農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ 韓国の米問題(4)

農協と米の需給・流通問題

北出俊昭 前明治大学教授


◆米需給における農協の役割

 韓国では76年に糧穀管理法が改正され、政府に代わって農協が米の買入れおよび販売が行えるようになった。その後、農協は米の需給安定と流通上で重要な役割を果たしてきたが、表―4はその推移を示したものである。この表の農協差額買入量とは、政府が決定した買入量のうちの一定量を、政府が決定した価格で農協が買入れて販売する米の量である。この制度では、買入価格に保管経費などの諸費用を加えたコスト価格より販売価格が低くなるため、その差額を政府が負担することになる。つまり、財政負担を軽減しながらも政府による米価維持の継続を目指したもので、91年に導入された。
 ここで、95年からの農協差額買入量の推移をみると、02年までは政府買入量の50%前後を占めていた。それが04年には33%に低下し、05年には制度変更もあり20%となっている。したがって、最近この差額買入制による農協の米買入量は減少傾向にあるが、一方では表からも明らかなように、農協独自の買入米は増加しており、両者の合計量はあまり変化しておらず、負担金額についても同様である。
 韓国でも市場メカニズムの導入が強化され、米政策においても政府介入の縮減が図られている。その結果政府買入量が減少し、農協買入量の相対的ウエイトが高まり、米需給安定上農協が果たす役割が一層重要になっているといえる。ただ、表が示しているように、現在もなお政府買入量もまだ多いので、韓国における米対策は政府米と農協の二人三脚により推進されている実態にあるといえよう。
 このため農協中央会は、米関連産地組合に対する資金援助の拡大、RPCへの資金援助を含めた経営改善対策の強化、高品質米生産強化を目指した育苗センターなど施設整備の改善など、独自の米対策を強化することにしている。と同時に、政府への協力を強めるため、05年度から新たに実施された公共備蓄制への参加はもとより、政府の糧穀放出公売、優良種子の購買・販売業務などにも参加していく方針を示している。

年度別の政府買入と農協買入の推移

◆農協と米流通

 米流通における役割の増大は、また、農協に対する生産者の期待を強めることになり、農協中央会も流通コスト低減対策を強めているが、実態はどうか。表―5は最近における米の流通経路別の農家受取率を示したものである。なお、ここでいう農家受取率および流通費用率とは、消費者価格に対する農家受取価格と流通費用の割合である。
 この表から指摘できる特徴の一つは、地域により若干の違いはあるが農家受取率は75〜80%、流通費用率20〜25%で、農家受取率がかなり高いことである。表示してはないが流通費用率を段階別にみると、平均で出荷段階11.5%、卸売段階3.8%、小売段階8.0%となっており、3地域ともほぼ同じ傾向を示している。これをわが国と比較すると、出荷段階を農協段階とすればわが国の農協手数料の3倍以上であり、逆に卸・小売段階は著しく低く、そのためトータルの流通費用率もわが国よりかなり低い。
 この表は3地域のしかもソウルへの流通費用率であり、韓国全体でみればもっと異なった結果がみられるかも知れない。しかし、事例的とはいえ生産・消費で重要な米について、韓国とわが国の流通費用率に大きな違いがあるとすれば、その要因の究明が課題となる。
 指摘したいいま一つの特徴は、流通経路間の相違についてである。表―5のA経路とB経路を比較すると、3地域とも僅かではあるがB経路の農家受取率が高くなっている。両経路では生産者→生産者団体は同じであるが、それ以降A経路は一般業者系、B経路は農協系なので(注)、表は農協系の農家受取率が高いことを示している。近年米価が下落しているが流通コストは上昇し、農家受取率が低下しているので、農協系は一般業者系よりは農家所得維持の上での貢献度は相対的に高いということもできる。
 現在韓国では、農産物流通の整備と改革が重要な課題となっている。卸売市場の改革が進められ、農協でも集中流通センターの整備による流通段階の削減、コールドチェーンシステムの整備、24時間輸送体制の確立などが強調されている。また、消費者のニーズに応え高品質農産物生産の強化や品質管理システムの整備も行われている。その一例として良才洞のハナロマートをみると、100坪の親環境農産物だけの特別コーナーを設けているが、こうした流通改革が米でも進められているのである。
 ただ、国際化の進展で韓国の農業と農政は大きな転換期にあり、農協も例外ではない。米対策をはじめ農協の事業も、一層の改革が迫られているのが実態で、今後の動向が注目されるのである。
 (注)表―5のB系列にあるハナロクラブとは消費地に展開されている農協系の流通施設の総称で、その小売店舗がハナロマートである。

流通経路別農家受取率(2005年12月)
(2007.4.20)


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