農業協同組合新聞 JACOM
   

シリーズ JA米事業改革の現場から07年度版(2)

「地域特性」に応じた米づくりと販売戦略を推進
現地レポート JAみちのく村山(山形県)


 山形県では平成16年から「JA米」に取り組み、JAみちのく村山(清藤尚一代表理事組合長)では集荷する米の95%が「JA米」の要件を満たすまでに取り組みを進めてきた。同時に「消費者重視・市場重視」を前提にした「売れる米づくり」をめざして、県基準の特別栽培米生産や雪を利用した保管施設整備などに取り組み特色ある産地づくりを図っている。これまでの成果と今後の「売れる米づくり」の課題などを現地に取材した。
JAみちのく村山本店
JAみちのく村山本店

豪雪を利用して保管、「雪室米」の品質を実需者も評価

◆「はえぬき」が主力品種

熊谷 強 米穀課長
熊谷 強 米穀課長
 JAみちのく村山は、村山市、尾花沢市、大石田町の2市1町が管内である。正組合員数1万329人、准組合員数2573人と合計1万2902人となっている(19年3月)。
 耕地面積は1万1600haでこのうち田が8750haと75%を占める水田農業地帯である。
 ただし畜産、野菜、果樹なども盛んだ。JAの販売額は約141億5800万円でこのうち米は48億円。畜産は56億円を超え野菜・果樹が36億円程度となっている(18年度)。畜産は尾花沢市を中心に黒毛和種の肥育が盛んで、果樹ではさくらんぼとりんごが中心だ。
 また、畑作振興作物として導入されたすいかが今では特産品として定着し、500人を超える生産者で部会を組織、販売額でも22億円を超え野菜・果樹類のなかの主力品目であり日本でも有
山形・地図
数の産地となっている。この地域は豪雪地帯のため、すいか栽培は降雪を迎える前にほ場に秋マルチを張って春先に地温が上がるようにして備えているという。現地を訪れた10月中旬にはすでにその準備を済ませたほ場があちこちに見られた。
 とはいえ6400戸あまりの管内農家のほとんどは米の生産をしており、JAへの出荷契約者数では3800人を超える。
 作付け面積は約5700ha(19年産)で19年産の集荷計画では32万俵、約1万9200トンを見込んでいる。18年産の実績では集荷量のうち「はえぬき」が60%で圧倒的に多く、「あきたこまち」19%、「ひとめぼれ」12%と続く。

育苗センターが機能を発揮

検査を終えた19年産米。「JA米」のシールが添付されている
検査を終えた19年産米。
「JA米」のシールが添付されている

 「JA米」への取り組みは全国的なスタートと同時に16年産から始めた。
 主食用のJA米対象品種は主力3品種に加えて、一部で生産されている「コシヒカリ」、「ササニシキ」の計5品種で2等以上としている。(酒米として美山錦・出羽燦々を併せると7品種をJA米としている)
 いわゆるJA米の3要件のうち「品種が確認された種子による栽培(種子更新100%)」について、JAでは生産者への委託・連携で苗(中苗と稚苗)を栽培してもらい10万枚程度を供給、そのほか3万枚分はJA直営の育苗供給体制をとっている。また、JAは催芽米での供給も行っている。このため生産者が作付ける苗はほぼすべて出所が確実なものを確保している。ただし、全量をこうしたJAの事業で供給するまでには至っていないため、JA以外で種子等を購入した生産者に対しては種子の証明書を提出してもらいJA米の要件確認をしているという。
 生産履歴の記帳内容の確認は、取り組み当初から6月、8月、そして収穫前の9月の計3回の点検体制を続けている。記帳を忘れたり栽培日誌の紛失なども考えられるとして、小刻みに記帳の確認とその内容点検、そして回収を行うようにしてきた。現在、栽培暦等と食い違う生産履歴内容のためにJA米の要件を満たさないという例はほとんど生じていないという。
 農産物検査は、体制も徐々に充実させ、現在は認定された農産物検査員は29名いる。来年度はさらに5名増員する予定だという。
 通常はこれら3つが「JA米」の要件だが、この取り組みがスタートして以来、各地で「売れる米づくり」に向けて独自にさまざまな要件を上乗せすることも多くなっている。
 山形県では、これら3要件に加えて「網目」基準も設け「1・85ミリ」以上としているほか、水分15%以下も要件のひとつにしている。
 そのほかJAみちのく村山ではコンタミ(異品種混入)の防止も重視。とくにもち米との混入防止を徹底させており、出荷時の農産物検査で検査員が目視によるチェックを行っている。もち米の場合は自家乾燥調製がほとんどのため、主食用品種の乾燥調製段階での混入防止を生産者に徹底するよう呼びかけているが、それだけでなく、集荷時の検査という「入口」でコンタミ防止を図っている。

JAの育苗センター 転作作物としてソバの栽培も盛んな地域(
JAの育苗センター
転作作物としてソバの栽培も盛んな地域

地域ごとにこだわりの米づくりを

雪で冷却保管している「雪室米」の倉庫
雪で冷却保管している「雪室米」の倉庫
 合併JAにとって共通の課題だと思われるのが、合併によってさまざまな地域特性を抱え込んでいることだろう。JAみちのく村山でもひとくちに管内全域を「はえぬき」の産地とくくるわけにはいかない。はえぬきは主力品種ではあるが、むしろ地域や品種の特性をいかした産地づくりに各地区で努力しているところが特徴だ。
 そのなかで村山地区で打ち出しているのが「雪室米」だ。
 同地域では、はえぬきの通常栽培が中心だが、雪を利用した冷却保管をすることで玄米表面が劣化せず、食味の安定につながっているという。
 冬の間に同施設敷地内に降り積もった雪を倉庫に搬入しておき、秋に出荷された米を5℃程度まで冷却、その後、翌年の端境期にかけてもそのまま5℃で保管する。売却が進んでスペースが空けば在庫順に冷却保存できる。安定した食味に評価が高まり量販店のほか、外食産業などにも取引先が広がっているという。
 一方、尾花沢地区では県本部との連携で複数の取引先との「全農安心システム」による生産・販売が実現している。
火力を使用しない自然に
火力を使用しない自然に
近い乾燥機を採用したCE
周知のようにこれは取引先との間で栽培方法で合意して生産する事業だが、最近では適正農業規範であるGAP、しかもヨーロッ パ基準の「ユーレップGAP」を求める販売先との間で生産者も合意、安定した取引を実現しているケースも出てきたという。
 また、大石田地区ではあきたこまちやひとめぼれの生産に力を入れている。それも町をあげて県認証を受けた特別栽培米として減農薬栽培に取り組んでいる。
 取り組みのきっかけは同地区内にカントリー・エレベーター(CE)を建設する際、消費地の実需者から「安全・安心な米づくり」の要望があったことだという。町とJAではその声に応えるために推進を図ろうと集落の農事実行組合のリーダーたちに呼びかけて、特別栽培米づくりを進めた。
 今では同地区からJAに出荷される米は品種と栽培法によって10種類以上にものぼる。それぞれ実需者との間で合意した作り方である。町名を冠した「大石田ブランド米」のほか、減農薬をうたったり、なかには「経歴明快米」などと、しっかりした生産工程管理をアピールしているものもある。

販売事業で実績上げ生産者の意識改革をすすめる

カントリー・エレベーターには色彩選別機を設置。品質向上には欠かせない設備になっている
カントリー・エレベーターには
色彩選別機を設置。
品質向上には欠かせない
設備になっている

 このほか整粒歩合80%、食味値80以上を目標にした「8・8米」にも一部の生産者が取り組み、地域の観光地、「銀山温泉」の宿泊施設などへの販売にも力を入れてきた。地元の米を観光客に味わってもらおうという取り組みで10年以上になる。
 こうしたさまざまな販売事業の展開について同JA営農経済部の熊谷強米穀課長は「生産者に、売れる米づくりを、と言ってもまずJAの事業として実現していなければならない」と話す。
 そのうえで特産のすいかの消費地キャンペーンに合わせた「雪室米」の販促活動の際などには、生産者にも米販売の店頭に立ってもらう機会もつくっているという。「販売の現場を知ってもらい、生産者と実需者の間を詰めるため」だ。こうして取り組みによって「生産者の意識も次第に変わってくる。JA米の取り組みは当然のことであり、さらに自分たちの地域特性に合わせた米づくりとは何か、を考えてもらえるようになるのではないか」と話している

◆バイオマスセンターとの連携も

 「JA米」の取り組みを進めるなかで特別栽培米に取り組む生産者も増えている。当初は100人程度だったが、現在は160人を超えた。
 特別栽培の基準も有機質肥料使用による栽培、減農薬無化学肥料栽培という従来からの取り組みに加えて、液肥栽培とサンゴ化石米も新たに加わっている。
 サンゴ化石米は、与那国島から直送されるサンゴを土壌改良剤として活用したもの。もうひとつの液肥栽培は鹿本町で動き出したバイオマスタウン構想、「環の地域づくり」の一環から取り組みが始まった米づくりである。
 環の地域づくりは、畜産の家畜ふん尿や地域内で出される生ゴミなどをバイオマスセンターに集約し、肥料や飼料などに再生、野菜や米づくりに活用する地域内循環をめざすものである。そこで、このバイオマスセンターから作られる液肥を農場に散布する米づくりも特別栽培米の基準のひとつとし、環境にできるだけ負荷をかけないかたちで安心・安全な農産物の提供をめざすことにした。
 このほか今後、大きな動きになりそうなのが、集落営農の組織化と農地・水・環境保全向上対策を活用したJA米のレベルアップである。
 集落営農の組織化は農政転換に対応した担い手づくりとしてJAグループが推進してきた課題だが、JA鹿本管内では米づくりを主体とした集落営農組織が20ほど立ち上がった。このうち鹿本町では11組織ができあがっている。
 組織のとりまとめに中心的な役割を果たしたのが特別栽培米づくりに取り組んでいる生産者たちだ。彼らがリーダーとなって面的に集積した農地利用などを進めていくが、これによって品種の統一や、JA米を基盤に上乗せ要件を加えた特別栽培米づくりが集落全員へ拡大することが期待されている。
 その弾みとしても活用しようと地域で考えられているのが、新年度から本格スタートする農地・水・環境保全向上対策である。同対策では、集落など一定のまとまりをもった地域での農業資源保全・改善への共同活動に対する支援と、環境負荷低減などの営農活動への支援がある。
 同町では町が主導して資源保全のための共同活動を行う組織化が集落を中心に進められおり、今後はこの1階部分の支援に加え、2階部分である営農基礎活動支援、さらに化学肥料や農薬の削減などの先進的営農活動に対する支援の対象にもなることを目標にしている。
 JAが進める特別栽培による売れる米づくりを集落営農組織で推進するための「仕掛け」として今回の新たな政策を活用していく考えだ。

◆基礎技術の励行も課題

 JA米やあるいはそれを基盤にしたさまざまな特別栽培米についても、生産履歴記帳とその点検が求められるが、同JAでは営農指導部門だけでなく販売部門の職員とも連携して記帳内容のチェックにあたっている。生産者には集荷前に生産履歴記録簿を提出してもらい、JAでは内容を点検後に出荷を受け付けている。
 集落営農組織にはJAからの種子の供給が行われているが、一部では自家育苗も行われているため、購買部門からの種子供給量と作付け面積などのつき合わせで栽培に使用された種子の出どころを確認している。
 また、生産者への負担を少しでも減らすためにJAでは当初からできるだけ簡潔な記録簿の様式とすることに。使用する生産資材名などは印刷し、生産者は資材使用の有無のチェック欄の記入と、使用日、使用量などを書き込むだけで済む形式を工夫してきた。
 こうした取り組みを進めることによって安全・安心で実需者、消費者から支持される米づくりをめざしている。ただし、同JA営農指導部農産課の池田末敏課長は「ここ数年は安定した生産が大きな課題になっている」と話す。
 周知のように九州地方は米の作柄が平年作を下回る年が続いている。熊本県では平成14年の103以降、平年並みの年はなく16年は77、18年は85という記録となった。
 池田課長によると「森のくまさん」を主力品種に米づくりを転換したものの、作柄は安定せず「手探り状態」での生産が続いているという。

 こうしたことから、基本技術の励行を大きな課題とし、まずは出穂後の高温障害を避けるために田植えを2週間遅らせ6月下旬とすることを呼びかけてきている。
 また、地力増進にも改めて力を入れ珪酸の補給なども促進している。さらに最近の県内の研究では、通常より深い25センチ以上耕した水田での作柄が安定していることも分かった。
 こうした事例も参考にしながら「天候に左右されない生産技術を改めて確立することが大事だと考えている」と池田課長は話す。
 また、16年から航空機による空からの画像分析で、稲の葉色からタンパク含有量をほ場ごとに見分ける技術も試験的に導入した。19年産も葉色からタンパク含有量によって区分集荷して、タンパク含有量によるニーズを探り販売先をきめ細かく分けて提案していくことも検討しているという。
 栽培技術の確立と合わせ、集荷体制、販売の工夫までの総合的な取り組みが期待されている。

(2007.11.6)



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