19年産から「新たな米需給調整システム」へ移行することが決まり、売れる米づくりに向けたJAの努力が一層重要になってきた。消費者、実需者のニーズをふまえた品種転換、新たな栽培法、品質向上などに急ピッチで取組み、安定した米生産を続けるため「売り切れる米づくりを」をテーマに掲げ生産者をリードしているJAも多い。 JAふくおか嘉穂でも、「売れ残らない米づくり」を合い言葉に特別栽培米の栽培面積を拡大し地域ブランド米として確立する戦略を打ち出している。今年度のシリーズ第1回は「もうJA米が標準ではない。特別栽培米を標準にしたい」と意気込む現地を訪ねた。 |
◆残留農薬検査も要件
福岡県では16年産から収穫前に、残留農薬分析することをJAが集荷する米の要件としている。つまり、銘柄が確認された種子による栽培、農産物検査受検、栽培履歴記帳とその確認、というJA米の3つの要件にもうひとつ上乗せしていることになる。
JAふくおか嘉穂は県内JAの中でも特に残留農薬分析に積極的に取組み、18年産は200点を分析する予定。品種や栽培ほ場などを基準に米を作付けしている全地域をカバーするようにサンプルを採取するという。玄米を砕き、試薬などを使って検体に精製するまで4時間ほどかかるこの作業に収穫期の9月から10月半ばまで、同JAでは2人の職員が集中して担当する。ポジティブリスト制度の施行で分析対象成分は71となった。
サンプルを採取するほ場は毎年変更するため、対象となる生産者は変わるが、この分析自体に生産者の負担はない。また、地域全体をカバーしていることから、JAに出荷された米はすべて残留農薬分析を受けていることになり、この要件はクリアしていることになる。
同JAではあわせて4つの要件をクリアした米を「JAふくおか嘉穂米」としてシールを貼って区分し、そのほかは一般米として扱うが、それは種子更新を行っていない一部の生産者の米のみであり、集荷量約6000トンのうちほとんどが「JAふくおか嘉穂米」となっている。
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残留農薬検査風景 |
◆特別栽培米でブランド戦略
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JAのオリジナル品 |
同JAは「特別栽培米を中心としたブランド化戦略」を打ち出している。
減農薬・減化学肥料栽培の県認証米や県内生協との契約栽培でつくる有機栽培、全農安心システム米など、特別栽培米には以前から一部の生産者が取組み、JAには特栽米部会がある。この部会が17年度から本格的に特別栽培米の作付けを増やす活動の中心となり、17年度に468人だった部会員が18年度には、米出荷者全体の約2800人のうち620人まで増えた。
17年産の特別栽培米の作付け面積は527ヘクタール。このうち県認証米は111ヘクタールにとどまっていた。その他は生協との契約栽培でそもそも買い手と結びつきがある米だが、県認証米の場合、この生産量で県内へ通年安定供給するには不足し、販売といってもスポット的な取引にとどまっていた。
同JAではマーケットニーズに応えられる生産量を確保し、地域ブランド米として確立するため、県認証米の栽培面積を18年産で450ヘクタール、特別栽培米全体で880ヘクタールを目標とした。さらに19年産では県認証米を600ヘクタール、全体で1000ヘクタールをめざしている。実現すればJA管内の米作付け面積約2800ヘクタールの3分の1を超え、集荷量の3分の2を占めることになるという。
生産量を確保するため、県認証米の栽培法・銘柄を集約化した。17年産ではコシヒカリで栽培法が3基準、夢つくしで7基準と合計10銘柄もあったが、販売ロットを大きくするため、18年産からはコシヒカリ1基準、夢つくし3基準と県認証米は4基準とした。
このほかに生協と契約栽培の有機栽培や減農薬栽培、卸の要望で栽培するレンゲ米夢つくしなど、特別栽培米としては8つほどの銘柄としてラインアップすることにした。
また、これまでは小さな集落単位や、グループ、個人単位で取組みが進められてきたが、今後、県認証米については、地域の営農組織単位を基本に団地化して面積を確保する方針だ。農政転換に対応して担い手の育成と支援もJAの課題だが、ここでは集落営農組織づくりと米の地域ブランド化を一体として進めているといえる。集落営農により、水田の団地的利用が可能になるだけでなく、栽培基準と作業基準の統一、生産履歴記帳の負担軽減など、メリットも生まれる。一方、販売価格アップで生産者の手取り価格も上昇すれば、集落営農組織づくりにもさらに拍車がかかる、という好循環も期待できる。
そのほか、特別栽培米ではなくても、カントリーエレベーターやライスセンターに出荷する米は、有機質肥料の使用を義務としており、また、19年産からは施設集荷以外のJAふくおか嘉穂米(いわゆるJA米)にも有機質肥料を使ってもらうことにし、JAが扱う米全体のレベルアップを図るとともに、特別栽培米づくりへと誘導していく。有機質肥料としてJAが開発したオリジナル肥料を供給している。こうした取組みでめざす目標は「JAふくおか嘉穂といえば『特別栽培米』、といわれるような地域ブランド米づくり」だ。実際、19年産で特別栽培米作付け面積1000ヘクタールを実現すれば、福岡県内の県認証米ほ場の半分を占めることになる。
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低タンパク米の区分集荷を行うカントリーエレベーター |
低タンパク米の区分集荷も実施
◆高食味米の生産にも着手
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タンパク含有量分析機 |
JAふくおか嘉穂の管内は、遠賀川の源流域にあたり、豊富な水で作られる米は、昔から食味が良いと評価されてきた。
ただし、その評価は県内での比較であって、JAは「全国レベルのブランド米とくらべると格段の差がある」と厳しく捉えている。というのも、福岡県は消費県であり、県内で販売されている米の半分以上は県外産。しかも東北・北陸の高食味米が高く評価されているからだ。そうしたマーケットで評価され売れる米となるには、特別栽培というだけではなく、やはり高食味であることがブランドイメージには欠かせないという考えにもとずき、今後、高食味米づくりにも着手していく。
高食味米の基準とは、タンパク含有率が6%以下の米。特別栽培米に営農組織で団地的に取り組む地域を対象に、土壌検査と施肥設計を行ってから栽培する。しかし、確実に基準通りの米づくりができたかどうかは分からないため、タンパク含有量を測定して区分集荷をする。
測定は農機メーカーとの提携で、ほ場生育診断システムを導入した。これは収穫前のほ場を画像撮影し、葉色からタンパク含有量を推定するシステムだ。まずこの測定によってほ場を仕分けする。いわば一次検査だ。
そしてカントリーエレベーターでの荷受け時には、一次検査で基準どおりと推定されたほ場から刈り取られた玄米を対象に、食味計でタンパク含有量を測定後に仕分けしていく。基準値を満たさなかった場合は、施肥設計などを見直して翌年に備える。
この取組みは特別栽培米というだけでなく、さらに食味という点からもレベルアップを図ろうとするもので、18年産から試験的に実施している。21年度の目標としてタンパク含有量6%以下の米を100ヘクタール確保することを掲げている。
同JAの米販売戦略をまとめると品質区分として、一般米、JAふくおか嘉穂米をベースに、特別栽培米、さらに高食味米という階層になる。そして階層によって生産者への支払い額に価格差を付けている。
営農部の市吉英男農産流通課長は「特別栽培米の生産拡大にはリスクもあったが、実際は引き合いが多くまだまだ生産量が不足気味。JAとして生産量を確保して実績を上げれば、プレミアムもついて生産意欲がわく価格水準の設定も可能になる」と語る。
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右が市吉課長、左は直売所担当の井口産直 |
◆地産地消に向け直売も展開
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特栽米部会長の木附さん |
同JAでは、生協や卸業者との契約栽培やJA全農が進める実需者との特定契約にも力を入れ、流通コスト削減によるメリットを生み出す努力もしている。
そのほか、JAの直売所でも特別栽培米の店頭精米販売を始めた。地元の外食業者などにも売り込みを図るなど、地域住民自身に特別栽培米に取り組む米産地であることをアピールしている。こうしたJA直売の比率は30%程度だが、これを維持して生産者へのメリット還元と地元へのPRに役立てたいという。
また、契約生協の組合員を対象に通年で米づくりを体験してもらう「米づくり道場」も開催。田植えや稲刈りだけではなく、荒掻き、草刈り、しめ縄づくりなども体験してもらうなど、交流事業も重視してきた。
同JAの特別栽培米の生産拡大を担うのが特栽米部会。部会長の木附一士さんは、嘉麻市泉河内集落の棚田2.2ヘクタールでコシヒカリの無農薬栽培をしているほか、特別栽培米の認証員も努める地域のリーダーである。
「JAが売れる米づくりに向けて真剣に戦略を打ち出してきたことで、部会活動も充実してきた。卸や実需者を招いた大会などに参加することで生産者も意識が次第に変わり、今のままでも何とかなるだろうと言っていた人も県認証を取得するなど意識改革にも広がりが出てきた。やはりJAと部会との連携が重要」と話す。
市吉課長は「この地域の標準は特別栽培米としたい。JAが目標を高く掲げ売り切れる産地としての戦略を打ち出さなければ生産者はついて来ない時代、と考えています」と話している。
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(左)直売所で地元産「コシヒカリ」の販売をPRする看板・(右)店頭精米のコーナー |
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