農業協同組合新聞 JACOM
   

風向計

北朝鮮は、なぜ核開発とミサイルにこだわるのか?

コリア・レポート編集長 辺 真一さんに聞く
聞き手:原田 康(本紙論説委員)


 10月9日、北朝鮮は核実験を実施したと発表、世界に衝撃が走った。その後、6か国協議へ復帰することを表明し協議は再開される見通しだが、日本国内では北朝鮮はならず者の国といった見方がますます強まっているようだ。しかし、なぜ北朝鮮は核やミサイルの開発にこだわってきたのか。今回は北朝鮮問題の基本と日本を含む国際社会の今後のとるべき対応について聞いた。(聞き手は原田康論説委員)

 

◆コメを選択できなかった国

コリア・レポート編集長 辺 真一
ぴょん・じんいる
1947年東京生まれ。明治学院大学卒。新聞記者を経てフリージャーナリストに。80年北朝鮮取材訪問。82年朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。現編集長。86年からテレビ・ラジオで評論活動開始。98年からラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティ。これまでに参院朝鮮問題調査会の参考人や海上保安庁政策アドバーザーも。

 ――今日は北朝鮮問題の基本からお聞きしたいと思います。

 「食料不足といわれていますが北朝鮮外務次官の国連演説では、20億ドルあればなんとか農業改革ができるといった。実はこれは核開発に注ぎ込んできた額に匹敵します。農業改革に回していれば飢餓は発生しなかったと思いますね。
 しかし、北朝鮮はコメを選択せずに、核を選択した。なぜか。北朝鮮にとって米国とは今も戦争が終わっていない。朝鮮戦争は本来であれば1953年に終結、平和条約締結となるはずだったのが、一時撃ち方止め、休戦状態のままにあります。その後、米国はベトナム戦争からイラク戦争まで数々の戦争をやり、一貫して、次は北朝鮮の番だ、と脅してきた。
 北朝鮮からすれば、米国に攻撃された国はどこも核とミサイルを持っていなかったからコテンパンにやられたんだ、となる。だから核とミサイルを持たなければ、と考えた。
 工作船を日本に忍び込ませ偵察活動をするのも後方基地の日本を叩かずして勝てないという彼らなりの歴史的教訓があるからです。朝鮮戦争の仁川上陸作戦ですね。北朝鮮は作戦を事前に察知して機雷を27万個もばらまいた。それを掃海したのは日本の海上保安庁です。日本の協力がなければ国連軍は戦えなかった、と当時の駐日大使マーフィーさんが回想録ではっきりと書いています。当時北朝鮮は、日本を叩くミサイルも核も持っていなかったから手を出せなかったのだと、これも核・ミサイル開発と工作船の理由にしている。
 また、拉致問題は南北統一に関わります。70年代は暴力的手段、軍事的手段を優先させていた。日本を経由して韓国に浸透して政権をひっくりかえせと。工作員が日本人になりすますには日本人戸籍や日本人化教育が必要だった。南北統一のためには手段を選ばないと、日本が利用されたということです。
 また北朝鮮は偽ドル、覚醒剤になぜ手を染めるのか。実は北朝鮮は地下資源が豊富で金、銀、ウランなど約200種類以上、韓国シンクタンクは288兆円と試算しています。それを開発すれば農業改革でも海外から肥料を買うなど自立経済がかなうわけですが問題は開発資金です。北朝鮮は国際機関からお金を借りられない。米国による経済制裁のためです。戦争が終わっていない、敵国であるとの理由の制裁と、大韓航空機爆破事件などでテロ支援国家にされたための制裁と、二重、三重に課せられた。それで禁じ手の覚醒剤や偽ドルに手を染めた、ということです。
 つまり、体制を維持するためには、まずは核とミサイルを手にし、そこから米国と交渉し、米国の敵対政策を解除させ国交正常化を実現する。米朝が友好関係になった暁に初めて核とミサイルを手放して、それからコメやパンやバターに、というのが北朝鮮の考え方なんですよ」

◆「武士は食わねど」は北朝鮮にも

 ――その考え方を日米は?

「分かっていません。ブッシュ政権は北朝鮮が核施設を止めるというジュネーブ合意を守らないからと、年間50万トンの重油を10年間供給というクリントンの約束を02年に御破算にした。ストップすれば核とミサイルを捨てるだろう、と。たしかに蛇口を閉められたのがこたえ停電が発生し工場の稼働率も3分の1になった。それでも放棄しなかったわけです。
 日本も同じです。小泉首相は2度目の訪朝の04年に25万トンの食料と医療分野で600万ドル相当の人道支援を約束したんです。しかし拉致問題が進展しないという理由で半分の12・5万トン、医療支援も約半分を棚上げした。それでも北朝鮮は音を上げなかった。
 日米の発想は、重油が、あるいはコメが欲しければ核とミサイルを捨てなさい、というものですね。ところが北朝鮮は、重油やコメよりも、まず核とミサイルを選んだ国ですから、重油とコメをあげるから捨てなさいという論法は通じないわけです」

◆日米は強気一辺倒でいいのか?

 ――米国の中間選挙で共和党が負けました。
    6か国協議でも米国の対応は変わるのでしょうか。


 「中間選挙は北朝鮮に追い風になりました。してやったり、の気持ちでしょう。ただ、6か国協議は難しく核放棄の本題に入る前に金融制裁解除問題などハードルが多い。相当時間がかかるとみられます。
 したがって、ブッシュ大統領が自分の残り任期2年で決着をつけようとするなら選択は2つしかない。ひとつは、嫌いであっても金正日総書記と電撃的に握手をして国交正常化まで持っていき核を廃棄させる。もうひとつは制裁発動で兵糧攻めして政権転覆をはかる。現実的には米朝の話し合いによる解決しかない。
 例えば、兵糧攻めによるギブアップを狙った場合はどうか。
 国連の制裁発動でその国の政策や政権が変わったケースは過去2回ある。南アに対する国連制裁では核廃棄まで7年。そしてリビア。核開発計画破棄まで12年かかった。ということは北朝鮮が2年でギブアップするのかということになる。まして拉致問題が核問題よりも先行して解決するということはあり得ない」

 ――安倍政権はどう対応すべきですか。 

 「日本とすれば米朝の話し合いで核問題を解決してもらって初めて拉致問題に入れるわけですから、安倍政権は米国に北朝鮮との直接交渉を要求してしかるべきなんです。
 ところが、今のところブッシュ政権に足並みを揃えて強気一辺倒。北朝鮮が先に拉致問題を解決しなければ国交正常化できない、と言っています。安倍首相は拉致問題では落としどころはないとも言いましたが、交渉には妥協、落としどころが必要です。
 圧力、制裁、強硬のみだと北朝鮮からすれば安倍さんが辞めるまで待てばいいということになる。ですから、拉致問題でスターになって総理になった、しかし、自分の政権下で解決できない、という皮肉な結果になるかもしれない。そこを私は心配しています。
 これまで日本は北朝鮮に対して、有償支援も含めて95年から94万7000トンの食料支援をしてきました。この支援によって日朝協議も始まり日本人妻の里帰りも実現しました。拉致問題も認め少なくとも5人は帰ってきた。その後、子どもたちも帰ってきた。牛歩かもしれませんが、半歩づつ進んできたということです。
 しかし、2年前に12・5万トンを止めてからは、膠着どころか完全に凍結してしまった。日本には、武士は食わねど高楊枝、という言葉がありますが同じような言葉は向こうにもある。その気持ちをいちばん知っている日本人がコメをエサにして屈服を強いるのは邪道だということです。人道支援は続けるべきでした。
 北朝鮮は国内に向けて、貧しいのも、苦しいのも、統一できないのもすべての原因は米国、日本にありと宣伝している。今の対応はむしろ私たちが金正日政権の独裁を許す口実を与えていることになる。逆に日米が関係を正常化すれば、もう米国、日本のせいにはできず独裁政権はもたなくなるのではないかと思います」

インタビューを終えて

 北朝鮮は何故常識はずれのゴタゴタを起こしているのか。それは北朝鮮とアメリカは今でも戦争状態で、「一時撃ちかた止め」が55年間続いた状況ということである。
 1950年に始まった朝鮮戦争は53年に38度線の休戦ラインで北朝鮮軍とアメリカ軍の間で休戦協定を結んだ。一方のアメリカは突出した軍事超大国になり、北朝鮮は軍事費で四苦八苦の独裁政権のままという状況である。
 北朝鮮問題はこの事実をふまえて見ないと誤った理解となる。辺編集長によれば、北朝鮮には石油や希少な貴金属など豊富な地下資源が眠っており、埋蔵量は288兆円とも推定されているとのことである。開発の資金と技術を援助して経済の復興をすれば豊かになる条件があるのに、核とミサイルで大騒ぎとなっているのは何とも残念なことである。米国と北朝鮮が戦争を終結することで次のステップが始まる。日本から最も近い隣国である。6ヶ国協議によってこの地区に政治の安定が実現することを願うばかりである。 (原田)

(2006.11.22)


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