本シリーズは安心・安全の基本となる「JA米」が各地のJAでどのように取り組まれているのかを定期的にレポートしてきた。JA米の取り組みは19年産で4年目を迎えJA全農の今年度事業計画では「JA米の消費者向け精米や加工品販売も含めたブランド化の推進」を上げている。そこで今回は、順調に拡大している無菌包装米飯の製造・販売をしている佐藤食品工業(本社・新潟市)を訪ねた。同社では一部の商品に17年度から「JA米」マークを印刷して店頭で販売している。原材料部の加藤仁部長は「JA米マークは、全農と我々との信頼の証。安全・安心な米づくりを一層推進して欲しい」と期待を寄せている。
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無菌包装米飯の商品力は米そのもの
◆扱っているのは「お米」と「水」だけ
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代表取締役社長
佐藤 功氏
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――最初に企業理念の「日本の食文化を大切にする」についてお話いただけますか。
加藤 当社が製造・販売しているのは大きく分けて「お餅」と「ごはん」の2つであり、一言でいえば、私たちはお米を扱っている、ということです。私は原材料部の責任者ですが、原材料といっても、水とお米しかないわけですね。しかも水は当社で精製したものを使っていますから、実際に仕入れで扱っているのはお米だけ。つまり、お米に特化した会社であり「日本の食文化を大切にする」を企業理念に掲げているのは、お米は日本の食文化の主役だと考えているからです。
そのお米の扱い方ですが、私たちが大事にしているのは、餅は杵でつく、ごはんは釜で炊くという日本古来の製法。これをいかに現代に繋いでいくかを商品のコンセプトにしています。日本古来の製法で作ったごはん、餅をいかにおいしく手軽に食べていただくかというのが当社のスタンスですし、今後もそれは変わりません。
――無菌包装米飯市場の現状についてはどうご覧になっていますか。
加藤 発売から20年になりますが、一貫して右肩上がりで伸びています。数量ベースでは多い年で前年比10%以上伸びてきましたし、この分野への参入企業が増えた最近でも8、9%の伸びです。
成長した理由はやはり利便性だと思います。簡単に食べられる、それも炊いたごはんと変わらない。核家族化、個食化が進んだことに無菌包装米飯が合ったのだと思います。
当社のアイテム数は北は北海道、南は九州まで産地品種だけで20以上になります。
単一の産地品種銘柄のごはんを提供をしているのは、これだけ日本でお米が作られているなか、それぞれの味の違いが私たちの製造する商品では出せるからです。無菌包装米飯は1日に最大68万食を製造することができます。年間で1億2000万食販売していますから国民1人あたり年に1食ということですね。
ブランド力とは「産地がまとまる力」
◆産地のまとまりが信頼につながる
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同社の無菌包装米飯工場
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――商品化にあたってはどういう基準で産地銘柄を選ぶのでしょうか?
加藤 米の加工品メーカーはたくさんありますが、原材料が水とお米だけという企業は当社だけではないかと思っています。しかも商品のうち、味がついているものは1つもないんですよ。餅にしてもごはんにしても、白い餅、白いごはんだけです。
ですから、お米の味そのもの、お米の力そのものが私どもの商品力になってくるわけです。当然、いいお米を厳選するわけですが、お米自体に力がないと、餅にしてもごはんにしても、いい物ができないということになります。
――「米の力」というのは?
加藤 品質、特性、ブランド力です。ブランド力のなかには価格も入ってくると思いますが、それらを加味したなかでの米の力ということだと考えていただければと思います。
品質とはお米自体が一等米であること、さらに安全・安心な「JA米」であることなどですね。
特性とは米自体のそれぞれの特性です。餅米であれば、粘りが強いとか伸びがいい、といった特性が求められるわけですが、そういう大前提にいかに近づいているかということです。その特性を発揮するには産地の取り組みも重要だと思っています。
――「産地の取り組み」とはどういうことでしょうか。
加藤 産地の取り組みというのは、その地域の米づくりへの力の入れ方ということです。考えてみればお米は日本中どこでも作っているわけです。そのなかからどこのお米を我々が選ぶのかというとき、やはり産地側が自信を持って私たちにプッシュしてくる米にはまず目が行きます。
お米を作っている方々は皆さん自分が作っている米が一番美味しいと思っていますよね。本当に農業で生活していこうという方々は自分の米が絶対に日本でいちばんうまいと思っていらっしゃる。ですから、私はどこの産地に出かけても皆さんがつくっていらっしゃるお米を最大限生かせる商品にしていきます、というお話をさせていただきます。
一生懸命作っている方々というのは、たとえば、適期というものを逃すことは絶対にあり得ないですよね。適期を逃したら美味しい米も美味しくなくなってしまうわけですから、やはりこういう産地の取り組みが一番大事だと考えています。
◆当たり前のことを継続する
――ブランド化も多くの産地が目指していることですが、何が求められていますか。
加藤 お米のブランドといえばやはり魚沼のコシヒカリが代表ではないかと思いますが、私がすごいなと思うのは魚沼の現地に行ってみると、田んぼが非常にきれいなことです。畦に草ぼうぼうなんてことはまず見受けられません。ある意味で、見せる農業をされているという気がするんですね。この地域へ来た人たちに、ここで作った米なら美味しいだろうなと思わせているのが魚沼だと思います。これも含めてブランド力になるのではないでしょうか。
また、安定して米を供給できることも重要です。美味しい米ができる地域はたくさんありますが、数量がまとまらなければなかなかブランドとして確立できないという地域もあると思います。やはり地域の人たちが一緒になって一生懸命作っているというまとまりが安定供給にとって非常に大切だと思いますね。
それからブランド化のために特別な栽培方法で米を作るんだといっても、単にそれだけでは売れるものではないと思います。売り先と話し合いをしてきちんと結びついていなければ。
逆にいえば当たり前の米づくりを当たり前のこととしてずっと続けている、だから、信頼を得て特別な扱いになるということもあると思います。ブランド化された産地とは、当たり前のことを当たり前のこととして続けてきたから評価されているということだと思いますね。
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米の搬入と精米工程(左)、洗米(右)などの工程。1日に約1200俵の玄米を使用するという
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◆JA米はJAへの結集力の現れ
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無菌包装米飯に「JA米」マークを
パッケージにつけて販売
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――一部の商品では「JA米」のマークをつけて販売していますね。JA米の取り組みについての期待をお聞かせください。
加藤 安全・安心についていえば、産地では未だに安全・安心が取りざたされていますが、われわれメーカーにとって安全・安心は当たり前です。安全・安心ではない商品を扱っていると、メーカーは世のなかから淘汰されてしまう。
たとえば、一切れの切り餅には何粒の米を使っているか知ってますか? 約1000粒です。かりにうるち米の混入が2%あったとすると、一切れの餅に20粒ものうるち米が入っていたら硬くて食べられないですよ。メーカーの立場からすると2%程度のコンタミといってもこういう現実問題になるわけです。
このギャップをいかに埋めていくかという課題解決のひとつが「JA米」だと思います。マークをつけて販売しているのはこの取り組みをバックアップしていこうということですし、「JA米」マークはJAや全農と私たちメーカーとの信頼関係の証であり、それをしっかり確立していきたいと思います。
ただ、生産者の方々と話をすると私たちに対して誤解があるなと思うことがあります。メーカー側が米の価格を引き下げているのではないかと。しかし、メーカーにとっても米の価格が安くなることはよしとしていません。なぜかといえば、商品価格も安くなってしまい、当然、利益も薄くなってしまうからです。ですから私たちにとっても米の価格は適正価格であるべきだと考えており、メーカーとして望むのは、安定生産、安定供給、安定価格、この3つです。
そのためにも私たちが生産者の方々に何を望むかといえば、いわゆるルールを守ることが大事ではないかということです。自分だけよければ、ということでは生産者の皆さんの生活も守れないのではないかと思いますね。
農産物のブランドとは地域で作りあげるものではないですか。地域でつくり上げるにはやはりルールを守るということではないでしょうか。そのルールを守る生産者がたくさん組織されているのがJAという組織だと思っています。「JA米」とはそう意味でもルールを守る取り組みの1つでもあるのではないでしょうか。
――ありがとうございました。