本書の舞台は神奈川県城山町。県北に位置して、相模原市、津久井町と接し、東京都町田市、八王子市とも区切る。なんとも不思議な地形のところである。いわば神奈川県の最奧地。この町の豊かな自然を、副題「24個の観察眼による自然100景」として発刊された。加藤氏の巻末「跋」によれば、1979(昭和54)年発足以来、自由なサークルとして、毎月1回自然観察ハイキングを持続して今日に至っている。この間、1990(平成
2)年5月から98(平成10)年まで、町広報誌コラム欄に合計100回連載登場。12名のリレー執筆も好評で、今回の単行本になった。
さて本書の構成は、「1.愛くるしい小鳥や動物たち」、「2.自然環境を映し出す昆虫たち」、「3.いとしい花のとりどり」、「4.野に生きる草や実と、キノコ」、「5.しなやかな木とたくましい樹木」、「6.天地のめぐみ、自然の営み」。これをさきほどの「跋」の分類に従うと、テーマは樹木16、野草13、草木の花20、草木の実5、野鳥18、昆虫14、淡水魚3、野生動物4、気象や地質現象7、きのこ類1。かくまで城山は四季折々、変化に富んでいることか。同時に12人の観察眼の確かさ、自然に対する敬虔な姿勢に裏打ちされてのことだ。しかも津久井郡の奥深さ、相模川上流が形成した地形と関係がありそうだ。
例えば、印象的1編、冒頭の作品「アオバズク」(加藤氏の文章、平成2年5月)。副題「闇の中からホッホッ」。写真がある。ああ、あれか。
「4月の末から5月初めにかけて、アオバズクは越冬地のフィリピンの方から営巣と子育てのために日本へ、そして城山町へも渡ってくる」
「我が家では8年ほど前に木から落ちた雛を育てたことがあるが、たいへん大食で体の四分の一ほどもある肉片をペロリと飲み込んだ」
「城山町も開発が進行して、にぎやかになっていくけれど、『昔はアオバズクという鳥が、この辺にもいたんだよ』と過去形で語るようにならないことを願っている」
しかも「平成7年頃から途絶えた」と今回出版に当たって、注書きする。この間の急変がありありだ。
編者・加藤正彦氏は現職の城山町長である。知る人ぞ知る、1972年6月に発売された「農協牛乳」の開発メンバーの一人。牛乳の出所が、津久井郡農協であった。大方の乳牛業界の圧力をはねのけ、発売に協力した。その時のキャッチコピーは「自然はおいしい」で、赤パック牛乳と共に、現在でも大消費地中心に農協直販事業のシンボルといって良い。今回の市乳部門大合併で、この商品がどうなるか。加藤氏共々注目したい。