農業協同組合新聞 JACOM
   

風向計
政治を変える時がきた…
政治評論家 森田実氏に聞く
聞き手:原田康本紙論説委員

 民主党は参院提出法案を繰り出して、ねじれ国会での攻勢を強めている。また国会での審議以外は与党との協議には応じないという姿勢を崩していない。こうした新たな状況をどう見るか、今後はどうかなどについて「風向計」は政治評論家の森田実氏に再度登場をお願いして「政治を変える時がきた」をテーマに分析してもらった。聞き手は原田康本紙論説委員。

◆地域共同体が崩壊
政治評論家 森田実氏
もりた・みのる
1932年静岡県生まれ。東京大学工学部卒。著述とともにテレビやラジオで幅広い評論活動をしている。森田総合研究所主宰。著書に「小泉政治全面批判」、「森田実 時代を斬る」、「公共事業必要論」(日本評論社)、「アメリカに使い捨てられる日本」(日本文芸社)、「自民党の終焉―民主党が政権をとる日」(角川SSC新書、第1号)など。

 ――日本の政治を変える時がきたといわれます。今後の流れをどうみておられますか。

 「自民党は安倍辞任でがたがたになりましたが、メディアが一生懸命にテレビキャンペーンなどで総裁選に協力したので福田内閣は比較的いい支持率で発足し、自民党の支持率も民主党を上回っています。このため今、総選挙をやれば勝てる、勝負は今だとの強気路線が自民党内やメディアの1部にあります」
 「11月解散・12月総選挙の声さえ、ささやかれています。しかし今はそれは一部に留まり、広がっていません。なぜか。その原因が大変重要なんです」

 ――そんなに重要ですか。

 「社会の中で最も善良な国民が自民党離れを起こしていることです。私は人類の中で農業に生きる人々が1番良質だと思っています。厳しい自然の論理の中で生きているからです」
 「その人たちが、もう自民党では農業がやっていけない、生きていけない、として参院選では民主党に投票し、自民党は農業地帯で支持を失いました。助け合いや協同などの仕組みで成り立つ農村社会が自民党に批判の目を向けたのです。だから強気路線が拡大しないのです」
 「地域社会を支える医療も小泉政権以後、崩壊し、人の命が救えない悲惨な状況になりました。つまり農業・医療・助け合いの文化、この3本柱で成り立つ地域共同体を崩壊させたのは自民・公明の連立政権であるとの認識が農業地帯に広がったのです」
 「さらに今後の選挙に大きく響く変化としては共産党が比例区を重点とし、小選挙区での立候補を絞る方針を打ち出したことです。これで民主党が決定的に有利になります。共産党に入っていた票が自民党にいく可能性は極めて少ないですから」

 ――誰のための政治か。

 「大局的な流れは変わらないと思います。もし今までのように自公が衆議院で強行採決した法案を参議院に送れば野党は拒否します。時には総理大臣の問責決議案を参議院で議決します。そうすると福田内閣は総辞職か解散に追い込まれます」

 ――米国一辺倒だった小泉・安倍政権と、国連中心主義の民主党を比べる世論の動向といったものをどうみられますか。

 「イデオロギー政治は国民を不幸にしてきた。自由主義は強者のためのイデオロギーとして使われました。自由主義・市場原理主義のイデオロギー政治は過去250年間、世界人類を不幸にしてきました。今、強者のためのイデオロギー政治の先頭に立っているのがブッシュ米大統領です」
 「その子分と化した小泉・安倍政権は日本の国益よりもブッシュ政権の利益を優先させる政治をやってきたという批判が国民の中で広がっています。何事も米国のいう通りやっていれば自民党政権は安泰だという行き方は問題です。いったい誰のための政治なんだという批判が強まっています」

 ――地域格差の問題についてはいかがですか。

 「東京は労働力不足ですが、地方は就職先もないほど疲弊しています。東京中心主義では日本は崩壊してしまいます。政治は本来、地方に基礎をおくべきです。東京の繁栄が日本を救うなどといった論理は大間違いなのです」

 ――戦争中、沖縄県民が軍によって集団自決させられたという教科書の記述書き換えなども地方政治をないがしろにする象徴的な問題です。

 「その通りです。戦争末期の沖縄では全集落・集団が軍隊の指揮下に置かれ、軍隊の規範が一般人にも適用されました。『捕虜になるな』と自決用の手榴弾が軍隊から一般の住民に手渡されたのです」  

◆歴史の捏造許さず

 「本土でも子どものような小中学生が軍事教練をさせられ、軍の指導下に置かれましたが、そんな経験のない若い政治家は戦争への厳しい考え方を持っていません。その代表が安倍前首相でした。そんな中で歴史の捏造があちこちで始まりました」
 「文部官僚が、集団自決に軍が関与したという記述を平然と削ったのは歴史に対する無知傲慢です。しかし、これほどのことは自民党政権側の裏関与がなければできないと思います。表向きは中立機関が教科書検定をしますが、裏では常に政府自民党が関与、工作しているのです」
 「私は何十年も沖縄で取材を続けましたが、今度ばかりは県民が本気で怒っています。政府が改めないまま衆院選にいくなら全国の地方議会に働きかけて歴史捏造反対を決議してもらうという構えです」
 「この問題に象徴されるように政府と中央官僚は非常に傲慢で強権的になっています。これは長期政権の結果だと考える人も増えています」

 ――貿易自由化についてはいかがですか。その論理が貫かれてきて農業は衰退しました。

 「米国の共和党政権は戦争と巨大な資本家擁護の帝国主義的な政治を進め、日本の自公政権はそれに協力しています。農業政策でも米国の巨大農業を保護する政策に協力させられています。自由化を受け入れざるを得ないのならば日本政府は農業を保護しなければならないのです」
 「それができないのなら自由化そのものを拒否すべきです。それによって内閣が倒れても、日本農業が倒れるよりは、ずっと軽微な犠牲だといえます」

 ――政策転換が求められますが、小沢一郎代表の民主党に対する期待が大きいですね。

 「かつて自民党を主導したのは中道保守の潮流でしたが、1980年代からレーガン米大統領の影響を受けた首相が中曾根、橋本、小泉と続いて新自由主義の政策を進め、中道保守は滅びました。それを民主党において復活させたのが小沢さんです」

◆これから大転換が始まる

 「資本家の利益を第1義とする新自由主義に対して、中道保守はいわば修正資本主義です。完全雇用で国民全体を幸せにしようという方向です。参院選勝利後、民主党内では、小沢さんのこの考え方が主流になってきました」
 「かつて自民党内にあった2つの潮流が今度は自公対民主の形に分かれて決戦を交えることになりました。民主党は政治によって労働者・農民を不幸にしない社会をつくろうという立場です。これから民主党政治の方向への大転換が始まると思います」

 ――年金などの福祉問題についてはどうお考えですか。

 「福祉は直接的福祉だけでなく、もっと広い視点に立って行うべきです。完全雇用の実現で、みんなが稼ぐことができるようにする、そうすれば生活保護を受ける人も減って政府・自治体の財政難が解決するのです。完全雇用を含む広い意味での福祉が必要です」

 ――福祉事業の民営化なんておかしな話です。福祉をカネもうけの手段にするのですから。

 「社会が壊れてきています。カネ、カネ、カネの拝金主義が日本社会を壊しています。人間にはカネもうけ以外の崇高な目的があるなどと言うと東京では“マルクス主義みたいな青臭いことを言うな”と言われる始末です」
 「そういうことを言う連中はほとんどがハーバード大学などで勉強した超エリートです。彼らはカネもうけは善であると信じている拝金主義者です。人のために尽くすという精神が衰えています。最近は高い地位にある行政官までがカネを最優先させるようになっています。指導層の道徳が崩れてきています。日本は本当にピンチです。日本は農業と自然の論理から出直すべきです」

インタビューを終えて

 森田先生のお話をお聞きしたのが10月10日で、この日に角川SSC新書が創刊され、第一号が森田実先生の「自民党の終焉―民主党が政権をとる日」である。
 表紙の帯―これは別の名を腰巻きともいうが―には“政権交代へ秒読み開始”とある。参議院が野党多数となったことは政府、自公与党の態度に早速現れてきている。小泉政権以来テロ特措法や教育基本法、憲法問題、沖縄問題では軍事機密、見解の相違で片付け説明や資料の提供無しの強行採決で進めてきたがさすがにそうはいかなくなった。
 これまでは野党も攻め手を欠き、メディアも追求をせず曖昧にしてきたことが政府・与党の好き放題を許してきた。
 政権交代という与党には危機感、野党にはチャンスが生まれたことと今後の方向について森田先生は明快に解説をされている。(原田)

(2007.10.23)



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