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風向計 |
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◆求心力の核見えず
――東アジア共同体の実現などもにらんで日本の今後を考えた場合、EU(欧州連合)の歩みは良いお手本になると思います。EUのリーダーたちは各国それぞれに民族も経済状態も文化も違う中で、どのようにEU全体と国内をまとめる努力をしているのでしょうか。 EU全体と各国レベルではリーダーの役割がしばしば矛盾します。EUという共同体がよりよい方向へ進むことに責任を持つ立場と、一方では自国の利益を守っていくという2つの立場があるからです。そこを上手に調整していくとか、または自国民をよく説得してEUの方向性について納得してもらうとか、あるいはごまかしの一手もあるわけですが、そのあたりがうまい政治家と下手な人がいます。 ――欧州で統合が拡大し、深化しているのは、欧州からは2度と戦争を起こさないという意思を貫こうとしているからだと理解してよろしいですか。 ところが戦争の記憶が風化している中では、欧州における恒久和平という共通の理念がかつてほどの威力を持たなくなってしまっているのです。そこを補強する新たなビジョンを提示できていないにもかかわらず、リーダーたちは欧州憲法条約を新たな求心力の核にしようと構想しました。けれども戦争を知らず、同じ発想を持たない世代にはそれが押し付けとなって憲法条約への反発を招き、結局は分裂的な状況を強めてしまっています。 ――フランスとオランダでは国民投票で憲法条約の批准を拒否しましたね。 そうしたEUのつまづきはアジアにとっては非常に貴重な教訓となっています。 ◆どう見る?ユーロ高 ――何を目指して各国が努力すべきか、EUの中で意見が多様化してきたという状況ですか。 いえ問題はもっと深刻かも知れません。共通の問題意識が持てなくなっているのです。 ――次にユーロという統一通貨の位置づけをどのように見ておられますか。今世紀に入ったころは対ドル、対円でも安かったのですが、今はユーロ高です。また国際基軸通貨がドルだけでよいのかという議論もあります。 各国が外貨準備に占めるドルの比率を下げてユーロの比率を上げており、ユーロの地位が確立してきていることは事実です。ただ、これはユーロの評価が高まったからではなくてドルへの信認が落ち込んできていることの裏返しです。 ◆頭の痛い移民問題 一方、ドルは厳密にいえば、すでに国際基軸通貨ではなくなってきており、過去の栄光によってかろうじてその地位を保っている状況です。かといってユーロも新たな基軸通貨として機能できる実力やバックグラウンドを具えているとはいえません。 ――ユーロの実力が試されるのはこれからですね。 そうです。ユーロ圏は今12ヵ国ですが、現在でも例えばドイツとギリシアでは経済の発展段階そのものが違います。さらに来年再来年には東欧10か国からも逐次ユーロ圏に入ってきます。 ――西欧とは異質な東欧諸国が一昨年EUに加盟し、低賃金労働力が流入してくるという問題が先鋭化しています。これをどう見ておられますか。 EUとして最も頭の痛い問題の1つでしょうね。「ポーランド人の配管工にご用心」という言葉がフランスで流行しています。建設工事などの仕事をポーランド人が安い賃金で引き受け、フランス人の失業者が増えるという現象を配管工に凝縮させた言葉です。そこには東欧移民を排除する論理が働いています。 ◆アジアはどうする? 統合で1つ屋根の下に入ったために、それ以前にはなかった摩擦が発生したわけです。理念に向かって進むことと、そこから発生する現象との間には大きな矛盾があります。それをどうやって解消していくか、なかなか答えの出にくい問題です。 ――ASEAN(10か国)プラス3(日本、中国、韓国)という東アジア共同体への動きとEUとの違いについてはいかがですか。 欧州の場合は政治主導で計画的に統合しましたが、アジアの場合、これまでの流れを見ると経済実態に引きづられて結合関係が深まっています。しかし東アジア共同体づくりを宣言することによって政治主導の方向に軸足が移っています。 ◆大人の論理が必要 ――ASEANプラス3の中で日本のポジションはどうあるべきでしょうか。 理想的にいえば日本はやはりアジアにおける調停役、仲裁役、まとめ役であってしかるべきだと思います。どこかの国同士がけんかしていれば出かけていってなだめるといったアジアに奉仕する日本であってほしいですね。
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