JAえちご上越は農産物販売額の約9割が「米」で、JA扱いで70万俵以上の大産地だ。JA米の取組みは16年産からだが、14年産から高品質、良食味にこだわった米づくりを行ってきた。19年産からは農薬・化学肥料を慣行基準に比べ3割削減する米づくりに取組み、消費者の安全・安心に対するニーズにも対応する。高品質、良食味そして安全・安心な米づくりを進め、すべての米について産地指定を得ることも目標だ。
消費者ニーズに合わせた米づくりへの取組みや、すべての生産者に担い手として米づくりを継続してもらう仕組みなどを取材した。 |
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すべてのCEでISO14001を取得(直江津CE全景) |
◆JA扱いで約72万俵の大産地
JAえちご上越は2001年3月、県西部の7JAが合併して誕生した。17年度の販売実績約127億円のうち米関係が約111億円、87.7%と圧倒的なシェアを占める米作中心のJAだ。17年産は作付面積1万3780ヘクタール、JA扱い量は4万3000トン(約71万7464俵)だった。JAの集荷率は72%で、そのほか業者集荷10%、農家の直売5%、自家消費が13%の割合となっている。作付の約7割が「コシヒカリBL」。その他は「こしいぶき」「ひとめぼれ」、酒米の「五百万石」、もち米の「わたぼうし」などが作付けられている。「コシヒカリBL」は、コシヒカリにいもち病に強い性質をプラスした新しい品種で、17年産から県内一斉に導入された。
同JAでは今、「求められる『上越米』を目指して、すべてはひと粒ひと粒の信頼の為に」をモットーに、米づくりを進めている。 ◆適期移植で高温障害を避け高品質、良食味米生産へ
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田植え時期を遅らせ高品質米を生産 |
JAの売れる米づくりに向けた取組みは、平成11年、12年産米の高温障害による品質低下が大きなきっかけとなった。
卸から産地指定をもらうためには品質や食味が高いレベルで安定していることが必要との認識で、そのために何をすればよいのかを話し合い、登熟期の高温障害を避けるため、田植えを遅らせ(適期移植)出穂期を8月10日前後にずらすことで対応することにした。13年度にJA、生産者、土地改良区、行政機関などで、用水の取り入れ時期などを調整し、14年産から適期移植に産地をあげて取り組んできた。
「収量も大切だが、品質はそれ以上に大切」とは、11年、12年の経験から学んだ教訓だ。兼業農家の多くは4月末から5月初めの連休を利用して田植えを行うため、14年以降、5月15日を基準とした田植えを徹底するよう指導している。出穂期を8月10日前後にずらすことにより高品質で良食味米を安定供給できるようになったことが、卸、小売店の信頼を得て多くの産地指定につながった。
この取組みの中で、育苗センター利用者への啓発活動などにより生産者とJAの連携が図られたことが、高品質、良食味米生産の基礎となったと同時に、16年度から始まったJA米の取組みがスムーズに運んだ要因だとJAでは考えている。17年産「コシヒカリBL」は98%が「JA米」となっている。 ◆農薬・化学肥料の削減で安全・安心な米づくりも
適期移植により高品質、良食味米の生産を確保すると同時に、19年度からは安全・安心な農産物を求める消費者ニーズに対応し、産地の努力を消費者にアピールして上越米の市場評価をより高めるために、農薬・化学肥料を慣行基準比3割削減の米づくりに取組む。
管内ではすでに農薬・化学肥料を県の特別栽培米認証制度による慣行基準比で5割以上削減した特別栽培米も生産されているが、これは一部の生産者の取組みで、生産量も僅かだ。
19年度からは3割減・減はあたりまえとし、全生産者が一斉に取組む。つまり、19年産からは同JAの「JA米」の要件は基本となる3つに加え、もうひとつ上乗せすることも視野に入れているのである。さらに今後は実需者との協議を重ねながら、5割削減へと進めることも考えている。
17年度の栽培記録カードによると、「頚北」・「わかば」地区など管内各地区でおおむね3割減・減は達成されているが、個々の使用する資材とその量が異なるため基準をクリアできていない生産者もいる。その問題を解決するためには栽培基準が必要となる。
また、農薬・化学肥料削減も含め環境に配慮した農業を進めることもJAの重要な使命の一つと考え、管内のカントリーエレベーター(CE)9か所すべてで環境基準ISO14001の取得、畦畔・農道等へ除草剤を撒かない、などの取組みも行っている。
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米の初検査も順調に進んだ |
県本部を通した販売で価格の低下競争に歯止めを
◆求評懇談会で卸・小売店と意見交換、交流を米づくりに役立てる
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石山次長(左)と伊藤次長(右) |
現在、一部生協(パルシステム)との契約栽培を除いたJA扱い量の約7割(ほとんどコシヒカリBL)は、卸40社からの『産地指定』となっている。残り約3割が市場流通だ。市場流通の約3割についても、品質、食味等の点で評価を受け、毎年売り切れているという。そこでさらに安定した取引きを実現するために「全量産地指定を得たいと思っています。そのためには、徹底して安全・安心、高品質、良食味にこだわり、消費者から評価される産地をめざしたい」と、石山忠雄営農生活部次長はJAの販売戦略を語る。
そのため年1回、付き合いのある卸を中心に呼びかけ、「JAえちご上越産米求評懇談会」を管内で開催している。JAからは役員、営農指導の担当者などが参加、生産者も加わり、卸、小売店からの要望やJA、生産者からの提案などについて話し合ったり、現場を視察して交流を深め産地指定につなげる取組みだ。
石山次長は、「この場での交流で我々と結び付きが深くなり、産地指定に繋がった卸もあります。また、この懇談会で我々が米づくりにかける気持ちを卸、小売店に理解してもらい、消費者につなげて欲しいという思いもあります」と語る。また、営農生活部の担当者が全国の卸・小売店を対象に、産地指定を得るための“出向く”営業活動を行っている。どのような米づくりを行っているか、産地の取組みを理解してもらうことを狙いとしている。
一方で、卸などからは直接取引したいとの申し出も多くあるという。
「しかしJAでは、そのような希望先には県本部を紹介して産地指定に結びつけている」と、担当の営農生活部次長の伊藤義雄氏は販売方針を語る。その理由として「JAが直接販売を行った場合、最終的には値引き競争になる可能性が大きく、それが、米価格全体の低迷を招く面は否定できない。我々は県本部、全農と連携して有利販売を進めていきたい」と話す。 ◆すべての農家を「担い手」にJA一体で米づくりを目指す
管内には全部で951の集落がある。大半が米農家であるため、19年度から始まる経営安定対策に向けての担い手づくりが喫緊の課題だ。しかし、集落営農組織で担い手の要件である農地面積20ヘクタールを超えているのは150集落で、残りの集落営農組織では要件をクリアできない。
現在、JA管内には担い手の要件である20ヘクタールを超える農地を持つ特定農業団体、すでに法人化している集落営農組織合わせて70団体が設立されている。最終的には150集落すべてが担い手として認定されることを目標としている。
一方、担い手要件を集落営農でクリアするには法人になる以外にはない残り801集落については、担い手として米づくりを続けてもらうための新たな仕組みづくりを進めている。
その仕組みとは、農家が委託希望農地をJAの農地保有合理化事業を通じ、JA出資の農業生産法人に委託、各農家が組織を作り法人へ作業員として参加するというものだ。
すでに法人設立に向けた『準備室』を営農生活部の中に立ち上げた。法人は一つだが、多くの農家が作業員となり、農作業を行うという形態だ。その後、5年をメドにそれぞれの集落で法人化を目指す。
ただし、法人化計画について生産組織連絡協議会長の久保田清五郎さんは「みんなが十分に納得してからの法人化であれば良いのだが、経理を一元化することは、一生懸命働く人が損をすることになりかねない恐れがある。法人設立後に、その法人が機能しなくなったら集落は崩壊してしまう。補助金をもらうための担い手組織ではなく、地域を守る担い手組織にしなければ」と話す。時間をかけて慎重に進める必要がある、との声も少なからずある。
こうした声を反映させながら目前に迫った19年度を前に、「現在、関係機関総意により各種研修会並びに地区別説明会などで農家の理解を求めているところです。管内農家すべてが、集落営農・認定農業者・JA出資農業生産法人等により担い手を目指し、JAと一体となり消費者のニーズに合わせた米づくりを目指したい」と、法人設立準備に関わる担当者は話している。
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