昨年の第24回JA全国大会は、地域水田農業ビジョンの実現を期すことを決議した。その進展状況と今後の課題を探るシリーズの第2弾は山形県のJA鶴岡にスポットを当てた。JA鶴岡はビジョンを力強く前進させ、米依存からの脱却を目指して園芸産地の形成や担い手づくりなどで数多くの実績を挙げている。しかし、やはり米については「売れる米づくり」などの重い課題を抱えており、また園芸品目のさらなる多様化などの新たな課題が浮上していた。 |
◆地域で認められる担い手づくりが前進ダダチャ豆が目玉
「ダダチャ豆」は鶴岡特産のエダマメだ。江戸時代から改良が重ねられてきた。独特の歯ごたえと甘みがある。今年の販売高はJA鶴岡の取扱分だけで約10億円。ここ3年で3億円伸びた。米の販売高52億円余に次ぐ品目となっている。
鶴岡市とJA鶴岡は「水田農業ビジョン」の実現を目指し、米に代わる収益性の高い園芸品目の産地形成を進めた。その実績を物語る代表格がダダチャ豆だ。
庄内平野は米どころ。だが生産調整は拡大の一途。転作しようにも環境条件が大豆や麦には不向きだ。そこでビジョンでは、条件に適応した重点推進品目としてダダチャ豆を含むエダマメ、長ネギ、オウトウ、ナシ、花の5つを決めた。
現在、それぞれに生産が増えて複合経営化が進んでいる。特にダダチャ豆は1キロ1000円前後という単価が有利だ。エダマメとしての市場評価は全国一である。
エダマメの作付面積は、全国でビジョンづくりが始まった平成16年が440ha、それが今年は643haに増えた。生産者のうちJAの専門部に入っている約300戸の平均は約1ha。複合経営のなかエダマメだけで1haという経営規模は大きい。
しかし「自家の労働力を超えた作付拡大は禁物」とJA鶴岡営農部の田沢繁部長は釘をさす。ダダチャ豆の収穫適期は2、3日だ。遅れると味が落ちる。17年は豊作で収量が2割増え、収穫遅れが出た上に、出荷量が増大。価格はキロ600円ほどに暴落した。これを教訓として翌年からは適期に集中して収穫できる面積に絞る方針を打ち出して価格が回復した。
◆全集落がビジョンを策定
特筆すべきは鶴岡の場合、全国的にビジョン策定が始まる前の15年度末にはすでに「地域営農改善計画」という名の独自ビジョンができていたことだ。これをベースに地域水田農業ビジョンをつくり、16年度からすぐ行動に移った。
ビジョンの前身の営農改善計画づくりは市の単独事業でJAや農業委員会などと連携し、運動として進めた。計画は約130の全集落が策定した。
改善計画づくりは12年度から始動。まず全農家のアンケート調査と、その結果の分析をした。14年度から集落の話し合いに入り、4年がかりの運動で16年3月までに全集落で計画を策定した。
その中で5年後の担い手の名が挙げられた。面積要件も年齢制限もなく、例えば「おれはあと10年くらいはがんばるよ」といった高齢者なども担い手に選ばれ、合計約1200人に達した(JAの正組合員数は約5800人)。この担い手名簿はそのままビジョンに引き継がれたのである。
◆認定農業者をどんと増やす
JAと農業委員会は名簿の中から、経営面積が4ha以上ありながら認定を受けていない人や、あと少しで4haを超えそうな人などに声をかけて認定農業者を約100人増やし、現在764人となっている。これはビジョンに掲げた目標を超える数字だった。
4ha以上なら「品目横断的経営安定対策」の対象になるという説明が動機付けとなり「じゃあ認定になっておくか」というケースが目立った。認定農業者の平均経営面積は6ha弱と大規模だ。
さらに認定農業者の中で品目横断的対策の対象となる申請をしたのは546人となった。加えて7つの集落営農組織が申請した。中でも「大泉」という集落営農は複数の集落が結集した組織で規模313haという大経営体である。
こうした大規模な集落営農組織が立ち上がったため、品目横断対策に加入申請した面積の合計は、管内約6000haに及ぶ水田の7割をカバーすることになった。全国的には1割未満のところもあるなかで、これは大変な高率だ。
しかし、認定農業者であっても約150人は品目横断的対策の対象から外れた。メロン、キノコ、花などの生産者や畜産農家だ。この制度特有の厳しい条件が、園芸産地づくりの担い手たちをシャットアウトした。
このため「認定農業者を法的に位置づけておきながら、一方、別の制度では認定農業者を担い手と認めないなんて全く矛盾している」とか「認定農業者なら自動的に品目横断的対策の対象にしてもいいのではないか」といった選別に対する批判の声も厳しいのが実態だ。
◆「個別」と「集落」の両面作戦
担い手への農地利用集積はJAが農地保有合理化法人として利用調整を進めてきた。利用権設定面積は年々増えて現在832ha。また農業委員会のあっせんによる設定が510haと合わせて1342haに及ぶ。これは全耕地面積約6400haの2割を超える。
もともとこの地域の農家1戸当たりの平均耕作面積は2.8haとなっている。経営形態は家族労働力を主とした個別完結型が大多数だ。また4ha以上の農家でも水稲専業が比較的少なく、メロン、エダマメ、花などの複合的経営が目立つ。
こうした条件から、JAと市は複合経営による個別経営体育成と集落営農組織づくりの両面作戦をとってきた。どちらを選ぶかは、あくまで地域の話し合いで自主的に決めることを基本とし、前述したように7つの集落営農組織ができた。
また、気の合った仲間同士で一致できるような条件があれば、すぐに組織化するといった考え方で4つの法人もできた。すべて有限会社である。
総括的にいえば、こうした担い手の経営の現状は米の収入減を何とか畑作でカバーしている形である。例えばメロンの価格はこの2年ほど安定し、メロンの後作のミニトマトも好調だ。そして転作のダダチャ豆を柱に園芸品目の拡大でがんばっている状況にある。
今後の課題は何といっても「売れる米づくり」だ(田沢部長)。鶴岡の農業はやはり米がベースだから、さらに値下がりすれば非常に苦しくなる。販売先からの産地指定が85%を占めるが、これを100%にしたいという。現在は系統販売が中心だが、JA自身の販売力強化に今、取り組んでいる。品種は「はえぬき」が主体だ。
またビジョンで打ち出した複合産地づくりについては重点推進の5品目に加えて、さらに多様化していく課題がある。最近、有力なものとしてはミニトマトや軟白ネギ、露地小菊などが浮上してきている。複合産地として生き残って行くためには園芸分野でもJAの販売力強化が求められる。
担い手の支援では画一的な規模拡大よりも個性や地域特性を生かした経営体をつくっていく考えだ。担い手にはいろんなパターンがあるが、いずれにしても地域で認められる経営体を大事にしていきたいという。
法人の個性を発揮
画一的な規模拡大より個性や地域特性生かして
有限会社「馬町さくらファーム」
◆農業を楽しむスタイルで
「地域から認知される担い手としてやっていく。(農地の出し手の)信頼を得て、もっと大きな会社を目指したい」と意欲を語る太田裕徳さんは鶴岡市の有限会社「馬町さくらファーム」の代表取締役社長だ。同社は16年2月に4戸9人が自分たちの水田を集積して設立した28haの大規模複合経営を展開している。
その規模は同市馬町上集落の水田の3分の1にあたる。うち14haで直播栽培をしている。直播で浮いた労力はダダチャ豆生産に振り向けた。作付面積は5haに及ぶ。
冬はハウスを活用した軟白ネギと青コゴミを作って労力の周年化と冬期の所得を確保。ほかに大豆、メロンなども作っている。
昨年は社員の息子で25歳になる青年が勤めていた会社をやめて、さくらファームに転職してきた。さらに別の社員の息子も新卒で就職。これでメンバーは20代から50代までの11人となって、後継者難の心配は解消した感じだ。
会社運営については主なメンバーが週1回、定例会で話し合うが、農業を楽しもうという仲間同士の合意があって一杯やりながらの進行だという。厳しい環境を明るく元気に乗り切っていこうという同社のスタイルは非常に個性的だ。
直播は専用播種機を導入し、条播を行っている。この技術力が同社の経営の柱となった。また移植栽培が高温登熟による品質低下に見舞われても、直播栽培は登熟期が1週間ほど遅れるため、それを回避できる利点も生かした。
米の販売は売上額の6割を直接販売が占めている。地元の個人客がメインだ。直播栽培の米はじっくりと熟すため品質が高いということをセールスポイントに売り込み、確かにおいしいという評価を得ながら口コミで拡大してきた。地元の飲食店や関東のスーパーなどへも出回っている。
米を配達する時に旬の野菜を添えたり、園芸品目のチラシやアンケートを入れている。「飽きさせない」「ファームの活動を知ってもらう」という販売戦略だ。
アンケートの回答には抽選で米や野菜をプレゼントしている。回答は顧客ニーズの把握、作付計画や販売戦略に活かしている。
全国向け販売では17年から米とエダマメを「全国名産品タウンページ」(NTT東日本)に掲載し、関東の企業からお中元用にエダマメの注文があり、伸びている。
太田社長はJAに対して「マーケティングをもっと強化し、また販売先情報の提供を増やしてほしい。さらに需要予測に基づいた提案も必要だ。例えば業務用の米では中食用に向く米を作ったらどうかなどといった提案ができないものか考えてほしい」と要望している。 |