11名の執筆者(半数は女性)で3部13章。それに序と補論が加わる。この構成をざっと見るといかにも論文のかき集めという印象になる。それに全文で291頁が横書きである。巻末索引もあるが、本文中、横文字参考文献も多い。これで「実践理論」かと言いたくなるがさにあらず。読むほどに味が出る。そう思って我慢するほかない。
それほどここ数年、食品の安全性は問題になった。BSE然り、鳥インフルエンザ然り、その原因究明が進行中のままなのだ。しかもアメリカ産牛肉の輸入禁止解除かどうかが、焦眉の課題になっている現在だ。ここには牛全頭検査システムを非科学的とする考えがあって複雑、容易なことではない。まして風評被害は後を絶たない。それなら基礎的実践理論に戻るしかないではないかとなる。実務担当者泣かせにはなるが、この本は十分テキストたり得る。新山陽子京大大学院教授・編者の腕力と懐の深さ故であろう。
構成を紹介する。第1部「食品安全性とリスクアナリシス」、第2部「食品安全性確保の要件」、第3部「食品安全行政および教育」。
本書の第一の特徴は、日常語に近くなった「トレーサビリティ」を敢えて第2部冒頭において、むしろ「リスクアナリシス」を第1部として、全面化したことだろう。ここで訳語を「アナリシス=分析」では不十分だという。ではどんな内容か。ここが重要なので本文を引用する。
「一般的に将来の損失や悪影響の可能性や程度を推定し、それを防いだり低減したりするようにする措置のことをいう」(山田友紀子、26p)
これは序で言う「危害を完全に排除できない」(新山、4p)という基本的考えから当然のごとく導き出される。更にその内訳はリスクアセスメント、リスクマネジメント、リスクコミュニケーションである。今日、行政施策を含め、ほぼ定着した考えと言って良い。
第二は、リスクアナリシスが前提にされて、トレーサビリティ(追跡可能性)をフードチェーン総体に位置づける。ここでは新山流図解が豊富で、説得的だ。
BSE発生の後に一時、食品の経歴と経路、つまりトレーサビリティを知れば万全だという考えが急激に広がった。ではそのコストは誰が払うのかが、追っかけ議論になるという体たらくであった。今回の著書はここを一層説得的にした。
例えば特殊な牛肉である。一頭の経路過程が精肉化過程で、不可避的にロットという塊に紛れかねない。よほどのことをシステム化しないと、把握不可能なことが判る。
第三は、昨年7月発足の食品安全委員会の法令・仕組みを点検して、如何に不十分かを解説していることだ。発足したばかりで、拙速・酷評ではないかとする同情論に付かない。
特徴は以上だが、難点もある。政府委員会については、活動事例の点検がある方がいい。産直事業原則は「顔の見える関係」だが、そこで起きた不祥事件は安全神話だったからこそ、その厳しい事例点検が欲しい。
また遺伝子組み換え食品を巡る論争について、「危害完全排除」論で済むものかどうか。こういう議論の進行過程にもメスを入れて欲しいものだ。(2004.6.25)