農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ いま日本の生産者に望むこと
第2回 実需者の立場から

新たなライフスタイルや食のシーンを提案

キユーピー株式会社広報室課長 堀池俊介氏に聞く


 いまや私たちの食生活にとって、野菜サラダは定番メニューの一つだといえる。そして、サラダにはマヨネーズやドレッシング類は必需のものだ。いまから80数年前に日本で初めてマヨネーズを製造・販売したキユーピー(株)は、こうした調味料・加工食品のトップメーカーとして、私たちの食生活を豊かに演出している。シリーズ第2回は、このキユーピーグループがどのように事業を展開し、その基本的な考えは何かを同社広報室の堀池俊介課長に取材した。

赤ちゃんからお年寄りまでの食生活に貢献する

堀池俊介氏
堀池俊介氏

◆満82歳を迎えたマヨネーズ

 「マヨネーズといえば?」と聞けば、多くの人が「キユーピー!」と答えるのではないだろうか。それほどキユーピーのマヨネーズは日本人の食生活に欠かせない調味料となっているのではないだろうか。
 国産のマヨネーズが初めて製造・販売されたのは、大正14年(1925)のことだった。創始者・中島董一郎氏が、アメリカで食べたポテトサラダに使われていたマヨネーズのおいしさと栄養価の高さに注目。日本でもと考えて構想を温め、関東大震災を境に東京の女学生の服装が着物から洋装に変わり始めたのをみて製造・販売に踏み切ったのがはじまりだ。
 今年の3月で満82歳を迎えたマヨネーズだが、日本の食卓にいまのように定着するのは、生野菜が日常的に食べられるようになった昭和30年代ころからだ。いまでは「野菜が足りない」と感じたら「サラダを食べる」ことが当たり前のようになっているが、昭和30年代前半までの日本では、野菜は煮物など加熱調理して食べることがほとんどだったからだ。

◆調味料は野菜などを引き立てる脇役

 だが、マヨネーズが多くの食卓の必需品となるためには、サラダなど野菜を生食する食習慣が広がっていくのをじっと待っていたわけではない。
 マヨネーズやドレッシング類は「主役を引き立てる脇役」なのだと、キユーピー(株)の堀池俊介広報室課長はいう。いまミズナがサラダの食材として人気になっている。これはキユーピーがミズナを主役にしたサラダのCMをうったことがきっかけにとなり、関西で鍋物に使われていたミズナが全国でサラダの野菜として食べられるようになったからだ。そして家庭だけではなく、いまではレストランや居酒屋のサラダ材料として使われるまでになっている。
 レストランや居酒屋の定番サラダの一つであるシーザーサラダも、キユーピー発のメニューだ。この後家庭用でもシーザーサラダドレッシングを発売し、家庭でも簡単に食べられるようにしていった。
 脇役ばかりではドラマはできない。だから、ミズナやスナックエンドウ、エリンギなど新たな主役をみつけたり、旬の野菜のおいしい食べ方を、マヨネーズやさまざまなドレッシングなどの脇役を上手につかって提案していくことで、食生活に新たな発見と喜びを提供してきたのがキユーピーの歴史だともいえる。

◆良い製品は良い原料から生まれる

 キユーピーグループの事業は、マヨネーズや昭和7年にママレード、イチゴジャムの販売を開始したアヲハタジャム(アヲハタ(株)が製造)、そして国産初のドレッシングとして発売されたフレンチドレッシングに代表されるドレッシング類、さらにパスタソースなどの調味料・加工食品事業。
 入荷時の検査で合格しても製造時に穀物の1粒ひと粒、細かく刻んだニンジンなどの野菜の1切ひときれを人の目で確かめ選別して製品化している育児食。腎臓病や糖尿病患者用の医療食や介護食などを柱とするヘルスケア部門と「卵とにわとり」を起源とした健康機能・医療用素材を柱とするファインケミカル部門からなる健康機能事業。
 国産卵の9%を使っているというキユーピーのノウハウを活かしたタマゴ事業。後でふれるが、消費者の健康と簡便性ニーズに応えるサラダ・惣菜事業。そしてそれらの事業を支える物流システム事業の5つから成り立っている。
 こうした事業を進めるうえで、2つのことを大切にしている。
 1つは、「良い製品は、良い原料からしか生まれない」という創始者・中島董一郎氏の考えを基本ベースに、おいしさと品質について妥協しない。「変えてはいけないことを守っていく」ということだ。育児食の徹底した品質管理は、こうした考えの集大成だといえるだろう。
 もう一つは、コレステロールを下げる効果があり、カロリーが半分の特定保健用食品の開発とか、ドレッシング瓶のラベルをはがしやすくしたり、ジャム瓶に凹みをつけてあけやすくするなど「どんどん工夫していくこと」だ。
 こうした創業以来のものづくりの姿勢と先ほどみた「メニュー提案」で業界トップの位置を築いてきたといえる。マヨネーズなどのイメージから、家庭用中心と思いがちだが、実際は、中食・外食・家庭用にバランスよく販売しているのもキユーピーの特徴だといえるだろう。

おいしさ・やさしさ・ユニークさをキーワードに新たな市場を創出

◆アクティブシニア層にカジュアルヘルスケアを提案

 「Food,for ages 0−100」つまり「赤ちゃんからお年寄りまで、それぞれの世代のさまざまな食の場面にキューピーグループならではの商品を届けたい」。そして「おいしさ・やさしさ・ユニークさ」をもって、食生活に貢献することを経営理念として掲げている。
 それを実現するためには、世代や階層ごとのニーズを的確につかまなくてはならない。いま「健康」が重要なキーワードとなっているが、その内容は世代や性別などで違うからだ。
 いま日本の人口の約30%3480万人は50〜60歳代が占めている。この人たちは、アクティブシニアともよばれ、いま注目されている巨大なマーケットだ。この世代は、高度成長やバブルをくぐり抜けてきた“仕事人間”で、リタイアした後の人生をどう生きがいをもって過ごしていくかを模索している世代だといえるが、「いつまでも健康に過ごしたい」という思いも強い。しかし、仕事人間として過ごしてきたためにほとんどの人は生活習慣を見直さなければならないともいえる。
 健康志向の強い人には、健康になりたいという一心から「おいしさを楽しむ」ことを犠牲にしていることが多い。しかし、「おいしさを犠牲にしていたのでは、セカンドステージの人生を楽しむことはできない」とキユーピーは考える。そこで「ヒアルロン酸」や「植物性ステロール」を配合し、そのことで味を損なわず、おいしさが確保された食品を食事のなかに取り入れることで、過度に健康を意識せず、楽しく、気軽に毎日食べ続ける健康法「カジュアルヘルスケア」を提案している。具体的には、今年2月に販売開始されたヒアルロン酸配合のジャムやドレッシング、植物性ステロール配合のドレッシングやパスタソースなどの「キラキラ元気&」シリーズだ。

◆脇役だったサラダをメインディッシュに

 キユーピーが行った単身者(16〜64歳の男女)の調査によると、単身者の食生活意識のキーワードは、健康・簡便・価格だという。そして単身女性は料理は好きだが「時間をかけない料理」「後片付けの簡単な」料理をすることが多い。外食では「野菜を意識してとるようにしている」人が男女とも多いという結果もでている。
 そうしたニーズに応えて関連会社の(株)サラダクラブ(三菱商事との共同会社)がカット野菜を製造・販売しているが、昨年10月から「スープで食べるサラダ」を2品(キムチ風味、ゆずこしょう風味)発売した。これはカット野菜にお湯を加えてスープにして食べるもので、野菜のシャキシャキ感を楽しめるという。
 そしてこの3月20日からは北海道・九州を除く全国で、20〜30歳代の働く女性をターゲットに、野菜たっぷりなサラダにミートソースなどのソース加えボリューム感を出した「Good for Lunch」シリーズを発売した。これだけでランチになる。いままで脇役だったサラダをメインディッシュにという発想だ。この商品を開発したのは、ターゲットと同じ世代の女性開発チームだという。

◆業務用から家庭用に広がるコブサラダ

 それをさらに進めたのが「コブサラダ」だ。ハリウッドのレストランのオーナーがまかない食としてつくったのが始まりで、そのオーナーの名前からこの名称が生まれた。いまや西海岸から全米に広がりアメリカの定番サラダとなっている。レタス・アボカド・トマト・ブルーチーズ・ベーコン・ゆで卵・チキン、豆類やエビが入ることもあるという。まさに野菜たっぷりなメインディッシュといえる。いまや「サラダにタブーはない」といえる。
 キユーピーでは、このコブサラダにあうドレッシングを開発し、まず業務用として販売すると300社近くで採用され、その3割程度の企業でメニューに「コブサラダ」の名前がつけられている。さらに家庭用も発売するとともに、サラダクラブから、コブサラダが手軽に食べられるカット野菜のコブサラダ「3種のお豆のコブサラダ」「スパイシーチキンのコブサラダ」を発売している。
 こうしたサラダなどに使われる野菜などの食材は、産地で収穫後すぐに冷却されその後の輸送・製造・陳列まですべて冷蔵で管理するコールドチェーンが確立されている。さらにカット野菜のパッケージには、適度な酸素透過性をもつ素材が使われており、つねに新鮮でおいしい野菜を提供している。

◆提案型で食卓に欠かせない存在に

 カジュアルヘルスケアでは、50〜60歳代のアクティブシニアに向けたライフスタイルを提案。コブサラダなどではサラダの主菜化による内(家庭)・中・外食に向けた新たな食シーンの提案を行うことで、新たな市場をつくり出し、日本の食卓、日本人の食事にキユーピーの製品は欠かせない存在となっている。
 取材の最後に「日本の生産者や産地への要望はありませんか」というと、堀池課長は「私たちは、そういうことをいう立場にはありません」と答えを辞退された。だが、調味料・加工食品を中心にしたこのレポートを読んでもらえれば、キユーピーが展開している事業そのものが産地や生産者へのメッセージだといえるのではないだろうか。

(2007.3.26)


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