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風向計 |
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――医師不足がひどいのはどの分野ですか。 「全国の病院で不足していますが、特に救急や、手術などを行う大きな急性期の病院から勤務医がいなくなり、楽で紛争のリスクの低い開業医へとシフトしています」 ――勤務医が減って開業医が増えているのですね。全体としてはどうなのですか。 「外国と比べて日本の医師数は少ないのです。人口対比で見ると、先進国からなるOECD(経済協力開発機構)30ヵ国のうち日本は下から数えて3、4番目です。30ヵ国平均の3分の2程度です」 ――医療費抑制を緩和する必要がありますね。 「医師を増やし始める政策への転換が求められます。日本の医療費は04年から先進7ヵ国で最低になりました」 ――「医療崩壊」など先生の著書には英国の事例が紹介されています。 「1979年に就任したサッチャー首相が医療費抑制政策をとり続けた結果、英国の医療は崩壊しました。日本でもすでに小児救急が崩壊し、産科診療でも崩壊が進んでいます」 ――サッチャー政権は市場原理主義の政策を実行しましたが、医療や福祉に市場原理を持ち込むのは間違いです。 「日本の勤務医は手術の最中にこの材料を使ったら、いくらになるかなんてカネのことは考えません。どうしたら1番うまくいくかだけを考えています」 ◆米国の実情 ――米国はどうですか。 「ひどいですね。英国以上の医療崩壊で、医療がカネもうけの産業になっています。カネのない人は医者にかかるなといった状況です。WHO(世界保健機構)も英国のほうがまだましだと評価しています」 ――保険に入っていても保険が利かない状況ですね。 「年間家族を含めて約200万人が医療費支払いのために破産しています。個人破産全体の約半数に当たります。その人たちの75%は保険を持っていますが、患者負担分や例外規定があるため、破産に追い込まれたのです」 ――保険を持っていない人もたくさんいますね。 「中間からやや下の層、約4700万人は保険を持っていません。医療にかかれない人が大勢います。米国の乳児死亡率は、貧しいキューバを上回っているのです」 ◆医事紛争 ――小泉内閣時代にはそうした米国モデルを日本の理想とする規制改革・開放などの議論がありました。 「しかし米国の現実が余りにもひど過ぎるので最近は余りいわれなくなりました」 ――さて、医事紛争が増えていますが、医療をめぐる医師と患者の考え方にはボタンの掛け違いというか齟齬があります。医師側は医療を常に発展途上の不完全技術であり、結果は不確実たらざるを得ないとしていますが、患者側は現代医学を万能視しがちだと、先生は書いておられます。 「患者が死亡すると遺族は医療過誤があったのでは? と疑問を抱きます。メディアも警察も司法も患者・家族の側に立ちます。専門知識に乏しい警察官が捜査し、その発表を受けて、これまた医療のことを余り知らない記者たちが報道するという状況です」 ――医療ミスの判定は非常に微妙で困難です。 「医療に伴う望ましくない結果(有害事象)は統計的に必ず数%は出ます。その中には白か黒かはっきりしないグレーゾーンがたくさんあります」 ――「結果違法説」をとると普通の医師はみな犯罪者になってしまいます。 「だから勤務医は医療事故のリスクを避けて開業医になっていくわけです。大きな対策としては、医療とはどういうものかを意識的に周知するような活動で社会思想を醸成していく必要があると思います」 ◆「無過失補償」導入を ――「医療事故調査機構」設置についてはいかがですか。 「公正取引委員会とか海難審判庁などという制度があるのですから医療事故に対しても専門的な機関が必要です。ただ政府は設置を急いでいますが、私は合意なしに拙速でつくるのはいけないと思います。この機構では何をやるのかよく議論すべきです」 ――最後に「無過失補償制度」についてはどうですか。 「スウェーデンやニュージーランドで実施されている制度で、医師の過失を証明することなしに、補償という形で被害者を救済しています。私はこれの導入を願っています」
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(2007.6.14) |
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