農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 桐原章 JA鹿児島中央会経営企画課
  「志せ、営農の復権」
  全国農業協同組合中央会
定価 \1,200(税込)
電話 03-3245-7555
(JA全中 水田・営農ビジョン対策室)
「志せ、営農の復権」

本書は営農指導事業改革の実践事例集

桐原章氏
昭和36年鹿児島県生まれ。東京農業大学農学部卒業。58年現JAかごしま入組、62年現JAそお鹿児島入組、信用・共済複合渉外担当総合企画室企画担当、平成10年農家対策特別班所属、14年農産部営農企画課、16年県中央会出向。

「改革」をテーマにした著書や資料は、時節柄多くを目にしますが、そのほとんどが「あるべき論」を中心にかかれていることが多いようです。特に営農指導事業改革についての議論は、「神学論争」になりがちで、即実践に応用するには、不向きなような気がします。
 本書は、そのようなこれまでの本とは少し異なった視点、つまりJA改革を成し遂げるには、「意識改革」が重要だとして、その手順を示しています。時折「ワンポイント・アドバイス」や「各種調査結果」を交え、読むものを飽きさせない著者ならではのスパイスを散りばめ、「意識改革」のステップ・アップステージに沿って書き進められています。
 一見、JAハートランドというバーチャルなJAでの出来事として書かれていますが、実は、著者が改革に取り組むJAの苦悩を見聞きした体験を基に構成されています。
 したがって、物語形式で登場する職員の発言や会議の設定が、親近感をもって大変面白く読むことができます。読み進んでいくと、思わず「にやり」としてしまう場面がいくつも登場してきます。

◆改革は現実を知ることから始まる

 私は、著書のなかで紹介されている「農家対策特別班=(TAF)」に所属していました。発足当初、組合員と組合(=職員)とのギャップの原因を、直接出向いて聞き取ることを行いました。
 営農指導事業に関する結果は、著書にある組合員アンケート調査結果とほとんど同じ、すなわち「組合員がJAに最も必要だと思う事業は営農指導事業、ところが満足度が低い」。そして、担い手農家・大規模農家・法人農家ほどこの傾向は強く、今のところは、「期待の裏返し」と受け止めてよいのかもしれませんが、近いうちの「JAに愛想をつかす要因」になる危険性をはらんでいることを実感できました。
 そのような事態になる前に、時の組合長(現県中央会川井田会長)の号令のもと、緊急課題として「組合員満足度」を高めようと実践してきたのが「TAF」なのです。TAFは営農指導事業の一環だと言えますし、改革のひとつの姿であると考えています。

◆JAにとって最後の砦が営農指導事業

 私はTAFを卒業後、営農指導事業改革に携わってきました。この改革に当たっても、実態を知ることからはじめました。少し具体的に紹介すると、組合員の思いは(1)営農指導員が巡回して来ない(2)営農指導が物足らない(3)経営指導を充実して欲しい(4)情報が欲しい。それに対する指導員の回答は、(1)は、十分巡回してます。(2)は、充分指導してます。(3)は、やっています。(4)は、伝えています、と不思議な結果でした。
 まず二人の指導員の日報をサンプルとして集計してみると、意外と巡回指導件数が少ないことが判りました。次に、思ったように巡回できない理由を調査すると、(1)選果場など現場に出向く、(2)生産部会の事務局業務が多忙、(3)多品目担当してるので会議が多い、など。
 そこで、私のJAでは、指導員に対しこれらの巡回阻害要因をできるだけ排除するのでとにかく巡回を優先してほしい、そして、その結果報告を必ずやってくれと義務づけました。これを集計すると、表1のような結果でした。指導員自身もこんな集計はやったこともなかったし、まさかこんな結果がでるとは思っても見なかったようです。

平成15年度営農指導員巡回訪問実績表抜粋

◆目標管理をやらねば組合員満足度は向上しない

 これが、私どものJAで実態調査をやった結論です。そこで、営農指導員の目標管理手法を、何とか軌道に乗せようと奮闘中です。
 まさしくJAハートランドの建設です。著書は副題にあるとおり「JA改革への仕掛け」の手順を示しています。繰り返しますが、それは「意識改革」の手順です。是非一読をお勧めします。読み進むには難しくない本です。考えながら読む本です。全国のJAが悩む共通項とその解決に向けてのヒントが隠されている一冊です。
 最後に、この本を読んだ今、私の考える営農指導員の目標管理に対する姿勢です。(1)営農指導員の目標管理はすなわち組合員の目標管理、(2)営農指導員は管理される側ではなく実は管理する側だった、(3)営農指導員の業務とは組合員とともに「夢」を実現することである、(4)経営指導とは組合員とともに「損益分岐点」を語り合うことである、(5)組合員は営農指導員を通じて組合員である幸せを実感する、(6)組合員の思いは営農指導員によって組合に伝えられる、(7)営農指導員に対する組合員の評価は販売事業・購買事業に映し出される、(8)組合員は営農指導員を待っている、(9)さあ出掛けよう組合員の元へ。
 今年は、25名の営農指導員が、目標管理に取り組んでいます。必ずや花が咲きそこには蝶が群れると信じています。

(2004.9.28)

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