タイトルだけだと、福祉専門生協の事業理念と事業紹介だと直ぐにはわからないかもしれない。1980年代に生活クラブ生協が実践した「ワーカーズコレクティブ」という女性の新しい働き方が、ここでは鍵である。農業労働にかつてあった「結い」の現代化した姿だと思えば、とりあえず良い。だから等価交換以外に対価が伴う。本書にあまり触れられないが、時間当たり単価も実はある。
ともあれ、事業の実感に支えられて編集され刊行された。この事実から何を学ぶことができるか。
第1は、福祉生協設立の時期である。巻末資料に1988年1月の設立趣意書がある。「この協同組合は生活クラブ生協の支援と協力をいただきながら、日本の協同組合運動に新たな領域を開き、高齢化社会における協同組合のモデルのひとつになります」
もちろん、出資と協同扶助で創り出すと後段に触れる。驚きではないか。時期はバブル経済の頂点の頃だった。設立許可は、この年、9月27日だったという。
既存の組織(農協であれ、生協であれ)で展開しても良し。事実当時も今も、福祉専門組織というなら、むしろ社会福祉法人が良いとなりかねなかろう。そこを敢えて突破した意気に驚く。
第2はその事業内容である。具体的に紹介されているのでわかりやすいが、(1)宅配の共同購入システムで世話焼きワーカーズコレクティブが作業受託する、(2)家事介護ワーカーズコレクテイブが健康・医療ネットワークとして、家事代行、産前産後の世話、高齢者・障害者の介助を行なう、(3)デイサービスの利用施設ネットワークづくり。以上で組合員1.5万世帯、総事業高36億円強(04年度予測)である。
第3は、本文に収録された利用者、サービス提供者の記録の深さだ。そもそも個々の家庭事情と環境は千差万別である。しかも知られたくないプライバシーがあろう。執筆者全員で78名。そのうちから、ランダムに抜いてみる。
「70代の父親は頑固で[他人の世話にはならない]、[他人を家に入れるなんて]と反対でした」。それがケアを受け入れると、他ならない父が感謝するようになったという横浜市在住の女性組合員。
もうひとつの例。妻を病気で亡くした2児の父親。「たすけあいの活動がなかったら、私たち父子家庭はどんなだったろうかと考えずにはいられません」
ケアを受けて8年になる、同じ横浜市在住の男性組合員だ。
良い例が多いのは当然だ。反対になった例もあるのだろう。さもなくば、民間福祉サービス利用はゼロになる。国は競合競争を市場原理といって冷淡なのだから。福祉クラブ生協も、公的介護事業を含んでいる。
記録取材の目線の低さこそポイントだ。しかもワーカーズコレクティブ(WCO)という自主働き手集団に意味がある。パートとか、臨時労働とはいわない。農協にも直売所などに散見されるが、福祉事業などに大胆な導入があっても良かろう。