農業協同組合新聞 JACOM
   

IPMを支える生物的防除体系
消費者ニーズに応える環境保全型農業
現地レポート 宮崎開催「環境保全型農業研修会」

県園芸振興協議会など3団体が主催(8月28日・宮崎市にて)
県園芸振興協議会など3団体が主催(8月28日・宮崎市にて)

ICM(総合的作物管理)へ新たなチャレンジ!

◆消費者ニーズに応える環境保全型農業

 「有機農業をはじめとする環境保全型農業の推進」は、国の農業政策の大きな柱となっている。国のいう環境保全型農業とはどういうものかといえば「農業の持つ物質循環機能を生かし、生産性との調和などに留意しつつ、土づくり等を通じて化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した持続的な農業」を進めることだ(「環境保全型農業の基本的な考え方」)。
 つまり、有機肥料の使用などによる土づくり、化成窒素の削減など化成肥料の削減、そして化学農薬を削減をする技術を組合せた栽培方法ということになる。
 こうした環境保全型農業を推進するために、昨年12月には「有機農業推進法」が施行され、「特別栽培農産物表示ガイドライン」が今年4月に改正された。また6月に開催された「第6回IPM検討会」で国は既報のように、積極的にIPMを推進していくための施策を提案しているが、そのベースにあるのは「環境負荷軽減型IPM」だ。
 こうした環境保全型農業について語られるとき、化学農薬の使用をできるだけ減らすことが大きな課題として取り上げられることが多い。なぜならば、それが消費者の「食の安全・安心」ニーズに応えることになるからだといわれている。

◆環境保全型技術のモデル実証事業を実施

 そしていま、化学農薬の使用を減らす防除技術として注目されているのが、天敵や微生物を使用した「生物的防除」だ。
 そして生物防除技術を確立してきているのが、微生物防除剤使用面積が全国一といわれる宮崎県だ。同県における具体的な取組みについてはすでに「シリーズ 微生物防除剤による総合防除体系」第1回でレポートしたが、この取組みをさらに促進するために、8月28〜29日に「環境保全型農業研修会」が宮崎市で開催され、主催者側が予定した人数を大きく上回る140名が参加した。
 宮崎県では、県、宮崎県園芸振興協議会、経済連をはじめとするJAグループなど関係機関団体が一体となって施設野菜の「あるべき農業生産体系モデル実証事業2003〜5」を実施。その結果を踏まえて平成18年度から県内各産地で環境に優しい農業の普及推進をはかってきている。この実証事業では「国内にある全ての環境保全型技術を検討し、産地に普及できる技術に組立ててきた」とJA宮崎経済連園芸農産課の原口春盛技術主管は語る。そうしたなかから、微生物防除剤と天敵を組合わせた「宮崎方式」といわれる技術が確立されてきた。県農政水産部営農支援課広域指導担当の黒木修一主査は、研修会で次のように説明した。

◆「宮崎方式」技術の手ごたえ

 病害虫というと化学農薬の使い方ばかりと考えがちだが、化学農薬に対する抵抗性が問題となってきて、宮崎県では化学農薬だけでは病害虫を防除できなくなってきた。「微生物防除剤や天敵も一つひとつの力は、強力な病害虫に対して弱っちい。しかし、生物的防除をベースにさまざまな技術を組合せていけば、化学農薬の散布を減らしても十分に対抗できる」と。
 一般的に生物防除を取り入れる利用としては、有機栽培や減農薬栽培による有利販売とか、水源保全や作業者の保護など環境・健康保全、あるいは農薬の飛散防止といったポジティブリスト対策があげられるが、宮崎ではこちらの目的は、いまでは「副目標になってしまった」と黒木さん。

◆産地全体での取組みが始まった微生物防除剤

 宮崎は全国一のピーマン産地だが、その中でも中心的産地である西都市の微生物防除剤の取組みについて事例紹介があった。これまでの化学農薬中心の防除では、施設栽培のピーマンやキュウリの品質低下・収量減少の大きな要因となっているミナミキイロアザミウマやタバココナジラミなどの害虫類の化学農薬に対する感受性が低下。防除が困難となり、化学農薬の使用回数を増加させる原因となっていると。
 この問題に対応するために、JA西都管内ではいち早く害虫を防除する天敵を導入検討したが、なかなかうまくいかなかった。しかし、児湯農業改良センターの野菜担当である久綱康代さんは研修会の事例報告で、「以前は、生物防除技術に対する特性や使用方法、ポイントなどが使用者に十分理解されていなかった」からと、分析する。
 このため西都では「天敵昆虫と比較して、現場に導入しやすい微生物防除剤の使用」を提案し、18年度からピーマン生産者の小グループを対象に、JA西都も協力して県単事業(微生物農薬購入費の補助)を活用して実証ほ場を設置し、成果をあげてきている。
 JA西都営農指導課の日高安洋課長補佐は「微生物防除剤の中では、ボトキラーが広く使われるようになってきた。病気が少なくなり、特に問題となっていたピーマン腐敗果の発生も減っていると思う。出荷後に発生する腐敗果はやっかいで、撲滅に向けて取組んでいる」と。
 品質面でも微生物防除の効果が出ているので、さらに取組む生産者を拡大していくために管内16会場で説明会を開いたり、微生物防除剤であるボトキラーと化学農薬を併用した防除暦を策定した。栽培履歴記帳でも、農薬使用回数にはカウントされないが微生物防除剤を記帳できるようにし、意識づけをする取組みも行っている。

◆ますます広がる「食」と「農」の信頼づくり

 宮崎県で使われている微生物防除剤は、灰色かび病やうどんこ病に効果がある納豆菌の一種であるバチルス菌(バチルス・ズブチリス)を有効成分にしたボトキラーだが、「微生物防除剤は“いきもの”だから、従来の化学農薬とはまったく違う考え方で使わなければならない」(田口義広 出光興産アグリバイオ事業部)。実証ほ場などで得られたデータをもとに勉強会や情報交換会を通じて理解を深めていくことが必要で、JA西都でもそうした中で取組みがしだいに広がっているという。
 ボトキラーや昆虫寄生菌を使った微生物防除面積は、宮崎県によると約300haと全国一だったが、今後も広がっていく見通しだという。黒木さんは微生物防除・昆虫寄生菌・天敵というピラミッドが生物防除の基本だが、さらに「土づくりと適正な施肥が、病害虫防除の土台となる」とのこと。宮崎型かん水施肥栽培についても、現地事例とともに紹介された。生物防除中心のIPM(総合的病害虫・雑草管理)に、肥培管理という土台を加えることで、ICM(総合的作物管理)となる。宮崎県は「ここまでいこう。そうでないと生き残れない」と黒木さんはいう。
 県・普及センター・JA・生産者が力をあわせて取組んできた「安全・安心な農産物づくり」は、産地全体を元気にしながら、消費者ニーズにますます応えていこうとしている。「食」と「農」を結ぶかけがえのない信頼づくりへの取組みは、全国の産地にいっそう広がりを見せていくことが期待できる。

(2007.9.18)


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