トップページにもどる 農業協同組合新聞 社団法人農協協会 農協・関連企業名鑑
《書評》JA全中 農政部 部長 小橋暢之

 
『EUの農協』 21世紀の展望

     オンノフランク・ファン・ベックム 他著
     小楠湊 監訳
     農林中金総合研究所海外農協研究会 訳
     家の光協会 刊
     A5判 286頁 2300円(税別)

 1998年末、欧州最大といわれたドイツのドルトムント生協が解散した。市場での競争に敗北した結果である。
 20世紀における資本主義社会の生成と発展のもとで協同組合運動は資本主義へのカウンターパワーとして組織と事業の発展を実現してきたけれど、今21世紀を直前に控えて、大きな転換期を迎えている。組織と事業の改革に失敗すればドルトムント生協の運命は、どの協同組合にとっても”明日は我が身”だと思わねばならない。今日、世界の協同組合に転換を促がす力は、経済のグローバリゼーションであり、地球規模での市場競争の激化だと言えよう。金融や物流の市場メカニズム自体も劇的に進化するIT技術により変容しつつある。こうした経済社会の変化に協同組合がどう対応してゆくかが問われている。

 我々JAグループもこの10月には第22回全国JA大会を開催し、JAグループの21世紀戦略を決議する予定だ。
 このため、6月より大会議案の組織協議が開始される。JAグループの組織と事業をどう改革してゆくか、熱気ある討議が期待されるところである。
 こうした時期にあって、農協運動の先達である欧州の農協は今、どのような道を歩もうとしているのかを見ることは大変興味深く、また意義あるものだと言えよう。

 農林中金総合研究所の研究チームにより訳出された本書『EUの農協』は、我々JAグループの在り方を考えるうえにも貴重な文献のひとつである。
 本書は、もともと、今後のEU委員会第23総局(協同組合等を担当)の要請と研究費の提供により、COGECAがオランダ大学等に委託した研究報告書である。COGECAは、EU加盟15ヶ国の農協組織で構成する農協連合会である。

 本書の構成は、第1部「概要・岐路に立つ農業協同組合」、第2部「EU15ヶ国における農業協同組合」、第3部「総括および提言ーEUにおける農業協同組合の未来」から成っている。
 第1部では、この研究にあたっての仮設モデルが示されている。ここで示される農業協同組合モデルは、第1が「対抗力協同組合モデル」とよばれるもので、いわば伝統的な協同組合像を示している。然しながらこの報告書では、こうした「対抗力協同組合モデル」の存在理由、必要性を認めつつも積極的な支持を与えていない。特に、市場シェアを占有するように成長した、「対抗力協同組合モデル」の協同組合組織が、独占禁止法の適用をまぬがれ、結果として組合員に高価格を負担させるようになる傾向について批判的であり、「原価主義」の必要性を強く指摘している。
 第2のモデルとして提示されているのが「企業家協同組合モデル」であり、市場における競争力と付加価値生産性の高い協同組合モデルを提示している。

 第2部は、各国の農協について概要、シェアなどのデータをコンパクトにまとめたもので、本書の大部分をさいている。ここでは、ひと口に欧州の農協といっても非常に多様性があることがよく理解できる。極めて強い統制力で圧倒的な農産物販売のシェアを存するデンマークの農協、生産の40%を輸出に振り向けるオランダの農協、国境を越えて外国の農協等と事業の提携を進めるスウェーデンの農協等、また、ドイツにおける有機農産物専門の販売農協の成立など興味深い。

 第3部が、本書の核心を成すが、ここではEU各国の農協が直面している共通の課題や傾向がまとめられている。たとえば、農協組織については次のような分析が示されている。

 @ 連合組織は基盤を失いつつ衰退している。

 EU域内は完全に自由化されており、更にガット農業合意の実施で市場の自由化が一層進展しているわけだが、こうした事態のもとで連合組織は単位農協より競争力が乏しくなっているという。
 特に、連合会が提供する生産物が「正しい価値を反映していない」ことからこれか生じていると指摘している。

 A 合併、合併また合併

 市場競争力、資金調達力をつけるため、単位農協の大規模合併が継続的に進行している。
 ある国における超大規模農協の出現は、隣国の農協に対する競争圧力となり、それらの国の大規模合併を促すというように、市場競争は「終わりなき合併」を強いているようだ。また、他国の農業を国境を越えて組合員として受け入れる農協も出ている。

 B 他企業の買収にも進出

 スウェーデンの農協のように、競争力強化のために積極的に他企業を買収し、市場に進出する農協もあらわれている。また、外国の農協、企業と事業提携も活発化している。総じて言えば、EUでは農協が企業の壁、国境の壁を越えようとしている傾向がある。

 C フードチェーンでの垂直統合の進展

 EU全ての国で、原料農産物の生産から1次加工、最終製品化とそのマーケティングまでの垂直統合が進みつつある。この動きを加速させているのは増大する小売チェーンの市場支配力で、農協は製品のブランド化を進めつつ、これに対抗するか、小売りチェーンとの提携を選択している。
 この垂直統合においては、生産者は農協に安定的に農産物を供給することが重要だが、多くの国において農協法や農協の定款により生産者は組合で「出荷義務」を負わしている。

 D 株式会社化する農協

 農業者の他に、個人や機関投資家等外部からの譲渡可能出資を受け入れる「公開株式会社」へ農協の転換が進みつつある。とりわけ、高付加価値生産のために、資金調達力の増強が必要となっており、このため譲渡可能出資方式、優先出資方式により非農業者をも組合員として受け入れる方向が採用されつつある。
 また、こうした大規模組合における組合と組合員の関係はよりビジネスライクになっていく傾向があることを本書は好意的に指摘している。逆に、非営利的な発現には批判的だ。

 このような分析をふまえ、本書の「提言」では、各国の農協の競争条件を均一化するため「ヨーロッパ農業協同組合法」の必要性が説かれている。
 現状では各国の税制がその他の協同組合制度に大きな相違があり、これを単一の制度下において域内農協の競争を促進しようというのである。

 以上、簡単に見てきたように、本書の分析と提言は、かなり企業サイドに立った見方が強調されている。EUにおいて、WTO農業合意等により、農業に対する国家の支援策は少なくなる一方、自由化と市場競争力が加速的に激化する中では、企業的経営への再編はある意味では必然的なものだろう。ただ、「協同組合の魂」まで失われていいか、となれば、これは問題だ。我々、JAグループにとっては如何に「協同組合魂」のある「協同企業」を創造していくかが21世紀の課題なのではあるまいか。


農協・関連企業名鑑 社団法人農協協会 農業協同組合新聞 トップページにもどる

農業協同組合新聞(社団法人農協協会)
webmaster@jacom.or.jp