幕末・明治維新期から2000年までのほぼ一世紀半にわたる農業・食糧・農民問題の推移を日本資本主義の生成・展開と関連させて系統的に分析した「日本の農業百五十年」である。
食料・農業問題を歴史の中から考えるわが国では初めての農業150年史である。
本書が対象としているのは、「開国」と封建制の廃棄のもとでの資本主義経済の構築に踏み出す19世紀中葉(幕末・明治維新期)から経済大国化した日本が市場原理主義と世界貿易機関(WTO)体制のもとで、巨大多国籍企業を基軸に経済構造を再編しつつ世界市場への参画を一段と強めていく2000年までの、ほぼ一世紀年にわたる。
この間日本資本主義経済はどのような国際関係のもとで成長展開したのか。そのもとで農業、食料、農民、地主たちはどのような状況におかれどのような農業、食料政策が展開され、どのような農業・農民・食料・農村・環境問題が生じたのかを歴史的段階を追い、資本主義経済の構造・展開と関連させながら体系的に明らかにしたのが本書の特色である。
第一章は「近代日本への出発」、第二章「日本資本主義の確立」、第三章「独占段階への移行」、第四章「世界大恐慌から戦時体制へ」、第五章「占領下の日本資本主義の再編成と農地改革」、第六章「高度経済成長の展開」、第七章「低成長への移行と経済大国下の農業小国化への道」で構成されている。
日本資本主義の生成・展開と関連させて系統的に論じた唯一の農業通史。
日本はいまや経済大国化の反面、極度の農業小国化の道を突き進んでおり、今や農業は日本経済のなかでマイナーな存在になっている。
他方日本は世界最大の農産物・食料輸入大国となり、食料自給率は40%に低落している。
「農業鎖国はもう避けられない」と小泉内閣の「農業改革」は戦後農政の全面的な見直しに着手している。財界は「日本には農業はいらない」といわんばかりに攻撃をかけている。米「改革」から農地制度「改革」へ、農協改革から農委、普及制度改革まで、戦後農政の総決算が進められている。
この農業危機を打開するために資本主義の発展過程で日本の農業と農民が培ってきたものから学ぶところは大きい。
日本農業150年の歴史から学ぶ上で、本書はタイミングのよい労作である。
(有斐閣―東京都千代田区神田神保町2−17。本体価格2800円+税)。 (2004.7.6)