周辺の加工組立生産へ発展し、世界最大の生産基地となったが、内陸部や東北部へと移動し情報処理サービス産業の性格を強めている。
こうした中国IT産業の地域的配置と性格の変化は、シリコンヴァレーと中国とのグローバルな分業関係を、中国を主軸とするものへ変化させる。アメリカと中国のIT企業は、ヴェンチャー企業的性格という共通性・同質性を持つ。今後は(インドIT企業も中国企業とは異なった方向に発展)中国IT企業が発展する独自的理由と企業の内部構造の変化の追求を必要とする。
中国産業配置の変化の中で、「三農問題」に代表される中国農業の困難(筆者は中国農民の農地への執着と農業への執着とは別のものと考える)が増大している。中国の地域的コミュニティの解体も今後いっそう進む。こうした問題の分析は、別の機会に行いたい。
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