《書評》JA全中
農政部 部長 小橋暢之 『EUの農協』 21世紀の展望 オンノフランク・ファン・ベックム 他著 小楠湊 監訳 農林中金総合研究所海外農協研究会 訳 家の光協会 刊 A5判 286頁 2300円(税別) |
1998年末、欧州最大といわれたドイツのドルトムント生協が解散した。市場での競争に敗北した結果である。
我々JAグループもこの10月には第22回全国JA大会を開催し、JAグループの21世紀戦略を決議する予定だ。
農林中金総合研究所の研究チームにより訳出された本書『EUの農協』は、我々JAグループの在り方を考えるうえにも貴重な文献のひとつである。 本書の構成は、第1部「概要・岐路に立つ農業協同組合」、第2部「EU15ヶ国における農業協同組合」、第3部「総括および提言ーEUにおける農業協同組合の未来」から成っている。 第2部は、各国の農協について概要、シェアなどのデータをコンパクトにまとめたもので、本書の大部分をさいている。ここでは、ひと口に欧州の農協といっても非常に多様性があることがよく理解できる。極めて強い統制力で圧倒的な農産物販売のシェアを存するデンマークの農協、生産の40%を輸出に振り向けるオランダの農協、国境を越えて外国の農協等と事業の提携を進めるスウェーデンの農協等、また、ドイツにおける有機農産物専門の販売農協の成立など興味深い。 第3部が、本書の核心を成すが、ここではEU各国の農協が直面している共通の課題や傾向がまとめられている。たとえば、農協組織については次のような分析が示されている。 @ 連合組織は基盤を失いつつ衰退している。 EU域内は完全に自由化されており、更にガット農業合意の実施で市場の自由化が一層進展しているわけだが、こうした事態のもとで連合組織は単位農協より競争力が乏しくなっているという。 A 合併、合併また合併 市場競争力、資金調達力をつけるため、単位農協の大規模合併が継続的に進行している。 B 他企業の買収にも進出 スウェーデンの農協のように、競争力強化のために積極的に他企業を買収し、市場に進出する農協もあらわれている。また、外国の農協、企業と事業提携も活発化している。総じて言えば、EUでは農協が企業の壁、国境の壁を越えようとしている傾向がある。 C フードチェーンでの垂直統合の進展 EU全ての国で、原料農産物の生産から1次加工、最終製品化とそのマーケティングまでの垂直統合が進みつつある。この動きを加速させているのは増大する小売チェーンの市場支配力で、農協は製品のブランド化を進めつつ、これに対抗するか、小売りチェーンとの提携を選択している。 D 株式会社化する農協 農業者の他に、個人や機関投資家等外部からの譲渡可能出資を受け入れる「公開株式会社」へ農協の転換が進みつつある。とりわけ、高付加価値生産のために、資金調達力の増強が必要となっており、このため譲渡可能出資方式、優先出資方式により非農業者をも組合員として受け入れる方向が採用されつつある。 このような分析をふまえ、本書の「提言」では、各国の農協の競争条件を均一化するため「ヨーロッパ農業協同組合法」の必要性が説かれている。 以上、簡単に見てきたように、本書の分析と提言は、かなり企業サイドに立った見方が強調されている。EUにおいて、WTO農業合意等により、農業に対する国家の支援策は少なくなる一方、自由化と市場競争力が加速的に激化する中では、企業的経営への再編はある意味では必然的なものだろう。ただ、「協同組合の魂」まで失われていいか、となれば、これは問題だ。我々、JAグループにとっては如何に「協同組合魂」のある「協同企業」を創造していくかが21世紀の課題なのではあるまいか。 |