農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JA米事業改革の現場から06年版(2)

安全の「検証」で生産者を守る

JA独自の「安全・安心システム」を構築
現地レポート JA秋田ふるさと(秋田県)


 10月11日に開催された第24回JA全国大会決議では、「適切な生産管理と生産履歴記帳の徹底」をすべてのJAの重点取り組み事項に掲げ、JAが販売するすべての農畜産物について生産履歴記帳の裏付けがあるものとすることを目標にした。
 今回レポートするJA秋田ふるさとでは、無登録農薬使用問題を契機に、米はもちろん青果物、畜産物を含めたJA独自の「安全・安心システム」をいち早く構築、生産履歴や安全性の検証結果などの情報開示を行って、消費者の信頼度を高める取り組みを進めている。それらの取り組みがJAの米生産・販売戦略など米事業改革をどう実現しているのか、現地に取材した。

4基あるCEのうち3基を「あきたこまち」専用にしている。また、乾燥方式にモミガラ混合乾燥方式を採用
4基あるCEのうち3基を「あきたこまち」専用にしている。また、乾燥方式にモミガラ混合乾燥方式を採用

◆品目ではなく「産地」全体の信頼確保

JA秋田ふるさと

 JA秋田ふるさと農産物販売額は約156億円(17年度)。米が基幹作物で取り扱い量は4万3000トン、販売額全体の6割を占めるが、野菜、果樹、キノコ類、畜産なども盛んで多彩な品目が生産されている。
 平成14年に全国的に明るみに出た無登録農薬問題は、同JA管内でも残念ながら一部の果実での使用が判明し生産者に動揺を与えた。しかも衝撃だったのは、問題を起こした品目だけではなく、米も含めてすべての品目に疑いの目が向けられるという産地全体の信頼性が問われる事態となったことだ。
 営農経済部流通販売課の橋伸係長は「米とリンゴなど複合経営も多い。それだけにどの品目であっても問題を起こせば全体が打撃を受けてしまうことを痛感しました」と振り返る。
 JAは産地の信頼回復のため、適正な農薬使用はもちろんのこと、自分たちが生産、販売している農産物は栽培基準を守った安全なものであることをアピールすると同時に、それを証明する仕組みづくりに取り組んでいる。しかもJAが取り扱う農畜産物すべてに導入する方針を決めた。
 さらに、生産履歴記帳内容のチェックや農産物の安全確認、情報開示と生産者へのフィードバックという一貫したシステムとして作り上げるために、専任部署として「安心販売課」を設置したことが注目される。
 生産履歴記帳の徹底には生産者の理解が不可欠で、ほとんどのJAではその推進と記帳内容の点検は、営農指導員など生産現場に近い職員の担当となっているだろう。
 しかし、同JAの木村一男代表理事組合長は、販売に責任を持つ部署こそトレーサビリティシステム構築に当たるべきとの方針を強調、新設の安心販売課がJA秋田ふるさとの「安全・安心システム」づくりを担うことにしたという。

◆危機感をバネに運動を徹底

 同JAはこうした方針のもと15年度から「生産工程管理・記帳運動」への取り組みをスタートさせた。作物・品種ごとの生産基準は生産部会で作成し、JAとの間で生産工程管理・記帳について協定の締結をした。これまでに米で31、野菜で51など生産基準は全部で118ある。
 このうち米は基幹作物だけに生産者数も約7900人ともっとも多い。米の出荷者、イコール組合員といってもいい状況である。兼業農家も含めた生産者への周知徹底が課題と思われるが、橋係長によると無登録農薬問題が発覚した際、JAが生産者に農薬の適正使用についての誓約書提出を求めたところ、全生産農家が出したという。
 「その実績を見て記帳運動は徹底できる、と思った」。危機感をバネに運動を一気に広げたといえるだろう。

橋係長(右)と若手生産者でJA理事の橋本暁さん。「この運動によって、意識が変わり結果として営農も変わった」。雑穀、しいたけは完全無農薬で栽培しているという
橋係長(右)と若手生産者でJA理事の橋本暁さん。「この運動によって、意識が変わり結果として営農も変わった」。雑穀、しいたけは完全無農薬で栽培しているという

◆ほ場巡回で種子更新を点検

生産量の9割以上が「あきたこまち」だが、「ひとめぼれ」、「めんこいな」や酒米の作付けもある
 同JAの生産工程管理・記帳運動は16年からの全国的なJA米の取り組みよりも前に始まったことになるが、JA米の要件である「銘柄が確認された種子により栽培された米穀」については、改めて種子注文の取り方やチェック体制を整備した。
 まず以前は集落単位で種子や苗の注文を取りまとめていたが、それを生産者ごとに注文をまとめる方式とし、どの生産者がどういう種子や苗をどれだけ使用しているかを把握することにした。さらに育苗期間と生育期間中にも営農指導員が現地を巡回して、銘柄どおりの稲が育っているかどうかをチェックしている。疑いがあれば出荷時にはDNA検査の対象とする。
 とくに多品種を栽培する生産者には注意を呼びかけるとともに、サンプル採取してDNA検査に回す。同JA管内の米作付け面積は8800ha程度で生産量の9割以上が「あきたこまち」だが、「ひとめぼれ」、「めんこいな」や酒米の作付けもある。
 そこでサンプル採取するのは、隣接するほ場で作付け品種が異なる地域を対象とすることにした。米が生産されるすべてのほ場を対象にするのは現実的には不可能だが、作付け品種の変わり目となるほ場で交雑などの問題が認められなければ、より離れたほ場なら異品種混入の確率は一層低くなると判断している。
 DNA検査の必要性はJAの職員が判断するだけでなく、生産者自らが生育中に疑いを持ち自己申告して行われるケースも出てきたという。
 そのほか集荷段階では、生産日誌の点検、残留農薬検査、カドミウム分析、食味分析なども実施される。このうちカドミウム分析は全生産者、全品種を対象にJAが実施している。
(左)食味分析・(右)カドミウム分析をJAで実施
(左)食味分析・(右)カドミウム分析をJAで実施


バーコード管理を販売戦略に活かす

◆リスク管理のためのシステム

生産者ごとにバーコードを貼り出荷
生産者ごとにバーコードを貼り出荷

 JA米の3つの要件に加えて、こうした検査・分析などを経た米をJAでは出荷できる条件の米として扱う。もちろん生産日誌の提出と点検は不可欠だが、提出がなければJA米ではなく一般米として区分するという方針は取らず、農産物検査を保留して生産者に提出を促すという。この徹底した取り組みによって100%提出が当たり前となり「JAに出荷されたものはすべて生産履歴記帳の裏付けがある」ことを実現している。
 ただし、JAに出荷された段階では安全な農産物かどうかの確認がすべて終わっているとは限らない。DNA分析や残留農薬検査結果が判明していないこともある。
 そこでJAでは春先の出荷契約の際に、個々の生産者に割り当てたバーコード・シールを配付し、出荷する30kg袋ごとに貼ってもらう仕組みを導入した。これで個袋の流れをコントロールする。たとえば、出荷前に残留農薬などの問題があることが分かれば、バーコードを指定し、その個袋の出荷を止めることができる。原則は出荷前に品質確認済みにすることだが、かりに流通ルートに乗ってしまったケースが発生したとしても、流通販売課からのバーコード指定で消費地への供給をストップすることができるという。
 「安全性に問題が発生した時は、やはり産地の責任になる。JAとしては、どこにそういう農産物が流通しているのか把握していなければ対応ができない。付加価値をつけて販売するためではなく、JAのリスクマネジメントとしてのシステムです」と橋係長は強調する。
 また、同JAの特徴は、ほ場や出荷後のサンプル調査によって、農産物そのものの安全性確認にも力を入れていることだ。
 「問い合わせがあれば、減農薬栽培など生産情報の提供だけでなく、産地段階で安全性の検証まで行っていることも伝えられる。すべてを明らかにし、情報を産地と消費地で循環させることが生産者を守ることだと思います」。

◆安全・安心システム」を安定契約につなげる

 こうした仕組みづくりを進めながら、販売先を生協に広げることにも力を入れてきた。その理由としては全国の生協の組合員数が増加傾向にあり、栽培方法、栽培理念などへのこだわりが強く、生産基準などに双方で合意し、品質をしっかり保証して供給できれば「息の長い顧客」として期待できるからだ。安全・安心への取り組みを安定した販売につなげていくともいえるだろう。
 もちろん情報の循環は栽培技術のレベルアップにもつながる。生産日誌はOCRで読み込まれ生産者ごとにデータベース化されているほか、バーコードのデータは、そうした生産履歴データや品質データともリンクできる。そのため、消費地からの要望をバーコードで整理すれば、個別の生産者ごとにどんな生の声が届いているかを知ることもできる。これらのデータをまとめJAでは「お米の通信簿」としてフィードバックし翌年の技術課題、生産計画に結びつけている。
 今後は、こうしたシステムのうえに、集落など地帯別に特栽米づくりなど特徴ある取り組みでを進めていくことを課題としており「生産者とJAの連携が一層大切になる」と橋係長は話す。

(2006.10.26)


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