踏んばりどころと乗り越え方が見えて来る
「わたくし、がんなのよ」。
本紙1月20日号の第51回JA全国女性大会特集の中で、筆者がお話の聞き役になった吉武輝子さんは、昨年10月、検査の結果、大腸がんと診断されました。対談の日は、本年1月10日。その日、うかがった話の中に、こんなことばがあります。
「田畑を耕す女性の集まりであるJA女性部は、人間の潜在的能力をお互いに耕す組織であると思います」
本書によると昨年、11月13日長崎教職員組合の婦人部主催の平和集会で講演されて、2日後の15日入院。18日手術、12月6日退院。なんと3日後の10日「高齢社会をよくする女性の会」の寸劇に出演。17日長野県上田市で講演。20日、所属する神楽坂女声合唱団のディナーショーの舞台に。これらの約束事はすべて入院前に著者が自分で予定に入れたものです。術後の結果もわからぬのに、退院後の予定? と驚きと同時にいぶかしく思われることでしょう。
常人ではとても…の至難の技の秘密が本書であかされていきます。加えておきたいのは、なんと、膠原病、シェーグレン症候群から右肺は自然気胸。左肺には肺気腫をかかえておられるのです。人は何によって生きる活力を得ているのでしょうか。著者の場合は、まさしく「病みながら生きる」状態です。
『生きる。一八〇日目のあお空』には、いのちの瀬戸際をかい間見てきた人間の、逆転の、起死回生の姿勢、文字通り、姿の勢いが示されてあります。
絶体絶命の窮地から、1センチ、1ミリの踏みとどまり方。病いを受け止めながら、しなやかに精神のバネをたわめて、ジリジリと、いのちの力の根をひろげてゆかれる。医療チームと、患者の気持ちがひとつになる時、いのちもまた輝きをましてゆきます。
院内でのおしゃれ、ユーモア精神で楽しむ会話。ひとつの闘病記でもありますが、人が人と生きる基本が示され、大きな山の乗り越え方が、自然に伝授されてしまいます。わたしたちを取り巻く環境は、ますます困難になっております。死と向き合う究極の場で、発揮された「生命のジャンプ力」、本書を読了された方にも、いま以上に耕されることと思います。
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