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シリーズ 田代洋一の「なぜなぜ経済教室」 |
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◆はじめに
現実をミクロ経済学の教科書通りに「改革」すべきという新自由主義がはびこっている。小泉「構造改革」や財界農政はその最たるものである。財界農政のサポーターは日経「経済教室」等に登場する数人に限定されるが、規制改革・民間開放推進会議等を通じて猛威をふるってきた。 ◆集落営農とは何か それは農業集落、藩政村(大字) 、明治合併村(旧村)等といった地域ぐるみの協業化を通じて地域農業を維持しようとする営みである。そんな古いものに依拠した集落営農は、個の自由競争を軸とする現代の市場経済におよそなじまない。経営体としての実体なき集落営農は政策対象にするな。集落営農のために担い手から農地の「貸しはがし」を行うなど言語道断である。これが財界の主張である。 ◆集落営農には二つのタイプがある 一つは少数の担い手農家が「ワンマンファーム連合」を組み、作業や経営を受託する協業経営である。集落ぐるみの取り組みではないが、何らかの集落合意のもとに設立されたという意味で自他ともに「集落営農」と呼んでいる。しかし「生産者組織」(梶井功)と呼んだ方が合っているかも知れない。 ◆貸しはがしは本当か 担い手が展開している地域で地域ぐるみの集落営農に取り組もうとすると、担い手からの貸しはがしが起こるとして、財界は集落営農を批判する。確かに無理して地域ぐるみを組織化するとそういう事態も懸念される。しかしむら人の行動として考えにくく、また万が一そういう場合も農協等が間に入って他の集落の農地を斡旋したりして事なきを得ているのが現実である。財界は自分が貸しはがしをやってきたので、つい他人の行動もそう見るのだろう。 ◆なぜ集落営農なのか 農業就業人口のピークをなす年齢階層は2000年には70代前半、2005年には70代後半になった。いうまでもなく昭和一桁世代である。そのうち女性は70代前半でリタイアするが、男性は踏みこたえる。その彼らがリーダー層として支えてきたのが集落営農であり、日本農業の高齢化対応の一つの形である。 ◆集落営農のパフォーマンスは高い 水田作の任意組織経営(集落営農のこと、2004年、平均15.1ha)と農業経営部門別統計の稲作部門経営の10〜15ha(2003年)
の時間当たり農業所得を比較すると、後者の2467円に対して前者は2365円で遜色ない。平均経営(4.5ha)は1160円だから倍以上だ。合理的土地利用に基づく集落営農のパフォーマンスは高い。 ◆作業受委託の組織的再編 集落営農は三つの層から構成される。第一は役員、リーダー層、第二は機械のオペレーターを務める壮年兼業就業者や定年組、第三は水管理・畔草刈り等の管理作業労働を担う高齢農家等である。集落営農を法人化し、法人に利用権を設定した場合も管理作業は地権者に再委託される。要するに集落営農とは、高齢化が極まるなかで機械作業と管理作業の分業を集落規模で再編成したものだといえる。 ◆集落営農の分配関係 役員層の報酬は、別途に年金収入等があるので年数万円のボランティア水準。オペ層の時間賃金は1000円前後のパートあるいは村仕事賃金だ。これも兼業収入や年金収入を背景にしている。そして残余は全て管理作業報酬+小作料として地権者・管理作業者に支払われる。その水準には地域差があるが、平均して3〜4万円前後にはなろう。稲作では管理作業の善し悪しが反収や品質を作用するキーポイントであり、中山間地域では労働量としても大きい。そこを高く評価して地域農業を維持する互助的な動きだと言える。 ◆集落営農と農協 農協もまた集落営農の法人化に際して出資する等の支援をしているが、それは法人等の農協離れを防ぐのが主目的であり、それ故に地元からはあまり歓迎されない。切実なのは運転資金の確保であり、サイトを長くするとか、当座貸越の手当の方が歓迎される。集落営農等のリーダーは農協OBが意外に多い。農協の最大の貢献はゼニではなくヒトかも知れない。ともあれ農協マンが地域農業に体を張っているのは頼もしい。 ◆集落営農の多面的機能 むらのど真ん中の田んぼにペンペン草がはえだしたら、むらに住めなくなる。むらの定住条件を確保するには水田を守るしかない。それが集落営農の本音である。「集落営農は小さな寺を建てるようなもんだ」といった人もいる。それで過疎化する農村が維持され、ボケを待つしかない遊休労働力が活性化され、生き甲斐をとりもどせれば、医療費や介護福祉の負担も減る。生活を目的とした集落営農は、女性もメンバーに取り込み、地域づくりや都市・農村交流面でも活躍している。このような集落営農の多面的機能の経済評価を財界にもぜひやってほしい。 ◆集落営農の継続性 農政は労働力面から集落営農の継続性を危惧するが、個別経営でも後継者が確保されず経営継承が危ういのは同じことである。地域に集落営農の「器」ができていれば、いずれ定年労働力が戻ってきて引き継ぐことも考えられる。 ◆農政と集落営農 集落営農のいい面ばかりみてきたが、協業は人の心の有り様の問題でもある。いいものだからといって外部から鉦や太鼓で押しつけるべきものではない。その点では、政策に乗り遅れるなと言う今日の集落営農フィーバーは問題である。やはり地域のみんなの話し合いと説得、納得を通じて立ち上げられるべきものである。 | ||
(2006.8.2) |
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