なんといっても表題が良い。取って読んでみたいと思う。それだけではない。農協(JA)の運動・事業の多様性は並みのものではないと予測させるからである。事実本文の構成が、第1部「地域農業興しと担い手育成」(北海道から鹿児島県まで9JA)、第2部「地産地消と消費者への接近」(山形県から和歌山県まで6JA)、第3部「地域振興の試みと成果」(岩手県から宮崎県まで8JA)、第四部「女性部を核とする生活文化活動」(秋田県から熊本県まで13JA)、第五部「山陽路に見る協同の歩み」(岡山県・山口県の2JAと1事例)まで38JAが登場。40年近く農協で働き、全国の多くの農協を訪ねたと思っていた私自身の認識を砕くのに充分だ。実に万華鏡の如し。家の光OBだからこそ一人取材が出来たか。
そして第6部「JA運動の現状と課題」をまとめた。だがここでは「難局」とか「戦略」、「対応」とか、まとめが平板に過ぎる。この本が皮肉にも提起した問題の本質がここにある。つまり現在、地域大型合併で1040程に減ったというJA。これを「農協問題」と一括すれば平板に扱えるが、著者の言う「マクロの眼(鳥の眼)で見ると危機的様相の色濃い日本農業」一色になり、一般的危機提起以上にならない。そこには「ミクロの眼(虫の眼)で見るとキラリと光る経営が少なくない」事実をカットしてしまう。結果は不毛な政策論争に落ち込むだけである。
そこで2例に限って引く。冒頭ルポ。根釧平野に位置する、北海道JA浜中町の「研修牧場」。組合員数255、酪農家213 戸。ここで人材育成のため、農協が3年間に1人卒業のペースで「学び舎」を運営する。年間300万円の研修手当と住宅設備。更に就農者は農場リース制度の適用も。新規就農16名の内、8名は牧場卒業生だという。農協は研修牧場の赤字を先行投資だとする。高橋勇・JA営農課長の発言「とくに酪農地帯の場合、JAの事業と農家の経営は一体です」。こうした真摯な取り組みを読むと、来年一月発足予定の「日本ミルクコミュニケーション(株)」が一体どうなるかが心配になる。
もう1つ。第4部にある熊本県JA鹿本の生活指導活動。1市5町で組合員1万3035人。女性部員3860人。活動は、「巡回ドックによる日帰り検診」、「直売所・ふれあい市」、「年四回の共同購入」、「ふれあい食材」、「大型洗濯機の共同利用」、「手づくり味噌づくり」、「若いお母さんのワープロ・パソコン学習」、「助け合い組織・ひまわり会」などなど多彩だ。前川幸恵・副審査役の言葉が凄い。「楽しむときは世代別に楽しみ、学習するときは合同で世代の垣根を越える」。決してスイカとメロンで全国有数だけではない。かくて、著者は強烈に「拓く」という。全国個々の「拓く」実践を丹念に普遍化して全国方針にする努力こそ、著者の1番言いたいことであろう。