農業協同組合新聞 JACOM
   


《書評》  (財)協同組合経営研究所元研究員 今野 聰
鈴木俊彦 著 『協同組合の軌跡とビジョン』

定価:1800円+税
発行所:農林統計協会
発行日:2006年9月22日

鈴木俊彦『協同組合の軌跡とビジョン』

 さる10月、第24回JA全国大会はさまざまな論議を呼びながら、ともあれ終わった。本紙もその特集版を編集。梶井功・東京農工大名誉教授が新たな農政改革に苦言を呈した。JAは安易にもたれるな、「百姓をいじめると、国は滅びる」と、農協運動の先輩の言を引用した。正に歴史的転換なのだと思う。こういう時期にドンピシャリ本書が公刊された。著者は『家の光』誌上他の取材・編集実務体験を基に鋭い発言をしてきた。それらの集大成である本書は3部構成である。特徴の第1は、「協同組合の軌跡」として、西洋、日本の協同組合史を万遍なく辿ったことだ。しかも源流として「明治・大正期」、「昭和初期」に遡ったこと。この10年ほど、現実には激変するグローバル経済に処することに必死だから、歴史を無視する風潮が強い。それに抗している。
 第2に、日本の各種協同組合の「戦後60年」を丁寧に追い、現状分析したことである。特に水産業と関係する漁業協同組合について、戦前からの沿革を触れた。学ぶところが多い。本来、食というなら海資源を無視して議論は進むはずもない。その意味では漁業協同組合と他の協同組合関係者との協同テーブルづくりはもっと盛んになって良い。
 第3は、協同組合の「ビジョン」に大胆に触れたことだ。本書の第3部「協同組合の将来展望」である。実に論点もここに集中していよう。「協同組合不要論」とか「協同組合20世紀化石論」がはびこっている。これに改めて論点を提出し、論陣を張った。著者のポイントは「協同の起点としての『地域』」にある。「2000年の協同組合」の提起者・レイドロウ博士他論者を紹介して、「地域」の力点を置く。常識的というなかれ。今大会も全国すべてのJAが地域に支持されるビジョンを策定しようと呼びかけているくらいだからである。
 第4に、ガルプレイス理論の復権である。農業生産者の「独占に対する拮抗力」理論である。スーパーマーケットの流通規制を巡る「70年代流通ビジョン」ではよく取り上げられた理論である。今や「拮抗力」理論も経済民主化に力にならないとして、不等に無視するからである。本紙の大会特集で言う「対抗軸の構築」である。
 ついでに言えば、巻末資料「協同組合の常識アラカルト」と膨大な文献紹介も、現場学習に役立つ配慮と言って良かろう。
 気づいたことを少し触れる。「生協60年」の項で、戦後3か月後、日本協同組合同盟(賀川豊彦会長)の結成に触れた部分。「協同組合による都市農村漁村協同体制の確立」を引用した。この文言からもわかるが、同盟設立リーダーの鈴木真州雄を思い出したい。戦前秋田県での医療組合運動の初期実践と旧満州での協同組合運動の反省があった。だから、統一協同組合運動を目指した。だが紆余曲折、彼は挫折した。戦後生協の母体になったのは事実だが、参考文献にある斉藤嘉璋『現代日本生協運動小史』でも、省略し過ぎの部分である。
 もうひとつ。「昭和47年には日生協と全農との間で協同組合提携全国研究集会」とあるが、正しくは「提携強化の覚書」締結である。合併したばかりの全農に、提携推進役の期待があってのことだった。同時に提携研究集会はこの年、全中と日本生協連との間でささやかに開始された。当時を思うと今昔の感がある。

(2006.10.30)

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