農業協同組合新聞 JACOM
   

風向計

小泉政権5年間の決算は?

政治評論家 森田 実氏に聞く


 内外に課題山積しているなか、組合員が求める地域づくりを農業を核に実現することがJAにはいっそう期待されている。その際、今、私たちがどういう状況に置かれているかを的確に判断する必要があるだろう。どこからどのような風が吹いているのか。この「風向計」と題したコーナーでは、農業、農協外の異分野の識者から時代を分析してもらう。第1回は政治評論家の森田実氏。小泉政権の5年をテーマに聞いた。聞き手は原田康本紙論説委員。

森田 実氏
もりた・みのる
1932年静岡県生まれ。東京大学工学部卒。著述とともにテレビやラジオ、講演などで幅広い評論活動をしている。森田総合研究所主宰。著書に「小泉政治全面批判」、「森田実 時代を斬る」、「公共事業必要論」(日本評論社)など。共著に「アメリカに食い尽くされる日本」(日本文芸社)など。

◆「弱肉強食」原理を導入

 ――小泉政権5年間の功罪をどう見ておられますか

 小泉首相ほど国民を痛めつけた総理大臣は、かつていなかったと思います。日本の国益や独立などに対する配慮をかなぐり捨てブッシュ米大統領のいうとおりに動きました。しかもその首相が英雄にまつりあげられました。政府が巨大広告会社からテレビ各局へと手を回したからです。こうした展開が小泉政治の第1の特徴です。
 第2のポイントは戦後日本の財産である平和主義を投げ捨てブッシュ大統領の戦争に協力したことです。日本はかつての戦争で大失敗をした反省に立ち、平和主義で国の安全を守ってきましたが、首相は憲法第九条の制約を踏みにじりました。
 第3は弱肉強食の市場原理主義政策の導入です。これが社会に混乱と歪みをつくり出したことは歴史が証明しています。それを顧みずに実行しました。

 ――最初に実行したのは英国のサッチャー政権です。その結果、今のブレア政権は後始末で大変ですね。

 そうです。次いで米国のレーガン政権が実行して人類社会に不幸をもたらしました。首相や竹中平蔵総務相らは自分たちの政策が市場原理主義であることをごまかし続け、わけのわからない説明をしていますが、安倍晋三官房長官は最近出した本の中で「日本はアングロサクソン流の市場経済導入に踏み切った」と明言しました。
 このままでは日本人が歴史的に形成してきた「和と助け合い」の社会運営の規範や道義が崩され、日本は植民地化してしまいます。現に悪い人がもうかる風土に変わってきています。また大混乱の中で大企業はトクをし、中小企業や農業は締めつけられています。
 しかしマスコミは市場原理主義の導入がうまくいっていると毎日、ウソの報道をしています。戦時中の翼賛報道と同じです。マスコミは一部の大企業や小泉政権、ブッシュ政権とくっついて国民を捨てたわけです。他方で、こうした状況に目を開く人も全国的に増えています。

 ――東京との格差拡大を痛感している地方の住民の意識は確かに変化していると思いますね。

 小泉「改革」で良くなると信じて、それを支持してきたが、まんまとだまされたという声をよく耳にするようになりました。

 ――ところで小泉内閣誕生に至る裏の力についてはどう分析されますか。

 小泉首相は米軍基地のある横須賀出身ですが沖縄と違って横須賀の土地柄は米軍に対して非常に従順です。そこで生まれ育った政治家を首相にすば日本全体を横須賀化できると考えた米国共和党政権の動向が裏にあると思います。
 もう一つ、米国には日本の郵政資金を活用したいという狙いがあり、そのためには郵政民営化を唱える小泉氏が役に立つと考えたことが裏にあります。
 経過をさらにさかのぼりますと、日本の巨額の貯蓄を米国政府が吸い上げる道をつけたのはレーガン政権(共和党)です。円高にして日本にドルを買わせ、そのドルで米国債を買わせました。その路線を踏襲したクリントン政権(民主党)はそれでも米国政府財政が苦しいため、350兆円の郵政資金に目をつけました。
 しかし露骨に要求するのを避け両国の経済政策の調整を図るためという名目で「年次改革要望書」の交換を提案し、合意となったので米国としては1995年の2回目の要望書に郵政民営化の要求を明記しました。

 ――その後もアメリカは日本政府に「年次改革要望書」の名前で都合の好い規制緩和を要求しており、郵政民営化は小泉内閣が強引に実現させました。

 だから小泉首相はブッシュ政権の世界戦略にとって非常に役に立つ総理だといえます。

◆安部氏をどう評価するか

 ――ポスト小泉の最有力候補とされている安倍官房長官をどう見ておられますか。

 安倍官房長官は小泉首相以上に米国一辺倒であり、ブッシュ大統領に忠実であると米国側は評価しています。

 ――日本国民としては期待できないということですか。

 日本・中国・韓国が仲良くなって東アジアがEUのように一体となる方向に動けば米国は孤立化し、アジアに関与しにくくなります。米国としては日中韓が絶えず対立し続けることが望ましいのです。だから反中国の権化である安倍さんは米国によるアジアの分断支配に大変ふさわしい人物なのです。

 ――では野党のほうはどうですか。民主党には対決力は出てくるのでしょうか。

 その点で注目すべきは民主党の小沢一郎代表が「共生」を政治の中心に置いていることです。数年前までは小泉・安倍氏らと同じ自己責任論でしたが、それを少し改めました。
 自由競争に負ければ自己責任を取るという考え方では地域社会は崩壊する。民主党は日本社会の基本は和と助け合いであるという政治哲学を持つべきです。これは対決軸になります。

◆兼業農家追い出し

 ――しかし残念ながら農業の場合は株式会社を導入して競争をするという方向を農水省が明確化しつつあり、共生とは反対方向に進んでいます。

 小泉内閣は日本農業を完全な資本主義農業に変えることがいいことなんだと考えているが、間違いですね。米国産牛肉の輸入再開も大きな問題です。

 ――米国の牛肉生産量は日本の約23倍ですが、供給の8割を上位4社が握るという寡占状態です。この4社が激しいシェア争いをしてコストを下げるため不法移民などの一番安い労働力を求めています。だからBSE検査どころではないのですが、そうした実態をマスコミは余り報道していません。

 政府・農水省は200万の兼業農家を40万に絞るといった担い手対策を考えていますね。ひどいですね。
 それは昔、イギリスで羊毛を作ったほうがもうかるからと王侯貴族や地主らが小作人を農場から追い出した歴史を想起させます。そして都市へ流出した農民が盗みなどを働くと微罪でも公開処刑しました。そのやり方が余りにひどいため、国王の法律顧問だったトーマス・モアは「ユートピア」(1516年刊)を書き、それが社会主義運動の先駆になりました。
 それに似たような兼業農家の追い出しが21世紀の今日許されてよいのかと、私は地方講演で何度も問いかけています。
 農村社会は食料を供給しているだけでなく環境を守っています。それは中小農家や兼業農家が協力し、助け合っているからこそ守られているのであって、大規模農家だけになったら地域社会は崩壊します。だから小泉首相、竹中総務相、中川昭一農水相らはとんでもない大臣たちだと私は国民に訴えています。

◆国民洗脳システム

 ――巨大広告会社の問題をお話されましたがマスメディアの実態がどうなっているのかをお聞かせ下さい。

 戦争をしている国家はマスメディアを戦時体制に組み入れます。米国もアフガニスタン、イラク、そしてイスラエル支援と戦線を拡大してきた中でメディアを戦争協力機関にしました。今や日米の資本家は手を結んでいますから広告会社のつながりもあり、日本のメディアも準戦時体制に入っています。そして“テロとの戦い”という抽象的な概念を鵜呑みにし、米国やブッシュ大統領は正義であり善であるとの立場に立っています。
 一方、米国の保険業界は日本の巨大広告会社に、ある広告プロジェクトを5000億円で依頼したという情報が昨年5月に米国のウォール街から出ました。それは日本人に民営化は善であり、官業は悪であると思い込ませる日本人を洗脳する目的の宣伝だとのことです。
 それを否定する情報はまだ聞いていません。ただ目当てにする金額の1%が広告宣伝費の相場とすれば、郵政資金は350兆円だから5000億円では安過ぎるという見方はありました。
 新聞社経営は半分以上広告料収入に依存し、民放の依存度は100%です。その広告を取り仕切っているのが巨大広告会社の電通です。とにかく広告メディアを通じて国民を洗脳し、マインドコントロールするシステムができています。テレビと広告が小泉首相を“英雄”にまつりあげたのです。


インタビューを終えて

 森田さんは少し前までレギュラー番組を持っていろいろなテレビ、新聞に登場しておられたが、最近はお見受けしなくなった。理由をお聴きすると、言論人としてタブーと言われている広告を通じてのマスコミの情報操作を手厳しく指摘をし、仕掛け人を明らかにしたことでどこからも声が掛からなくなったとのことであった。世論調査で高い支持率を維持し、選挙をやればチルドレンができるからくりがこのあたりにあるのであろう。アメリカは現在戦時体制下であるとのご指摘は国際情勢を見る上で大切なポイントである。
 森田さんはご出身が伊豆で、大学に入る18歳まで家の農業を手伝っておられたので農業問題も関心を持って研究をしておられる。農業を大切にする政治を情熱を持って語られた。なお、インタビューの直前に副島隆彦さんとの共著「アメリカに食い尽くされる日本」(日本文芸社)を出された。表題が過激であるが内容は1980年代からの対米政策の解説である。次期内閣が何をするか、一読をお勧めしたい。(原田)


(2006.9.7)


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