農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》 先ア千尋 茨城大学地域総合研究所客員研究員
  『百姓が時代を創る』
  山下惣一・大野和興
七つ森書館(電話:03-3818-9311)刊
B6版238頁 1890円
『百姓が時代を創る』

日本に農業はいるの?

 土の人と風の人による日本農政への挑戦状。同時に、足元がぐらついているのに、それを直視せず、「食の豊かさ」を享受している多くの国民への警告の書。それがこの本を読んで感じたことである。「クモの糸にぶらさがっている豊かさからの解放、日本の貧困は外から見えない、小さい農業で食べていけることを誇りとすべきです。拡張主義の行き着くところは戦争です」。表紙に並ぶ文字も刺激的だ。
 本書は、一貫して農とくらしの現場から小説、エッセー、ルポルタージュを書き続けてきた土の人・山下惣一さんと風の人である元日本農業新聞記者で現在はフリーのジャーナリスト大野和興さんの対談集。林佳恵さんがきれいな装丁でまとめている。
 対談は「日本に農業はいるの?」という根源的な問いかけから始まる。小泉首相は農業の鎖国を解けと平然と言い、財界もマスコミも学者も、いや国民の多くが我が国に農業はいらないと考えているようだ。ここでは、金の切れ目がいのちの切れ目、農業をどう見るかで、その人の生き方、価値観が分かる、と答えている。

◆「小さな農業」を提唱

 対談はそれを皮切りに、村の戦後史、百姓という存在、人と土地と土、グローバリゼーションと農民と続き、戦後の政治や経済に翻弄されてきた農村、農業、農民の足跡をたどっていく。村の中にいて、百姓をしながら書く営みを続けてきた山下さんと、ジャーナリストとして全国だけでなく、東南アジアにまで視点を広げ、あちこちの具体的な事象の中から問題の本質を抉り出していく大野さんの掛け合いは、さながら一枚の布を織り上げていくのを見ているようだ。
 終章は「もうひとつの農業を考える」。田園風景は百姓がつくった、農は水もつくる、地場でつくり地場で食べる、農は楽しむもの、女の時代へ、農はあって食がある、食べ方で何かが変わる、上限を決める思想など等身大の農の姿を描き、最後は「農業は大きくしなくていいのです」と、小さい農業で食っていける農業の形、仕組みをつくり直していくことを提唱している。
 紹介したいことがいっぱいあるが、それは本書を読んでのお楽しみ。農と農業の現状を整理するいい材料になる。

(2004.12.24)

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